サンリオ1993年満期ワラント債2億ドル発行:設備資金の名目で集めた546億円を有価証券で運用した選択

更新:

時期 1989年7月
意思決定者(推定) 辻信太郎 サンリオ 社長
論点 エクイティファイナンスで集めた資金をどこへ置くか
概要

1989年7月13日、1993年満期米貨建分離型新株引受権付社債200,000千米ドル(24,602百万円)を発行した経営判断。1986年7月から1987年4月にかけて発行した無担保転換社債3本300億円と合わせ、社債の発行総額は546億円に達した。いずれも資金使途は設備資金と記されたが、集まった資金の多くは有価証券と特定金銭信託へ向かい、1991年3月末の連結では有価証券106,598百万円と特定金銭信託97,283百万円を抱えた。同じ期の連結売上高1,241億円を上回る規模である。

背景

転換社債とワラント債は、株価が上がり続ける限り株式に転換され、返さなくてよい資金になる。第一回転換社債の利率は年2.200%、第二回と第三回は年1.800%で、転換価格は5,582円10銭と4,827円50銭に置かれた。転換が進むたび資本金は膨らみ、1989年7月末の16,717,931千円が1991年3月末には36,827,516千円へ、1年8か月で2.2倍になった。1988年12月にはグループの金融会社として光和ファイナンスを設立し、運用を担う器も整えている。

内容

集めた資金は本業の外で回った。1989年7月期の連結では、営業利益6,511百万円に対して受取利息3,162百万円・受取配当金6,444百万円・有価証券売却益7,678百万円が積み上がり、経常利益は12,011百万円と営業利益の1.8倍に達した。運用益が本業の利益を上回る構図である。並行してサンリオピューロランドとハーモニーランドの建設が進み、有形固定資産は1991年3月末に91,163百万円へ膨らみ、同期の支払利息は18,841百万円まで増えた。

含意

株価が反転すると、同じ構図が逆に働いた。1991年3月期の連結は営業利益6,140百万円を確保しながら、有価証券評価損12,899百万円と支払利息18,841百万円に押されて経常損失4,330百万円、当期純損失5,656百万円。 翌1992年3月期は有価証券評価損24,299百万円と売却損2,497百万円が重なり、経常損失37,077百万円・当期純損失35,418百万円を計上して、期首に18,465百万円あった連結剰余金は17,890百万円の欠損金へ転じた。最終赤字は1998年3月期まで8期続く。

筆者の見解

設備資金という名目の行き先

設備資金という名目は、嘘ではなかった。ピューロランドもハーモニーランドも実際に建ち、有形固定資産は1991年3月末に91,163百万円へ積み上がっている。だが集めた546億円が施設に変わるまでには時間があり、その間の資金は有価証券と特定金銭信託に置かれた。1991年3月末の残高は合わせて2,038億円で、同じ期の連結売上高1,241億円を上回る。キャラクターの版権で稼ぐ会社の貸借対照表が、いつのまにか運用会社のそれに近づいていたとみることができる。

もっとも、重いのは代償が8期続いたことのほうであろう。1992年3月期に計上した有価証券評価損242億9千9百万円は、その期の営業利益42億4千万円の5.7倍にあたる。本業は黒字を出し続けていた。1993年3月期も1994年3月期も営業利益は黒字で、それでも最終赤字が消えなかったのは、評価損と支払利息が本業の稼ぎを上回り続けたからである。転換社債は株価が下がれば株式に転換されず、社債のまま償還期限を迎える。返さなくてよいはずだった資金が、返さなければならない借金として残ったのではないか。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

資金調達と運用の条件

科目 概要 備考
第一回無担保転換社債 10,000百万円 1986年7月31日発行。利率年2.200%、償還期限1992年7月31日、使途は設備資金
第二回無担保転換社債 10,000百万円 1987年4月28日発行。利率年1.800%、償還期限1996年7月31日、使途は設備資金
第三回無担保転換社債 10,000百万円 1987年4月28日発行。利率年1.800%、償還期限1995年7月31日、使途は設備資金
米貨建分離型新株引受権付社債 24,602百万円 1989年7月13日発行。200,000千米ドル、利率年4.125%、償還期限1993年7月13日
社債の発行総額 54,602百万円 1989年7月末の未償還残高は53,764百万円。4本とも担保はなく、使途は設備資金
転換価格 第一回5,582円10銭、第二回と第三回は4,827円50銭 1989年7月14日以降の転換価格と資本組入額は、ワラント債の発行により調整された
新株引受権の行使価額 4,223円 1991年3月末の未行使残高は9,860,068千円(69,880千米ドル)。2億ドルの35%
資本金(1989年7月31日) 16,717,931千円 1984年8月1日の公募増資以後、増加はすべて転換社債の株式転換によるもの
資本金(1990年3月31日) 29,555,502千円 転換社債の転換で8,536,254千円、新株引受権の行使で4,301,316千円が増えた
資本金(1991年3月31日) 36,827,516千円 転換社債の転換で2,391,328千円、新株引受権の行使で4,880,684千円が増えた
有価証券(1991年3月31日) 106,598百万円 連結。1年前は87,159百万円。低価法を採用している
特定金銭信託(1991年3月31日) 97,283百万円 連結。バスケット方式原価法。有価証券と合わせ資産合計442,181百万円の46%
有価証券評価損(1991年3月期) 12,899百万円 連結の営業外費用。同じ期に有価証券売却益10,170百万円を計上している
有価証券評価損(1992年3月期) 24,299百万円 連結。ほかに有価証券売却損2,497百万円。経常損失37,077百万円の主因
株式評価損(1992年3月期・単体) 21,019百万円 低価法による。単体の経常損失は26,491百万円、当期純損失は25,988百万円
支払利息(1992年3月期) 18,097百万円 連結。社債利息408百万円は別。1990年3月期は8か月で6,881百万円だった

出所:サンリオ 有価証券報告書 第27期(1987年7月期)〜第33期(1993年3月期)【資本金の推移】【株式の総数等】【社債明細表】【連結貸借対照表】【連結損益計算書】

サンリオ:連結の売上高と利益の推移

(百万円) 売上高営業利益経常利益当期純利益 備考
1984年7月期 手元の連結有価証券報告書は第27期(1987年7月期)が最も古い
1985年7月期 連結損益計算書を確認できていない
1986年7月期 連結損益計算書を確認できていない
1987年7月期 77,70710,8494,867 営業利益は連結損益計算書を確認できていない
1988年7月期 84,6345,96811,4255,588 有価証券売却益8,136、有価証券評価損2,808
1989年7月期 95,0856,51112,0116,058 7月にワラント債を発行。有価証券売却益7,678、受取配当金6,444
1990年3月期 74,3725,1446,6452,603 決算期を7月から3月へ変更。1989年8月からの8か月決算で前後と長さが違う
1991年3月期 124,1936,140△4,330△5,656 有価証券評価損12,899、支払利息18,841。連結赤字はここから8期続く
1992年3月期 131,4804,240△37,077△35,418 有価証券評価損24,299と売却損2,497。剰余金が17,890の欠損金へ転じた
1993年3月期 114,2205,379△4,721△5,585 有価証券評価損2,225。テーマパーク2社と光和ファイナンスが欠損
1994年3月期 102,4901,193△3,344△4,398 欠損金は期末に27,532へ積み上がった
連結売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:サンリオ 有価証券報告書 第27期〜第34期(連結損益計算書、企業集団の業績等、連結剰余金計算書)

同じ問いに直面した会社

資金調達1991年東海旅客鉄道借り受けから自社保有への切り替えによる経営自主権の確立新幹線施設の保有形態と経営自主権
1992年イトーヨーカ堂バブル期の不動産投資に乗らず、手元現金を積み増した守りの選択財務規律と資本政策
1989年THK公開市場からの資金調達に踏み切り、世界市場を狙う体制づくり資本政策と世界市場でのシェア確保
1989年山水電気株式51%の引き渡しによる経営権の移転と、外資傘下入り資本と再建
1994年三洋証券系列ノンバンクの債務保証を抱えたままの、増資と劣後ローンによる延命系列ノンバンクの不良債権処理と自己資本の維持
出典・参考
  • サンリオ 有価証券報告書「第29期(1989年7月期)【資本金の推移】【株式の総数等】【社債明細表】」
  • サンリオ 有価証券報告書「第29期(1989年7月期・連結)連結損益計算書」
  • サンリオ 有価証券報告書「第31期(1991年3月期)【資本金の推移】【沿革】」
  • サンリオ 有価証券報告書「第31期(1991年3月期・連結)連結貸借対照表・連結損益計算書」
  • サンリオ 有価証券報告書「第33期(1993年3月期・連結)連結損益計算書・連結剰余金計算書」
  • サンリオ 有価証券報告書「第34期(1994年3月期・連結)連結損益計算書・企業集団の業績等」
  • サンリオ 有価証券報告書「第39期(1999年3月期・連結)企業集団の業績等」

免責事項およびポリシー