サンリオハローキティ依存の脱却:ハローキティ一本足のライセンス収益を複数キャラクターへ分散させた収益構造の組み替え

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時期 2021年5月
意思決定者(推定) 辻朋邦 サンリオ 社長
論点 キャラクター収益の分散と構造改革
概要

2021年5月、辻朋邦社長は2024年3月期を最終年度とする中期経営計画『未来への創造と挑戦』を公表し、組織風土改革・構造改革の完遂・再成長の種まきを三本柱に据えた。1995年以来の営業赤字を「第二の創業」の覚悟で受け止め、ハローキティ一本に偏った収益を、マイメロディ・クロミ・シナモロールなど複数のキャラクターへ分散させる転換に踏み込んだ経営判断。売上総利益に占めるハローキティの比率は計画初年度の2022年3月期に27.7%まで下がり、複数のキャラクターを組み合わせたミックスキャラクターが12.5%へ伸びた。

背景

2015年3月期に174億円あった営業利益は6期続けて縮み、2021年3月期は32億円の営業損失に沈んだ。国内物販と北米事業は恒常的な赤字で、収益はキャラクター一頭に寄っていた。辻朋邦社長は 『これまでサンリオは数あるキャラクターを生み出してきましたが、売上に占める比率でいうと、ハローキティが圧倒的』 と振り返り、 『この構造では、ひとたび起こったハローキティブームが過ぎ去ってしまうとほかに打つ手がなく業績が下降してしまいます』 と、ブームの波に業績が振られる構造を根本の課題に挙げた。売上総利益に占めるハローキティの比率は2015年3月期で69.9%、その前の2014年3月期は75.7%に達していた。

内容

三本柱それぞれに数値を置いた。組織風土改革では取締役を40〜50代、執行役員を30〜40代とする若返りを掲げ、2022年に社外出身の中塚亘氏・大塚泰之氏・齋藤陽史氏を常務取締役へ登用した。構造改革では商品SKUを60%削り、10以上の施策で国内物販を17億円改善し、米国の11億円の赤字を解消する目標を置いた。

再成長の種まきには構造改革投資20億円のほか、IP育成へグローバルで数十億円から100億円規模をパートナーと共同で投じる枠を用意した。キャラクター側では、1986年に始まったサンリオキャラクター大賞やSNSでの反応を商品開発の評価基準に組み込み、クロミやシナモロールをZ世代の支持につなげた。

含意

最終年度の営業利益目標30億円に対し、2024年3月期の実績は269億円と過去最高を更新した。ハローキティの構成比は同期に30.4%まで落ち、ミックスキャラクターは19.2%へ上がった。北米のセグメント利益は2021年3月期の11億円の損失から2025年3月期の88億円へ転じている。2024年5月に公表した次の中期経営計画は2027年3月期の営業利益400億円以上を掲げ、辻朋邦社長は 『キャラクターが持つ潜在能力は無限大です。IPのブランド戦略の強化により、売上の“山”が重なり支えあい、安定・永続成長サイクルにつなげられるでしょう』 と、キャラクターの束をそのまま成長の土台に置いている。

筆者の見解

増やしたのはキャラクターではなく育てる仕組み

複数キャラクター戦略と呼ばれたこの転換は、キャラクターを増やす話ではなかったように見える。450を超える絵柄は以前から手元にあり、足りなかったのは育てて売る仕組みのほうだった。SNSでの反応を商品開発の評価基準に据え、1986年に始まった人気投票を育成の物差しへ置き直したことで、どの絵柄に資源を割くかが個人の勘ではなく会社の判断として決まるようになった。ハローキティの比率が下がったのは、この一体の人気が落ちたからではなく、ほかの絵柄が同じ土俵に乗ったからだとみることができる。

もっとも、比率が散ることが業績の安定を保証するわけではない。2025年3月期にハローキティの構成比は35.3%へ戻り、周年施策の力がなお大きいことを示した。ミックスキャラクターも18.1%で頭打ちの気配がある。営業利益は2026年3月期に779億円まで伸びたが、この数字のどこまでが仕組みの成果で、どこからが周年とインバウンドの追い風なのかは、大きな周年の無い年に初めて分かるのだろう。ボラティリティの克服を掲げた計画が本当に効いたかどうかは、追い風が止んだときの一期で測られる。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

中期経営計画で置いた条件

科目 概要 備考
計画の名称 未来への創造と挑戦 "One Day? No. Day One!" 2021年5月25日に公表。1995年以来の営業赤字を「第二の創業」の覚悟で受け止めた
実施期間 2022年3月期から2024年3月期(3ヶ年) 足場固めと反転の3年と位置づけ、続く次期計画を再成長の3年に充てる
三本の柱 組織風土改革/構造改革の完遂/再成長の種まき 前回計画は具体策に欠け、組織風土を変え切れないまま未達に終わったと総括した
営業利益の目標 最終年度に30億円 2021年3月期は32億円の営業損失。EPS成長率30%以上を目安に置いた
国内物販の改善額 17億円 10以上の施策を計画期間中に実行し、赤字が許容されてきた国内物販を利益重視へ
商品SKUの削減 60%減 業務量増・ロット減・原価高止まりを招いた品目数を聖域なく削る
米国事業の赤字解消 11億円 物販の販管費を抜本的に削り、利益率の高いライセンス事業を拡大する
構造改革投資 20億円規模 外部人材も積極登用して実行体制を整える
IP育成の投資 数十億円〜100億円規模 グローバルでパートナーと共同投資する枠として見込んだ
経営陣の若返り 取締役40〜50代・執行役員30〜40代 2022年に社外出身の中塚亘氏・大塚泰之氏・齋藤陽史氏を常務取締役へ登用した
EC事業の目標 2024年3月期にEC比率30%・売上30億円以上 販売チャネルの効率化と対で置いた。アウトレット強化や赤字店舗の撤退も並ぶ
女性管理職比率 2024年3月期末に43% ESG目標のうち社会の項。教育サービスの立ち上げと並べて掲げた
キャラクター構成比率の定義 国内外の物販事業とライセンス事業の売上総利益 ミックスキャラクターは複数のキャラクターを使った展開を指す
育てるキャラクター マイメロディ・クロミ・シナモロール ほか 2025年はマイメロディ50周年とクロミ20周年。シナモロールは大賞5連覇
次期計画の目標 2027年3月期に営業利益400億円以上 2024年5月14日に公表。時価総額1兆円以上・営業利益500億円以上をその先に置く

出所:サンリオ 有価証券報告書 第61期(2021年3月期)・第62期(2022年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】/2023年3月期・2024年3月期 決算説明会資料/統合報告書2024

サンリオ:キャラクター別の構成比率

(%) ハローキティミックスキャラクターその他キャラクター 備考
2017年3月期 58.34.237.5
2018年3月期 56.65.737.8
2019年3月期 54.26.239.6
2020年3月期 42.58.149.4
2021年3月期 37.91151.1 営業赤字に沈んだ期。この期の実績を受けて中期経営計画を組んだ
2022年3月期 27.712.559.9 中期経営計画の初年度。ハローキティの比率がこの期に3割を割った
2023年3月期 28.617.553.9
2024年3月期 30.419.250.4 10年前の2014年3月期はハローキティ75.7%・ミックス1.6%だった
2025年3月期 35.318.146.6 ハローキティ50周年の施策で同キャラクターの売上総利益が大きく伸びた
2026年3月期 2026年3月期の構成比率は公表されていない
2027年3月期 中期経営計画の最終年度。構成比率の目標値は公表していない
ハローキティの構成比率
ハローキティ(%)

出所:サンリオ 2025年3月期 決算説明会資料(キャラクターポートフォリオの推移) / サンリオ 統合報告書2024(キャラクター構成比率)

サンリオ:連結売上高と営業利益

(百万円) 売上高営業利益 備考
2017年3月期 62,6956,904
2018年3月期 60,2205,734
2019年3月期 59,1204,786
2020年3月期 55,2612,106
2021年3月期 41,053△3,280 1995年以来の営業赤字。テーマパークと店舗の休業が重なった
2022年3月期 52,7632,537 中期経営計画の初年度。構造改革の一部が奏功し想定以上の営業利益で着地
2023年3月期 72,62413,247
2024年3月期 99,98126,952 計画最終年度。目標30億円に対し営業利益269億円で過去最高を更新した
2025年3月期 144,90451,806
2026年3月期 194,08877,859 CSVのみ。この期の数値は会社の公表資料で照合できていない
2027年3月期 中期経営計画の最終年度。営業利益400億円以上を掲げる
連結売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:サンリオ 有価証券報告書 第57期〜第65期(連結損益計算書) / サンリオ 2025年3月期 決算説明会資料(営業利益の推移)

サンリオ:地域別のセグメント利益

(百万円) 日本北米アジア 備考
2017年3月期 5,408△5793,036
2018年3月期 4,343△9503,253
2019年3月期 3,618△1,0823,551
2020年3月期 1,716△1,1262,878
2021年3月期 △2,938△1,1671,959 日本と北米がともに赤字。この2つが構造改革の対象に据えられた
2022年3月期 2,206△4422,106 日本が黒字へ復帰。北米の損失も4億円台まで縮んだ
2023年3月期 10,5277264,069 北米が黒字へ転換。ライセンス事業の拡大で販管費の重さを解消した
2024年3月期 19,7372,8386,016
2025年3月期 36,6028,8756,761 北米は決算期のずれによる連結調整で15億円のマイナスを含む
2026年3月期 53,8439,76516,254 CSVのみ。この期の数値は会社の公表資料で照合できていない
2027年3月期 中期経営計画の最終年度。地域別の目標は貢献利益で置いている

出所:サンリオ 有価証券報告書 第57期〜第65期【セグメント情報】

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出典・参考

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