北の達人コーポレーション広告運用の効率偏重の見直しとクリエイティブ多様化、「チームX」による組織再建

効率を突き詰めた組織はなぜ新規顧客を失ったか——広告運用の作り替えと組織の立て直し

時期 2023年11月
意思決定者(推定) 木下勝寿 社長
論点 広告運用と組織体制の立て直し
概要
2016年からの4年間でWeb広告を軸に売上を約5倍へ伸ばした北の達人コーポレーションは、2021年2月期に上場後初の減収減益へ転じた。広告運用の効率追求が同じような広告を増やし、新規顧客の開拓を細らせたためである。2023年、木下勝寿社長は広告クリエイティブの多様化と組織の作り直しを軸とする全社的な立て直しに着手し、その過程を同年11月に『チームX』として公表した。
背景
過去に成果を出したデータを踏襲する広告出稿が常態化し、似通った広告ばかりが増えて消費者が離れた。急成長に人材育成が追いつかず、社員が独自のやり方で業務を進める状態にあった。2023年2月期の営業利益は5.1億円と、前期比75.5%減まで落ち込んだ。
内容
広告運用ではコンバージョン率の絶対値を多少落としてもクリエイティブのパターンを増やす出稿方針へ切り替え、指標の重点を効率から多様性へ移した。並行してKPIの再設定、手薄だった基礎教育、社内の共通言語づくりで組織を組み替えた。
含意
2024年2月期の連結売上高は146.7億円(前期比49.2%増)、営業利益は14.5億円(前期比184.0%増)へ回復した。木下社長は底からの戻りを「1年で業績13倍」と表現している。回復と並行してFM NORTH WAVEの譲渡など事業の絞り込みも進めた。
筆者の見解

効率が効率を損なうという逆説

この立て直しの芯は、単なる業績のV字回復という言葉に収まらない。効率という一つの指標に最適化を重ねた組織が、新しいものを生む力を失っていた点にある。木下社長自身が「0から1を生み出すことができなくなっていた」と振り返るとおり、勝ちパターンの反復は短期の効率を上げながら、長期の新規開拓を細らせていた。効率の追求が効率を損なう逆説に、再建の出発点があったとみられる。

もっとも、1年で13倍という数字は、前期に営業利益が5.1億円まで落ちた反動という側面も併せ持つ。回復を支えたのは広告手法の入れ替えだけではなく、KPIの再設定や基礎教育、共通言語づくりといった組織の地道な作り直しであり、そこには相応の時間がかかった。効率を突き詰めた末に硬直した組織を、もう一度動くようにほぐす。その手間の総体が、数字の戻りの下にあったといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

広告効率の追求が招いた成長の踊り場

2016年からの4年間で、北の達人コーポレーションはWeb広告を軸に売上を約5倍へ伸ばした。ところが2021年2月期には売上高92.7億円、営業利益20.3億円と、上場後初の減収減益に転じる。自社広告の運用効率が低下し、新規顧客の開拓数が減ったことが主因であった。急成長に人材育成が追いつかない時期にコロナ禍の消費低迷が重なり、5期ぶりの大幅減益となった[1][2]

業績の陰りの底には、広告運用そのものの硬直化があった。過去に成果を出したデータを踏襲する出稿が常態化し、似通った広告ばかりが増えて消費者が離れていった。木下勝寿社長は後年、この時期を「0から1を生み出すことができなくなっていた」と振り返っている。効率を突き詰めた結果、新しいものを生む力が細っていた構図であった[3]

決断

効率指標から多様性へ、評価軸の切り替え

2023年、木下社長は全社的な立て直しに着手した。広告運用では、コンバージョン率の絶対値を多少落としても、クリエイティブのパターンを増やして多様性を確保する出稿方針へ切り替えた。勝ちパターンへの過剰適合を解き、指標の重点を効率から多様性へ移す作り替えである。同年11月には、この再建の過程を『チームX』として書籍にまとめ、対外的に公表した[4]

立て直しは広告手法にとどまらなかった。急成長で社員数が20人規模から100〜200人規模へ膨らみ、社長の直接指示では回らなくなっていた。木下社長は各員が自ら判断できるようKPIを設け直し、手薄だった基礎教育と社内の共通言語づくりに手をつけた。一人ひとりが率先して動く風土へ組織を組み替えることを、再建の柱に据えた[5][6]

結果

1年半で表れたV字回復

立て直しの効果は2024年2月期に表れた。連結売上高は146.7億円と前期比49.2%増、営業利益は14.5億円と前期比184.0%増へ回復した。営業利益が5.1億円まで落ちた前期からの反発であり、1年半ほどでの急回復であった。広告クリエイティブの多様化と組織の作り直しを同時に進めたことが、短期の数字の戻りにつながったとみられる[7]

木下社長は、底からの回復を「1年で業績13倍」と表現し、その過程を書籍として公表した。回復と並行して、事業の絞り込みも進める。2024年7月には北海道のFMラジオ局FM NORTH WAVEの全株式を譲渡してラジオ事業から退き、化粧品と健康食品を主軸とする構成へ戻した。広告運用の作り替えと事業の選択が、再建の両輪となった[8][9]

出典・参考

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