米金利急変が突いた連邦型の弱点──2期で純損失1,321億円の処理

2023年実施

出資先フォーティチュードの評価損に沈んだT&Dは、なぜ海外投資から退かずに持ちこたえられたのか

時期 2023年5月
意思決定者 上原弘久(社長)・森山昌彦(2023年6月に社長就任)
論点 金利急変で生じた評価損の処理と運用リスクの見直し
概要
2022年3月期と2023年3月期の2期にわたり、T&Dホールディングスは米金利の急上昇による評価損に見舞われた。太陽生命の外貨建て保険をめぐる負担と、出資先である米フォーティチュードの持分法投資損失が重なり、2023年3月期は純損失1,321億円と発足以降で最大の赤字に沈んだ。上原弘久社長はこれを一時的な評価損と読み、海外投資から退かずに持ちこたえる判断を選んだ。
背景
2021年3月期に純利益1,623億円と過去最高水準を記録した直後だった。低金利下で運用利回りを求め、太陽生命は外貨建て・変額の商品を、グループは米フォーティチュードへの出資という海外クローズドブック投資を、いずれも金利感応度の高いポジションとして抱えていた。金利が動けば損益が大きく振れる構造が積み上がっていた。
内容
2022年3月期に太陽生命セグメントが866億円の損失を計上し、翌2023年3月期には米金利上昇でフォーティチュードの持分法投資損失が2,000億円を超えた。上原社長は評価損を会計上の一時的なものと位置づけ、2022年3月に同社へ640億円を追加出資した。2023年6月に森山昌彦社長へ交代し、資本効率の改善へ舵を切った。
含意
評価損は一巡し、2024年3月期は純利益987億円で1期黒字復帰、2025年3月期は過去最高水準へ戻した。ただし、太陽生命の負担も海外投資の評価損も、金融市場の同方向の変動が単一連結に集中した事象だった。3社を並列に束ねる連邦型が、そろって動く相場にはリスクを相殺しにくい構造が残った。
筆者の見解

損失を確定させないという選択

この意思決定の核心は、損失を確定して撤退するのではなく、金利急変による評価損を一時的なものと読み切って持ちこたえた点にある。米金利の上昇で出資先の含み損は2,000億円を超え、連結は発足以降で最大の赤字に沈んだ。相場に押されて海外持分を投げ売れば、損失はその場で確定した。上原社長はそれを避け、むしろ追加出資で持分を保ち、翌期の反転を待つ側に賭けた。評価損の性格を市場変動由来の一時的なものと切り分けられるかどうかが、その賭けの前提だった。

もっとも、持ちこたえられたのは、金利上昇の影響が2年で一巡したからでもある。反転が遅れていれば、含み損の抱え込みは別の評価を受けただろう。そして、太陽生命の負担も海外投資の評価損も、金融市場の同方向の変動が一つの連結に集中して表れた点では同根だった。3社を並列に束ねる連邦型は独自性を守る枠組みだが、相場がそろって動く局面ではリスクが相殺されない。金利のある世界で運用の振れをどこまで束ねの内側で吸収できるか——この2期の赤字は、連邦型統合に残された宿題をはっきり指し示している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

連邦型統合と2021年3月期のピーク

T&Dホールディングスは2004年、太陽生命・大同生命・T&Dフィナンシャル生命の3社が共同株式移転で設立した上場持株会社である。合併して一つの会社になるのではなく、3社の販売基盤を並べたまま温存し、資本政策と運用だけを持株会社へ集約する連邦型の枠組みを選んだ。中堅生保がそれぞれの顧客基盤を手放さずに規模を束ねる、現実的な落としどころだった[1]

この連邦型の枠組みは、市場が味方するあいだは利益として結実した。2021年3月期には親会社株主に帰属する当期純利益が1,623億円と過去最高水準に達し、前期の671億円から2倍を超えて伸びた。コロナ下でも運用収益が寄与し、持株会社化から17年で3社連合の収益力はひとつのピークに届いたように見えた。だが、この好決算を支えたのは金融市場の追い風でもあった[2]

積み上がった金利感応度の高いポジション

生命保険会社の運用は、長い年月にわたって金利と為替に損益が左右される。長引く低金利のもとで運用利回りを確保しようと、太陽生命は円建ての国内資産だけでなく、外貨建てや変額の保険を厚くしていった。これらの商品は最低保証や責任準備金の負担が金融市場の変動に直結し、有価証券報告書によれば、市場が荒れると太陽生命の数字に負担が集中して表れる性格を帯びていた[3]

グループはさらに、低金利からの脱却を海外に求めた。2020年6月、T&Dユナイテッドキャピタルを通じて米フォーティチュード(バミューダ籍の再保険持株会社)の持分25%を取得し、海外の閉鎖契約ブロックを運用する事業を新たな柱に据えた。国内の逆ざやを海外の利回りで補う設計は、低金利下では合理的に映った。しかし金利が急に動けば、その海外ポジションがそのまま損失の源に転じかねない構造でもあった[4]

決断

2期で表面化した損失を、どう処理したか

追い風は2022年3月期に逆風へ変わった。太陽生命セグメントは単体で866億円の損失を計上し、金融市場の変動と外貨建て保険の責任準備金負担が数字に集中した。大同生命が1,227億円の利益で全体を支えたものの、持株会社の純利益は前期の1,623億円から141億円へ急落した。双頭体制の一方に損失が偏る事態が、連邦型のリスク配分の実像を映し出した[5]

損失はさらに大きくなった。2023年3月期は、米金利の急上昇で出資先フォーティチュードの評価損が膨らみ、持分法による投資損失は2,000億円を超えた。日本経済新聞は「米金利上昇に伴い、海外の持ち分法適用会社のFGH Parent」の「一時的な評価損などにより、2000億円超の持ち分法投資損失を計上」したと報じた。連結の経常損失は741億円、純損失は1,321億円に達し、持株会社発足以降で最大の赤字となった[6][7]

この局面で上原弘久社長は、評価損を会計上のミスマッチによる一時的なものと読み、海外投資から退く道を選ばなかった。むしろ損失が表面化する直前の2022年3月、フォーティチュードへ640億円を上限とする追加出資を決め、持分25%を保ちながら海外クローズドブックを将来の収益柱として抱え続ける姿勢を示した。相場に押されて持分を投げ売れば損失は確定する。上原社長は、確定させずに持ちこたえる方を採った[8]

経営の引き継ぎと資本政策の見直し

2023年6月、赤字決算の直後に上原弘久社長から森山昌彦社長へバトンが渡った。損失を吸収したうえで、森山体制は運用損益の振れに耐える体を整えることへ軸足を移す。株主還元では利益の50〜60%を配当と自己株式取得で戻す方針を掲げ、政策保有株式は2031年3月末までに業務提携先などを除いて残高ゼロにするとした。評価損の処理と並行して、資本効率の改善を経営の前面に据えた[9]

結果

一巡した評価損と、残った構造

判断は、まず数字に報われた。金利上昇の影響が一巡した2024年3月期、T&Dは経常利益1,598億円・純利益987億円と1期で黒字へ戻した。持ちこたえたフォーティチュードは損失の源から一転し、海外クローズドブック事業として第二の収益柱に育っていく。撤退せずに評価損を一時的なものと読み切った判断が、翌期の回復で裏づけられた形になった[10]

回復はその後も続き、2025年3月期は経常収益3兆7,304億円・経常利益1,986億円・純利益1,264億円と過去最高水準へ戻した。ただし、太陽生命の外貨建て負担も海外投資の評価損も、金融市場の同じ方向の変動が単一の連結数字に集中して表れた事象だった。3社を並列に束ねる連邦型は、個社の独自性を守る一方で、そろって動く相場にはリスクを相殺しにくい。その構造そのものは、黒字回復のあとも残った[11]

出典・参考