第二次構造改革——モバイル過大投資の反動とアミューズメント機器事業の見直し

過去最高売上の翌期に55%の減益——成長市場への先行投資は、なぜ裏目に出たのか

更新:

時期 2012年3月
意思決定者 辻本春弘 社長 COO
論点 モバイル先行投資の反動と不採算事業の選択と集中
概要
モバイル・ソーシャルゲームへの先行投資が裏目に出て純利益が前期比約55%減となったカプコンが、2012年3月期決算で「第二次構造改革」を表明し、アミューズメント機器事業の縮小とモバイル事業の選択と集中を進めた経営判断である。
背景
2011年のビーライン・インタラクティブ・ジャパン設立や2008年のエンターライズ子会社化でモバイル領域へ投資を積み増したが、過去最高売上を記録した2012年3月期の翌期に純利益が急減し、投資の規模とタイミングが問われた。
内容
低収益のアミューズメント機器事業を縮小し、コンシューマ・オンラインゲーム事業とモバイルコンテンツ事業を統合して「デジタルコンテンツ事業」に改称。2017年9月には子会社カプコン・モバイルを吸収合併し、モバイル機能を本社開発体制に統合した。
含意
連結売上高は縮小したが、コンシューマゲームに集中した中核事業の収益性はむしろ改善し、営業利益率16.5%への回復が、のちに12期連続で続く営業増益の出発点になった。
筆者の見解

二度目の構造改革が示したもの

「第二次」という名称が示す通り、これはカプコンにとって最初の構造改革ではなかった。2003〜04年の第一次構造改革が開発と販売の管理体制を整える「守り」の改革であったとすれば、2012年のそれは成長市場への投資が裏目に出たことへの、痛みを伴う選択と集中であったとみることができる。過去最高売上を更新した期の翌期に55%の減益を経験するという急落は、成長領域への投資が本業であるコンシューマ事業を揺るがしかねないという危うさを同社に突きつけた。

皮肉なことに、ここで切り離したモバイル領域の教訓が、数年後にRE ENGINEという別の技術投資へ同社を向かわせた面もあるように思われる。投資の失敗を財務の傷が浅いうちに認め、事業の的を絞り直せたかどうかが、後年の12期連続増益という結果につながった一因ではないか。創業者が説いた「身の丈経営」という言葉は、この時にこそ試されていたようにうかがえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

モバイル先行投資の反動

2011年4月のビーライン・インタラクティブ・ジャパン(後のカプコン・モバイル)設立と、2008年11月のエンターライズ子会社化を通じて、カプコンはモバイル・ソーシャルゲーム領域への投資を積み増していた。2012年3月期の連結売上高は821億円、経常利益118億円、純利益67億円で過去最高を更新した一方、モバイル領域への先行投資は利益率の圧迫要因として表面化していた[1][2]

翌2013年3月期には親会社株主に帰属する当期純利益が30億円へ前期比約55%の減益となり、モバイル事業の収益化の遅れと一部タイトルの計画未達が業績の不安定性を浮き彫りにした。スマートフォンの普及で世界のゲーム市場の中心が家庭用ゲーム機からモバイル端末へ急速にシフトする中、投資の規模とタイミングの見極めが経営課題として突きつけられた[3]

決断

アミューズメント機器の縮小とモバイル機能の統合

2012年3月期決算でカプコンは「第二次構造改革」を表明し、低収益事業の抜本的な見直しと事業ポートフォリオの再構築に着手した。柱はアミューズメント機器事業(パチスロ機器など)の継続的な見直しと、モバイル・ソーシャルゲーム事業の選択と集中の2つであった。アミューズメント機器事業は2018年3月期に営業損失7億円を計上するなど安定性を欠く構造が続き、2019年3月期には売上34億円・営業損失27億円まで縮小して事業ポートフォリオ上の存在感を薄めた[4]

同時にカプコンは、それまでコンシューマ・オンラインゲーム事業とモバイルコンテンツ事業に分かれていた区分を、2013年3月期から「デジタルコンテンツ事業」として一つに統合した。統合後セグメントの営業利益は2012年3月期の128億円から2013年3月期の事業計画で77億円へ下方に見込まれており、モバイル領域の負荷を可視化したうえでの組織再編であった。2017年9月には子会社の株式会社カプコン・モバイルを吸収合併し、グループ内のモバイル機能を本社開発体制へ統合する流れを固めた[5][6]

結果

コンシューマ事業への回帰と収益構造の変化

連結売上高は2014年3月期の1,022億円から2015年3月期の643億円へ縮小したが、これは事業ポートフォリオの整理と会計区分の変更を反映したものであり、コンシューマゲームに集中した中核事業の収益性はむしろ改善した。2015年3月期の営業利益は106億円、営業利益率は16.5%となり、低収益事業の整理によって本業の収益率が浮かび上がる構造に転じた[7]

連結売上高の縮小と裏腹に、2015年3月期の営業利益率16.5%は、その後12期連続で続く営業増益の出発点になった。低収益事業を切り離しコンシューマゲームに集中させたこの体制は、数年後に投入される自社開発エンジンRE ENGINEとデジタル販売シフトを受け止める土台になった[8]

出典・参考
  • カプコン 有価証券報告書(2012年3月期・連結)【沿革】
  • カプコン 有価証券報告書(2013年3月期・連結)【沿革】
  • カプコン 有価証券報告書(2015年3月期・連結)【沿革】
  • カプコン 有価証券報告書(2018年3月期・連結)【沿革】
  • カプコン 有価証券報告書(2019年3月期・連結)【沿革】
  • カプコン 有価証券報告書(各期・連結)【沿革】
  • カプコン「2013年3月期 事業戦略および計画」