株式公開は、多くの会社にとって資金を集めるための手続きである。加賀電子の場合、集めた資金より、開示そのものが持つ意味のほうが大きかったようにみえる。1986年2月の講演で塚本社長が投資家に語ったのは、扱う半導体の性能でも将来の市場規模でもなく、売掛金15日分・在庫1カ月分という自社の回転の速さであった。資金がないところから始まった会社が、資金の回し方を最大の説明材料に選んだところに、この公開の性格がうかがえる。
上場の効果は、目標時期の前倒しとなって早々に表れた。創業20周年をめどとしていた東証二部上場は2年早まり、その11年後には一部へ移った。もっとも、公開によって同社が背負ったのは資金だけではない。四半期ごとに帳簿を外に出す会社になった以上、無借金という規律も外から数えられる対象になった。有利子負債が325億円に達した2019年3月期、市場が見たのは規律の放棄ではなく、業界2位への買収資金であった。