この上場を、増産資金の手当てとだけ読むのは早い。伊藤毅雄社長が理由に挙げたのは資金ではなく、フォトレジストで70%強、精製水酸化カリウムで90数%という寡占の立場に見合う社会的な責任であった。多数の顧客の企業秘密を預かり、製品が一つ狂えば翌日に数億円の損害を与えかねない事業を、非公開のまま続けることへの居心地の悪さが経営にあったのだろう。上場は資金の調達より先に、寡占という立場の申告であった。
もっとも、調達した資金を何に充てたかを、同社自身が語った記録は残っていない。伊藤毅雄社長が述べたのは寡占と責任であり、設備投資の計画額でも増資の使途でもなかった。上場した年の売上見込みは前期の430億円から370億円へ減少していた。資金基盤の確保という読みは、翌年の御殿場工場と米国法人という後の事実から遡って与えたものにすぎない。それでも、市況の谷で手を止めずに済む財布を持つことが、寡占を守る条件になっていたとはいえる。