アルバック東証一部上場で集めた資本を半導体・FPD製造装置の生産能力へ積み増した資本政策
創業52年で得た公開市場の資金を、手元に置くか装置産業の増産能力に投じるか
- 概要
- 2004年4月20日の東京証券取引所市場第一部上場にあわせて有償一般募集500万株を発行し、同年12月にも400万株の公募増資を行った。4回の新株発行で資本金と資本準備金はあわせて214億円あまり増え、アルバックはその資金を半導体・FPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置の生産能力拡張に振り向けた。
- 背景
- 1952年に真空装置の輸入販売で創業した日本真空技術は、1990年代に韓国・中国・台湾へ拠点を広げ、2001年7月に商号をアルバックへ改めていた。2004年6月期の連結売上高は1,578億円、自己資本比率は29.0%で、アジアの液晶・半導体設備投資に応じる生産能力を自己資金だけで積み増すには余力が乏しかった。
- 内容
- 調達した資金は工場と事業の取得に配られた。2005年4月に富士通ヴィエルエスアイからFPD設備事業を譲り受け、同年12月に台湾へULVAC Taiwan Manufacturing Corp.を設立、2006年11月には愛知県春日井市に愛知工場を新設した。連結設備投資額は2006年6月期の167億円から2007年6月期の321億円へ跳ね上がった。
- 含意
- 連結売上高は2008年6月期に2,412億円まで伸びた一方、2012年6月期には当期純損失499億円を計上した。上場で厚くした自己資本を装置産業の周期のなかで生産能力に固定した判断は、拡大と減損の両方をもたらした。
214億円を、振れの大きい産業に預ける
2004年に決まったのは資金の集め方ではなく、集めた資金をどの産業の設備投資の周期に預けるかであった。4回の新株発行で得た214億円あまりは手元にも配当にも回らず、富士通ヴィエルエスアイから譲り受けたFPD設備事業、台湾の組立会社、春日井の愛知工場へ姿を変える。装置の受注は組立場所と人の数に上限を規定される以上、能力を先に持つ判断には理屈があった。分かれ目は、誰の設備投資に合わせて積んだかにあったとみられる。
同じ設備が、需要の向きによって正反対の意味を持った。連結売上高は2004年6月期の1,578億円から2008年6月期の2,412億円へ伸び、パネルとメモリの投資が続くあいだ、愛知工場も台湾の組立拠点も受注を取り切るための能力であった。その同じ資産が、投資の止まった年には稼働の当てのない固定費として残る。2012年6月期の当期純損失は499億84百万円に達した。伸びを作った資産と損失を作った資産のあいだに、違いはない。装置に替えた資本は、替えた先の産業の周期でしか戻らないとみることができる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
創業52年目の公開市場入り
アルバックは1952年に日本真空技術株式会社として設立され、当初は各種真空装置の輸入販売を業とした。1955年に大森工場を設けて国産装置の製造に移り、以後は真空ポンプ・スパッタリング装置などの装置メーカーとして事業を広げた。1990年代には韓国のULVAC KOREA、中国の寧波愛発科真空技術を相次いで設立し、1998年にはシンガポールと台湾新竹に拠点を置いている。2001年7月には商号を株式会社アルバックへ改め、海外で通用する「ULVAC」の名に社名を揃えた[1]。
上場前の財務は装置産業として厚いとはいえなかった。2004年6月期の連結売上高は1,578億円、経常利益は72億円、当期純利益は39億円で、自己資本比率は29.0%にとどまる。資本金は1992年6月の増資以来38億50百万円のまま据え置かれ、総資産2,006億円に対する純資産は581億円であった。同期の投資活動によるキャッシュ・フローは121億円の支出で、装置需要の伸びに合わせて工場を建てるには借入への依存が避けられない構成であった[2]。
アジアに寄った装置需要
2000年代前半の顧客はアジアに移っていた。液晶・プラズマの大画面テレビと携帯電話向けの中小型ディスプレイが増え、韓国・台湾・中国のパネルメーカーが基板サイズを一世代ごとに大きくしながら投資を続けた。半導体側でもフラッシュメモリやDRAMの新規ラインが立ち上がり、真空成膜装置の引き合いが重なった。装置は受注生産で、基板の大型化に応じて装置そのものも大きくなるため、組み立てと据え付けの場所を持たなければ受注に応じられない性格の商売であった[3]。
2003年7月には中国に愛発科真空技術(蘇州)有限公司を設けて本格的な生産工場を置き、韓国・中国・台湾・シンガポールに拠点が並んだ。しかし拠点の網が広がるほど、そこへ供給する装置をつくる能力の不足が目立つようになる。同じ真空技術を薄膜太陽電池の製造ラインへ応用する道も見えており、後年には台湾のネクスパワー・テクノロジーへ製造ライン一式を納入し、昭和シェル石油と量産技術の共同開発に入った。応用先が増えるほど、生産能力は先に用意しておく必要があった[4][5]。
決断
上場と年内2度の公募増資で214億円を集める
2004年4月20日、アルバックは東京証券取引所市場第一部に株式を上場し、同時にブックビルディング方式による有償一般募集で500万株を発行した。発行価格は2,200円、発行価額1,700円、資本組入額850円で、資本金は42億50百万円、資本準備金は61億1百万円増えている。翌5月19日にはオーバーアロットメントに伴う第三者割当として野村證券へ100万株を発行した。上場前の資本金38億50百万円は、この2回で89億50百万円へ倍増した[6]。
上場から8か月後の2004年12月7日、同社は2度目の有償一般募集に踏み切る。発行株数400万株、発行価格2,104円で、資本金と資本準備金がそれぞれ約40億円増えた。同月28日のオーバーアロットメント分47万7,500株を含めると、この年の4回の新株発行で資本金は134億68百万円に達し、資本金と資本準備金の増加額は合計214億円あまりとなった。1年のうちに二度公募を重ねた点に、資本を厚くしておこうとする意図が表れていた[7]。
資金を工場と事業の取得へ配る
集めた資本の使い道は、株主還元や手元流動性ではなく生産能力の取得に向かった。2005年4月に富士通ヴィエルエスアイ株式会社からFPD設備事業を譲り受け、同年11月には英Cambridge Display TechnologyからLitrex Corporationの株式を取得してインクジェット印刷技術を手に入れている。2005年12月には台湾にULVAC Taiwan Manufacturing Corp.を設立し、FPD製造装置を現地で組み立てる体制を置いた。装置の設計から組立までを顧客の近くに寄せる配置であった[8]。
国内では2006年8月に精密ステージを製造するシグマテクノス株式会社の株式70%を取得し、同年11月に愛知県春日井市へ愛知工場を新設した。愛知工場はFPD製造装置の生産能力拡充を目的とする拠点で、この年の連結設備投資額は321億9百万円と、前期の167億24百万円の倍に近い。真空関連事業だけで290億84百万円が投じられ、中国の電子機器製造装置用工場と一般産業機器製造装置用工場も対象に含まれた。増資で得た資本は、そのまま固定資産へ姿を変えている[9][10]。
結果
2,400億円への拡大と投資の積み上がり
売上高は上場を境に伸びた。2004年6月期の1,578億円から2005年6月期1,968億円、2006年6月期2,125億円、2007年6月期2,391億円と3期続けて増え、2008年6月期には2,412億円に達している。利益も2006年6月期の経常利益148億円、当期純利益81億円まで改善した。連結従業員数は2004年6月期の3,712名から2006年6月期には5,150名へ増えており、装置の受注に応じるための人と場所の両方が拡張されていた[11][12]。
設備投資はその後も高い水準で続いた。2008年6月期233億82百万円、2009年6月期195億67百万円、2010年6月期110億87百万円と、2006年6月期からの4期だけで900億円を超える。投資先はFPD・半導体向けの評価装置に加え、スパッタリングターゲット材料の製造工場、大型マスクブランクスの生産設備、部品用の表面処理設備と、装置本体の周辺へも広がった。装置を売る会社から、材料と部品まで自前で抱える会社への移行を、投資が先導した形であった[13]。
2012年6月期の損失と後始末
拡張した能力は市場の縮小に耐えなかった。2010年1月、同社は資本金を134億68百万円から208億73百万円へ74億円増資し、同年10月にはアルバックマテリアル株式会社を吸収合併してグループを整理する。それでも2012年6月期は売上高1,968億円に対して営業損益が63億円の赤字となり、当期純損失は499億84百万円に達した。液晶・半導体の設備投資が後退するなかで、抱えた生産能力が固定費として残った結果であった[14][15]。
損失の翌期から会社は投資の水準を落とした。設備投資額は2012年6月期の127億19百万円を最後に縮み、国内製造拠点の集約と海外子会社の再編が進む。2014年6月期には売上高1,738億円で当期純利益115億38百万円を計上し、収益は戻った。その後の同社はFPD向けの比重を下げ、2018年に最先端ロジック半導体のメタルハードマスク工程向け装置へ参入する。FPD製造装置の売上比率は2017年6月期の約50%から2021年6月期には24%へ下がった[16][17]。
- アルバック 有価証券報告書(2006年6月期・第102期)— 連結経営指標等の推移、発行済株式総数・資本金等の推移、設備投資等の概要
- アルバック 有価証券報告書(2007年6月期・第103期)— 沿革、設備投資等の概要
- アルバック 有価証券報告書(2009年6月期・2010年6月期・2012年6月期・2014年6月期)— 設備投資等の概要、連結業績
- 週刊東洋経済 2008年8月16日号「第2特集 激変! 太陽電池バトル」
- 週刊東洋経済 2022年6月25日号「発見!成長企業 【6728】アルバック 半導体製造装置でシェア独占 電子部品向け装置も急成長」