必要なものしか買わなかった、という伊藤雅俊氏の一言は、バブル期の経営としては地味に響く。しかし1972年の講演で、日本のチェーンストアの資金が商品ではなく不動産へ流れることを『チェーン経営の大きな問題点』と名指していた人物が、20年後に同じ理由で投資話を断っている。含みを持たない財務は、好況のあいだは弱点と呼ばれ、資金効率の悪さとしても批判された。それを20年変えなかったところに、この判断の芯がある。
現金を厚く持つこと自体が競争力になったわけではない。2002年2月期に5,500億円規模の手元現金を保てたのは、営業活動から1,984億円を稼ぐ本業があったからで、順序は逆にならない。伊藤雅俊氏が掲げた連結15%という株主資本利益率の目標も、前期の実績は12%程度にとどまっていた。含みを追わない財務が、地価の反転したときに会社を守る側で働いたことは数字に表れている。それが成長を生む側でも同じだけ働いたかどうかは、この時期の計数からは読み取りにくい。