システナ配当性向目標の30%から40%への引き上げ
設備を持たない受託開発の会社は、稼いだ現金をどこへ置くか
- 概要
- 2006年10月期(第24期)から、株式会社システムプロ(現システナ)は配当政策の目標を配当性向30%から40%へ引き上げた。同期の1株当たり配当額は1,000円、配当性向は43.8%であった。
- 背景
- 2002年の上場時に掲げた目標は配当性向30%で、第20期から第23期までの実績も31.7%・30.4%・30.8%・32.2%と30%前後で推移していた。2004年3月の公募増資で23億6,600万円を調達し、自己資本比率は82.2%まで上がっていた。
- 内容
- 「安定的で継続性のある配当に配慮し、業績に応じて行う」という基本方針は保ったまま、目標水準だけを40%へ改めた。設備投資の軽い受託開発では、稼いだ現金の置き場所が株主還元と増員のどちらかに絞られる。
- 含意
- 40%の目標はその後の合併・社名変更・社長交代を越えて維持された。2015年3月期から「40%以上」の表現に改まり、自己株式の取得も還元策に加えられている。2026年3月期の年間配当は1株14円、配当性向44.2%であった。
約束を比率で置いた会社
この判断で目を引くのは、引き上げの幅よりも、約束の置き方であるように思われる。1株いくらという絶対額ではなく、利益に対する比率で株主への配分を定めておくと、業績が落ちた年には配当も減る代わりに、伸びた年には自動的に増える。事業の規模が20年で10倍以上に動いた会社が、同じ一文を毎期の有価証券報告書に載せ続けられたのは、約束の形が比率であったためとみることができる。創業者の逸見愛親氏が受注の七割を断って身の丈を選んだ会社が、株主との関係でも絶対額でなく比率を選んだ点は、どこか通じているようにも読める。
もっとも、利益の4割を先に外へ出す約束は、手元に残せる資金の上限を自ら定めることでもある。大型の買収や長期の自社商材開発に資金を厚く回そうとすれば、この約束が制約として効く。近年の配当性向が5割を超える期を含むことは、還元が利益の伸びに先行している状態を示している。成長分野への投資と40%以上の還元をどこまで両立させられるかという問いは、比率で約束を置いた時点から、この会社が抱え続けているものといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
上場時に掲げた目標は「配当性向30%」であった
2002年8月にナスダック・ジャパン市場へ上場した当時、株式会社システムプロが掲げた配当の目標は、利益の3割であった。第23期の有価証券報告書は配当政策として「各期の経営成績の状況等を勘案して、配当性向30%を目標に、株主への利益還元策を積極的に行ってまいります」と記している。実績もこの水準に沿って推移した。第20期31.7%、第21期30.4%、第22期30.8%、第23期32.2%で、いずれも30%台前半に収まっている[1][2]。
3割にとどめた理由も、同じ配当政策の欄に書かれている。手元に残す資金は「今後の事業拡大による従業員等の増加及び開発環境の強化に備えるために有効に利用してまいりたい」ものとされた。受託開発の会社にとって、増員は工場を建てることに相当する。技術者を採り、育て、席と機材を用意するために現金が要る。上場から数年のシステムプロは、稼いだ利益の7割を、この増員のための備えとして手元に置く立場をとっていた[3]。
使い切れない自己資本
ところが、備えの資金は増員の速度を上回って積み上がった。2004年3月25日の有償一般募集で2,500株を発行し、資本金と資本準備金を合わせて23億6,600万円を調達している。第19期に52.9%だった自己資本比率は、第22期に85.9%、第23期に82.2%へ上がった。従業員数は第21期262名から第23期440名へ増えたが、人を増やすだけでは調達した資金と積み上がる利益を使い切れなかった[4][5]。
利益そのものも伸びていた。連結売上は2003年10月期の24億6,000万円から2005年10月期に42億円、2006年10月期には59億2,000万円へ拡大し、同期の営業利益と経常利益はいずれも10億円規模に達した。携帯電話の2Gから3Gへの世代交代がもたらす端末ソフトの再開発需要が続いていた時期にあたる。設備も在庫も抱えない受託開発では、利益がそのまま現金として残る。2005年10月に東証一部へ指定替えされ、株主の顔ぶれも上場当初から広がっていた[6]。
決断
第24期、目標を40%へ
2006年10月期の第24期から、配当政策の目標は書き換えられた。有価証券報告書の記載は「配当性向40%を目標に、株主への利益還元策を積極的に行ってまいります」となり、前期までの30%から10ポイント引き上げられている。基本方針そのものは変えていない。「安定的で継続性のある配当に配慮し、業績に応じて行う」という一文は前期と同じ文言で残された。改めたのは水準だけであった[7]。
実際の配当は、掲げた目標をさらに上回った。第24期の1株当たり配当額は1,000円で、配当性向は43.8%となっている。前期の800円には東証一部指定の記念配当200円が含まれていたため、記念配当を除く普通配当としては600円から1,000円への増配にあたる。この期の配当は2007年1月30日の株主総会で決議された。同社は定款で毎年4月30日を基準日とする中間配当も定めており、年に二度株主へ配る枠組みはこの時期から用意されていた[8][9]。
結果
20年を越えた目標
40%という水準は、その後の会社の姿が変わっても書き換えられなかった。2010年4月のカテナ吸収合併で売上規模は10倍近くに膨らみ、同年7月に商号は株式会社システナへ改まり、2016年3月には創業者の逸見愛親氏が会長へ退いて三浦賢治氏が社長を継いだ。それでも有価証券報告書の配当政策は、毎期「配当性向40%を目標に」の一文を載せ続けた。売上が59億円の会社と800億円の会社で、同じ比率の約束が通用したことになる[10][11]。
表現は二度手を加えられている。2015年3月期の有価証券報告書から目標は「配当性向40%以上」となり、あわせて「自己株式の取得につきましても、財務状況や株価の推移などを勘案しつつ、利益還元策の一環として機動的に行ってまいります」の一文が加わった。翌2016年3月期には基準が「連結配当性向40%以上」へ改まり、剰余金の配当等を株主総会でなく取締役会の決議で行える旨を定款に定めている。目標の水準を保ったまま、還元の手段と決め方を広げた形であった[12][13]。
比率で約束することの帰結
直近の実績は、目標の40%を上回って推移している。株式会社システナが公表する株主還元方針によれば、年間配当は2023年3月期の1株8円から、2024年3月期10円、2025年3月期12円、2026年3月期14円へ増え、配当性向はそれぞれ42.4%、53.6%、51.8%、44.2%であった。利益の伸びに配当が追いつかない期には比率が5割を超え、追いついた期には4割台へ戻る。比率で約束するとは、利益が振れた年に配当の絶対額でなく比率のほうを守る、という選択にあたる[14][15]。
残った資金の向け先も、当初から書き換えられた。第23期の有価証券報告書が挙げていたのは従業員の増加と開発環境の強化だけであったが、2025年3月期の記載は「今後成長が見込まれる事業分野への投資、自社商材の研究開発、事業拡大に伴う人材採用・育成の強化等」となっている。受託開発の増員に備える資金から、自社商材と成長分野へ投じる資金へ、手元資金の位置づけが移った。利益の4割を先に株主へ渡す前提のうえで、残り6割の使い道が変わったといえる[16]。
- 株式会社システムプロ 有価証券報告書(第23期・2005年10月期)
- 株式会社システムプロ 有価証券報告書(第24期・2006年10月期)
- 株式会社システナ 有価証券報告書(2015年3月期・2016年3月期・2025年3月期)
- 株式会社システナ 公式サイト「株主還元方針・配当」(https://www.systena.co.jp/ir/stock_info/return_policy.html)
- 株式会社システナ 公式サイト「システナのあゆみ(沿革)」(https://www.systena.co.jp/about/history.html)