アルバック純損失499億円を受けた創立以来初めての事業構造改革と、半導体・中小型パネルへの絞り込み

大型液晶テレビ向けの装置需要が消えたとき、何を畳み、どこに人と設備を残すか

時期 2012年4月
意思決定者(推定) 小日向久治 社長
論点 不採算事業の縮小と経営資源の再配分
概要
2012年4月26日、アルバックは国内グループで約700人の希望退職を募集し、中期経営計画を下方修正すると発表した。液晶パネルメーカーの投資抑制で装置受注が急減したことへの対応で、同社が創立以来初めて実行した事業構造改革にあたる。2012年6月期には構造改革費用247億38百万円を含む特別損失274億3百万円を計上し、当期純損失は499億84百万円に達した。
背景
2005年前後からの増産投資で連結売上高は2008年6月期に2,412億円まで伸びたが、その後は液晶テレビ需要の減退と太陽電池市場の失速が重なった。2012年6月期の受注高は1,522億21百万円と前期比35.5%減まで落ち、役員報酬カットや一時帰休といった緊急対策では固定費を吸収しきれなくなっていた。
内容
希望退職の関連費用49億円に加え、棚卸資産評価損84億90百万円・固定資産除却損60億52百万円・減損損失51億7百万円などを一括計上した。製品面では大型テレビ用パネル向け装置を縮小し、スマートフォン向け中小型パネル、有機EL、半導体へ資源を寄せた。同年8月には優先株150億円の第三者割当を決め、傷んだ自己資本を補った。
含意
2013年6月期も不採算製品の見直しで60億89百万円を追加計上して3期連続の赤字となったが、2014年6月期には当期純利益115億38百万円まで戻した。優先株1,500株は2015年7月までに全量を取得・消却している。FPD製造装置に偏っていた売上構成は、その後10年で半導体・電子部品側へ移った。
筆者の見解

削る決断と、残した種

この改革でアルバックが手放したものは、はっきりしている。国内グループの1割にあたる人員、大型テレビ用パネル向けの装置事業、マテリアル事業の不採算な製品と取引、そして周辺の子会社である。2年で300億円強の特別損失を一度に飲み込み、自己資本比率が14.8%まで落ちたところを優先株150億円で支えた手当ては、資本市場の助けを借りて時間を買う選択にあたる。創立から60年、初めての事業構造改革という表現が有価証券報告書に残っている点に、この会社にとっての例外性がうかがえる。

興味深いのは、削っていた年に次の柱の種が播かれていたことである。ロジック半導体向け装置の開発が顧客の打診から始まったのは2012年で、希望退職を募り274億円の特別損失を計上していた期と重なる。縮小の判断と、6年かかる開発への着手が同じ年に同居していた。損失計上の期に何を残したかは決算書には出てこないが、2020年代の売上構成の変化はその答えを遅れて示している。半導体・FPDへの集中と一言でまとめられる決断の中身は、削った項目の一覧よりも、削らなかった一件のほうに表れているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

拡張したまま迎えた需要の反転

アルバックは2004年の東証一部上場を挟んで生産能力を積み増し、連結売上高は2008年6月期に2,412億円まで伸びた。ところがリーマンショック後の売上高は2,200億円台で頭打ちとなり、収益のほうが先に痩せていった。2011年6月期は売上高2,320億円に対して経常利益14億41百万円、当期純損失87億6百万円で、装置1台あたりの採算が細っていた。生産能力は拡張期の水準のまま残り、稼働の落ち込みがそのまま固定費の重さとして表面化した[1]

2012年6月期に入ると受注そのものが崩れた。受注高は1,522億21百万円で前期から837億12百万円、35.5%の減少となり、売上高も1,968億4百万円へ15.2%落ちた。液晶テレビ向けの大型パネル投資が止まり、期待をかけていた太陽電池(PV)でも中国メーカーの過剰生産と欧州市場の低迷でメーカーの倒産が相次いだ。収益性の高いFPD製造装置の売上が減ったうえに開発要素の高い装置で追加原価が出て、営業損失63億84百万円、経常損失64億97百万円を計上した[2]

緊急対策で追いつかなくなった固定費

それまでの手当ては、あくまで既存の体制を保ったままの節約であった。同社は諸経費の削減と設備投資の抑制で固定費を圧縮し、韓国・台湾・中国での生産拠点充実と現地調達率の引き上げでコスト競争力を上げようとした。受注環境の悪化が続くと、役員報酬と管理職給与の一部カット、一時帰休といった緊急対策まで積み増した。それでも顧客からの値下げ圧力と円高、アジアの装置メーカーとの価格競争は緩まず、有価証券報告書は「現在の厳しい市場環境下において収益の確保が困難になった」と書いている[3]

損失は自己資本を直撃した。2012年6月期末の純資産は1年前から508億円減り、自己資本比率は28.1%から14.8%へ落ちた。2010年1月に74億円を増資して固めた資本の厚みが、1期で失われた計算になる。装置の受注は顧客の設備投資計画次第で数百億円単位で振れる。その振れ幅を吸収するだけの体力が、この時点で残っていなかった[4]

決断

約700人の希望退職と、下方修正した中期計画

2012年4月26日、アルバックは本体とグループの従業員を対象に希望退職を募ると発表した。対象は国内で約700人、全従業員の1割程度にあたる規模で、6月末までに削減し、関連費用49億円を特別損失として計上する内容であった。同じ日に中期経営計画も引き直し、2015年6月期の連結売上高目標を2,100億円へと従来計画から1,900億円下方修正し、営業利益率の目標も10%から8%へ下げた。掲げていた成長像を、需要の実勢に合わせて畳み直す発表であった[5]

人減らしと同時に、装置の品目そのものを入れ替えた。主力の液晶パネル製造装置のうちテレビ用の大型パネル向けを縮小し、需要が急増していたスマートフォンなど中小型パネルと有機EL向けへ経営資源を振り向ける。コスト面では2015年6月期までに海外生産比率を50%以上へ引き上げ、海外売上高比率も当時の60%から75%へ高める方針を示した。同社はこれを「事業構造改革第1弾」と呼び、資産と人員のシフト、固定費の大幅削減によるスリム化として説明した。単純化・共通化・標準化の3Sとグローバル化がその手段に置かれた[6]

損失の一括計上と、優先株での資本手当て

構造改革の値段は2012年6月期の決算に一度で載った。構造改革費用247億38百万円の内訳は、棚卸資産評価損84億90百万円、固定資産除却損60億52百万円、減損損失51億7百万円、希望退職者の募集に伴う特別加算退職金等47億30百万円などで、特別損失の総額は274億3百万円に及んだ。さらに繰延税金資産を取り崩したため、当期純損失は499億84百万円まで膨らんだ。連結従業員数は6,981名と前期末から897名減り、希望退職に応じた社員は6月30日付で退職した[7][8]

削った先で資本が薄くなる以上、その穴を埋める算段が要る。2012年8月13日、アルバックは1株1,000万円のA種種類株式1,500株を発行し、3メガ銀行などが出資するジャパン・インダストリアル・ソリューションズへ全株を割り当てて150億円を調達すると発表した。払込は9月28日に完了し、資金は財務基盤の立て直しと構造改革費用・研究開発費に充てられた。配当率は最初の2年9カ月が3.5%、以降4%で、普通株への転換には上限を設けた。中村孝男取締役は記者会見で「3年後に現金で全額償還することを考えている」と述べている[9][10]

結果

営業黒字と、3期連続の最終赤字

削減の効果は営業段階には表れた。2013年6月期は売上高が1,633億51百万円へ17.0%減ったにもかかわらず、営業利益61億15百万円・経常利益62億64百万円と黒字に戻した。ところがマテリアル事業で一部の不採算製品と取引を見直したため、棚卸資産評価損53億98百万円と遊休固定資産の減損損失6億91百万円、あわせて60億89百万円の事業構造改革費用が追加で載った。当期純損失は38億7百万円となり、最終損益は3期連続の赤字となった。年間配当も3期続けて見送られ、小日向久治社長の報酬は30%、取締役は20%のカットが決まった[11][12]

2年で積み上がった特別損失は300億円強に達した。小日向社長はこの決算見通しの発表で「大きな特別損失を伴う改革はひとまず全てやり切った」と述べ、特別損失の追加計上に区切りをつけた。同じ2013年6月には次の中期経営計画をまとめ、価値創造型ビジネスモデルの再構築、不採算事業の見直し、損益分岐点売上高の引き下げを基本方針に据えている。事業領域では「半導体及び電子部品製造装置」が成長を牽引するシナリオが敷かれた。同年10月には日本リライアンス株式会社の株式80%相当を株式会社高岳製作所へ譲渡し、周辺事業の整理も進めた[13][14][15]

黒字への復帰と、絞り込みの行き先

2014年6月期に数字が揃った。売上高1,738億78百万円(6.4%増)に対し、営業利益119億96百万円は前期比96.2%増、経常利益133億84百万円は同113.6%増、当期純利益は115億38百万円となった。受注高と売上高は中期計画の当初予想に届かなかった一方で、営業利益・経常利益・当期純利益はいずれも予想を上回った。売上規模を戻さないまま利益を出す体質へ切り替わったことが、この差し引きに表れている。優先株についても、2014年11月5日にA種種類株式500株、2015年7月3日に残る1,000株を取得して消却し、発行から3年を待たずに全量を解消した[16][17]

資源を寄せた先の輪郭は、10年ほどかけて売上構成に出た。2017年6月期にはFPD製造装置が売上高のおよそ50%を占めていたが、2021年6月期には24%まで下がり、半導体と電子部品の製造装置は15%から30%へ倍増した。この時期の伸びを引いたのは、最先端ロジック半導体向けの装置である。顧客からの打診でアルバックが開発に着手したのは2012年で、希望退職と損失計上を進めていた年にあたる。約6年をかけて2018年にメタルハードマスク工程対応装置の開発に成功し、2019年度に受注額の2割程度だったロジック向けは2022年度に半分近くまで広がる見通しとなった[18][19]

出典・参考

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