加賀電子富士通エレクトロニクスを約205億円で買収し、売上5,000億円級のグループへ

自社より大きい会社を、無借金の商社が借入で買う

時期 2018年9月
意思決定者(推定) 門良一 社長
論点 規模拡大と資金調達
概要
2018年9月10日、加賀電子は富士通セミコンダクターから富士通エレクトロニクスの株式70%を取得する契約を締結した。取得価額204億1,300万円にアドバイザリー費用等1億3,000万円を加えた総額は205億4,300万円で、2019年1月1日に子会社化した。
背景
買収対象の富士通エレクトロニクスは2018年3月期に連結売上高2,587億円と、当時の加賀電子(2,359億円)より大きい。半導体メーカーの再編と代理店政策の見直しが進むなか、加賀電子は中期経営計画2018で「我が国業界No.1企業」を掲げていた。
内容
株式は3段階で取得する契約で、2019年1月1日に70%、2020年12月28日に85%、2021年12月28日に100%とする建付けであった。資金は自己資金と新規のブリッジローンで賄い、創業以来の無借金経営は2019年3月期末の有利子負債325億円へと転じた。
含意
グループ売上高は5,000億円級に達したが、富士通エレクトロニクスの売上は買収当時の約2,300億円から翌年約1,300億円へ落ちた。大口仕入先の商権喪失と元親会社の構造改革が重なったためで、新規仕入先の開拓が統合後の主な仕事となった。
筆者の見解

値札に書かれていなかったもの

205億円という金額は、自社より売上の大きい会社を買う対価としては安い部類に入る。2018年3月期の富士通エレクトロニクスは売上高2,587億円に対して営業利益26億円まで細っており、値づけはその収益力を映していた。加賀電子が買ったのは利益ではなく、旧富士通系の販売チャネルと、設計から量産までわかる200人規模の技術者である。中期経営計画で掲げた業界No.1という言葉を、自力の営業ではなく他社の顧客名簿で実現しようとした選択といえる。

実際に手に入ったものは、想定より小さかった。買収の翌年、富士通エレクトロニクスの売上は約2,300億円から約1,300億円へ落ちている。仕入先の商権は買収契約で保証される種類の資産ではなく、元の親会社の構造改革も止められない。それでも加賀電子の連結売上高が2023年3月期に6,081億円へ届いたのは、消えた1,000億円分を埋める仕入先を、買われた側の技術者が探し直したからである。205億円の値札に、その4年間の手間は含まれていなかった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

商社が減っていく業界で

2010年代後半のエレクトロニクス商社は、仕入先の都合で数が絞られていく業界であった。加賀電子は買収の公表資料で、半導体・デバイスメーカーの再編統合と代理店政策の見直し、顧客による完成品組立ての海外生産シフト、需給と価格の変動、技術革新に伴う製品寿命の短縮を挙げ、多数の競合が残る商社業界の競争は今後さらに厳しくなると認識していると述べた。生き残る側に回るには、扱う商材と顧客の数をまとめて増やす必要があった[1][2]

加賀電子自身の規模は、2018年3月期で連結売上高2,359億円・営業利益81億円であった。2009年の金融危機以降、欧州拠点の新設や国内企業の買収を重ねてきたとはいえ、業界上位との差は残っていた。自力の営業で年に数百億円ずつ積む速度では、門良一社長が2014年の就任時に掲げた経常利益100億円にも届かない。規模を一段変えるには、既存の販売チャネルごと会社を買う以外の道が見えにくくなっていた[3][4]

売りに出た富士通の商社

相手方の富士通エレクトロニクスは、1952年5月2日設立、資本金48億7,800万円の電子デバイス商社で、株式は富士通セミコンダクターが100%持っていた。連結売上高は2016年3月期3,235億円、2017年3月期2,427億円、2018年3月期2,587億円と推移し、直近期でも加賀電子の2,359億円を上回る。ソシオネクスト製品の販売をはじめ旧富士通系の販売チャネルを抱え、社内には設計・開発・量産に対応する技術部隊を持っていた[5][6]

ただし収益力は落ちていた。連結営業利益は2016年3月期の61億円から2017年3月期37億円、2018年3月期26億円へと2年で半分以下になり、経常利益も59億円から22億円へ縮んだ。売上高2,587億円に対する営業利益26億円は、商社としても薄い水準である。富士通グループが半導体事業の整理を進めるなかで、売上規模は大きいが利幅の細った商社が市場に出てきた。加賀電子にとっては、値づけの下がった大型のチャネルであった[7]

決断

2018年9月10日、205億円の決議

2018年9月10日、加賀電子は取締役会で富士通エレクトロニクス株式の取得を決議し、同日付で富士通セミコンダクターと最終契約を結んだ。取得する株式は第一段階が18,641,972株で議決権所有割合70.0%、以後3,995,000株ずつ2回に分けて追加取得し、2021年12月28日の第三段階で完全子会社とする建付けである。取得価額は204億1,300万円、アドバイザリー費用等の概算1億3,000万円を含めた総額は205億4,300万円となった。日本経済新聞も同日、約200億円での買収として報じている[8][9]

資金の作り方は、創業以来の慣行から外れるものであった。加賀電子は対価を自己資金と新規のブリッジローンで賄うとし、その後に長期資金への切り替えを検討すると開示した。1968年の創業以来、賞与資金や配当資金を除いて固定預金を超える借入をしてこなかった会社が、買収のために借りる側へ回った。2019年3月期末の有利子負債は325億円と前年の3.8倍に膨らみ、無借金という条件はここで外れた[10][11]

「我が国業界No.1企業」という言い値

買収の効果として、加賀電子は3点を挙げた。第1に、両社の取扱商材と国内外の販売チャネルを相互に補完して電子部品・半導体でのシェアを広げること。第2に、加賀電子のEMS拠点網の上に富士通エレクトロニクスの顧客基盤を載せ、高付加価値型の受託生産を非連続に伸ばすこと。第3に、両社の販売関連組織と各種機能を最適化して収益性を上げることである。商材の重複ではなく、チャネルと生産拠点の掛け合わせに狙いを置いた説明であった[12]

門社長は、この買収で売上高5,000億円級の企業グループができ、中期経営計画で掲げた「我が国業界No.1企業」としての経営基盤を固めると述べ、さらに売上高兆円級の海外競合とも戦える会社をめざすと続けた。買収後も富士通エレクトロニクスの商号は当面そのまま残し、扱う商材も継続する方針を示している。子会社となった同社の代表取締役会長には、加賀電子の創業者である塚本勲会長が就いた。買った会社の経営に、創業者自身が入る形をとった[13][14]

結果

買った売上が、翌年に半分近く消えた

2019年1月1日、第一段階の株式譲渡が実行され、富士通エレクトロニクスは加賀電子の連結子会社となった。2019年3月期の加賀電子は連結売上高2,928億円・営業利益76億円・当期純利益80億円で、連結従業員数は前期の5,427名から6,627名へ増えた。子会社化が期末の3カ月前であったため、この期の売上高には対象会社の3カ月分しか入っていない。買収の効果が通期で表れるのは翌2020年3月期からである[15][16]

ところが統合の初年度に、買収した会社の売上が崩れた。加賀FEIの塚本剛社長によれば、買収当時およそ2,300億円あった売上は翌年およそ1,300億円へ減った。大口仕入先の商権喪失と、元の親会社での事業構造改革が重なったためである。1,000億円規模の売上が1年で消えた計算になる。代理店契約は買収契約で移せる資産ではなく、加賀電子が205億円で得たチャネルの一部は、引き渡しの直後に失われた[17]

仕入先を探し直した4年

埋め合わせは、買った会社の中の人が担った。富士通エレクトロニクスには目利きのできる技術者が200名を超えて在籍しており、新しい仕入先を探す動きが一気に速まった。加賀電子から専務として赴任した塚本剛氏は、門社長から「加賀電子らしい会社にするように」と指示を受け、2019年1月の初顔合わせで1年以内に全拠点を回ると宣言した。2月の静岡営業所から年末の韓国まで国内外を訪ねて回り、翌年からのコロナ禍を思えば着任1年目に全拠点を訪問できたのは幸運であったとも語っている[18][19]

統合の効果が数字に出たのは、買収から3年後である。加賀電子の連結業績は2022年3月期に売上高4,958億円・経常利益215億円・当期純利益154億円、2023年3月期には売上高6,081億円・営業利益322億円と過去最高を更新した。株式の取得は契約どおり3段階で進み、2020年12月に85%、2021年12月に100%へ引き上げられて完全子会社となった。買収の前に加賀電子が公表した「売上高5,000億円級」という規模は、対象会社の売上が半分近く落ちたにもかかわらず4年遅れで実現した[20][21]

出典・参考

免責事項およびポリシー