サンリオサンリオピューロランド建設:紙とモノで稼いできた会社が616億円の固定資産を抱えるテーマパーク運営を選んだ判断
- 概要
-
1987年11月、東京都多摩市に建設する複合文化施設の運営会社として、全額出資の株式会社サンリオ・コミュニケーション・ワールドを設立した。物流拠点を建てるつもりで押さえていた多摩ニュータウンの用地を、屋内型テーマパークへ振り替える判断である。当初の投資予定額は土地5,000百万円と建物25,000百万円の計30,000百万円。1988年11月に着工し、1990年12月7日に「サンリオピューロランド」として開業した。翌1991年4月には大分県速見郡日出町の「ハーモニーランド」も開いている。
- 背景
-
多摩市の用地21,164㎡は1985年9月に取得済みで、当初はギフト商品とグリーティングカードを全国へ流す複合ディストリビューションセンターの用地だった。この計画を全面的に見直し、新しい形態の複合文化施設を建てることにした。延床約40千㎡・最大収容人員7〜10千人という全体構想を掲げたうえで、海外コンサルタントを動員して全天候型の施設へ構想を練り直している。キャラクターを商品に載せて売る事業の隣に、キャラクターに会える場所そのものを自前で持つ選択であった。
- 内容
-
予算は計画を組み替えるたびに膨らんだ。1987年7月末の30,000百万円が、全天候型への構想変更で建物だけ35,000百万円となり、1989年7月末に42,000百万円、1990年3月末には50,000百万円まで引き上げられ、完成予定も1989年12月から1990年9月へ動いた。所要資金はどの期も自己資金でまかなうとしている。1991年3月末のピューロランドの投下資本は61,646百万円。連結の有形固定資産は1988年7月期の13,751百万円から1991年3月期の91,163百万円へ6.6倍になった。
- 含意
-
開業の期にあたる1991年3月期は、開業準備費用の発生などにより連結で5,656百万円の当期純損失となり、上場以来の増益基調が途切れた。テーマパーク事業の連結売上高は1992年3月期に14,680百万円まで伸びたが、償却負担の増加で営業損失は5,703百万円。翌1993年3月期は売上高8,609百万円・営業損失6,388百万円と赤字が深まった。在庫を持たずに稼ぐ版権事業の隣で、減価償却が毎期のしかかる事業を抱え込んだ。
版権の隣に置いた固定費
この判断の核心は、テーマパークを建てたことよりも、在庫も設備も持たずに稼げる版権事業の隣へ、毎期きまって償却が発生する616億円の資産を据えたことにあると思われる。連結の有形固定資産は1988年7月期の137億円から1991年3月期の911億円へ6.6倍になり、総資産に占める比率は5.5%から20.6%へ跳ね上がった。物流拠点のために押さえていた多摩の土地が、そのまま体験を売る装置に化けた形である。キャラクターを紙とモノに載せて配る会社が、キャラクターに会いに来てもらう会社へ半身を移す試みだったとみることができる。
もっとも、この投資が抱えた難しさは、予算そのものの動き方に表れている。300億円で始めた計画は、全天候型への構想変更を挟んで350億円、420億円、500億円と引き上げられ、完成予定も1年近く後ろへずれた。装置産業の作法を持たない会社が、走りながら仕様を決めていった跡が残る。開業の期に56億円の当期純損失を出し、テーマパーク事業の営業損失が翌期57億円、翌々期64億円と深まっていったのは、集客の失敗というより、償却という固定費に事業の収益力が追いつかなかった結果であったのだろう。屋内型という選択が長い目で正しかったかどうかは、この数字だけでは決まらない。
テーマパーク進出の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 施設の名称 | サンリオピューロランド | 建設中の仮称はサンリオ・コミュニケーション・ワールド。第29期に正式名称を決定 |
| 所在地 | 東京都多摩市 | 当初は複合ディストリビューションセンターの建設を予定していた用地 |
| 敷地面積 | 21,164㎡ | 1985年9月に取得済み。計画時の全体構想では約21千㎡と示していた |
| 延床面積 | 42,029㎡ | 1991年3月末の建物面積。計画時の全体構想では約40千㎡ |
| 最大収容人員 | 7〜10千人 | 1987年7月末の設備計画に添えた全体構想の数値 |
| 着工 | 1988年11月 | 1987年7月末の計画では1987年8月以降の着工としていた |
| 開業 | 1990年12月7日 | 日本初の全天候型屋内テーマパーク。完成予定は当初1989年12月 |
| 当初の投資予定額 | 30,000百万円 | 1987年7月末。土地5,000と建物25,000の合計。既支払額は5,053 |
| 最終の投資予定額 | 50,000百万円 | 建物・機械装置。35,000→42,000→50,000と三度引き上げた |
| 開業時の投下資本 | 61,646百万円 | 1991年3月末の帳簿価額。土地5,412・建物37,177・その他18,134 |
| 資金の調達方法 | 自己資金 | どの期の設備計画でも今後の所要資金は自己資金でまかなう予定とした |
| 運営会社 | 株式会社サンリオ・コミュニケーション・ワールド | 1987年11月設立、東京都多摩市。当社が建物及び設備を賃貸する |
| 運営会社の資本金と出資比率 | 3,000百万円・議決権100.0% | 1991年3月末。役員の兼任は当社役員8名・当社従業員3名 |
| 運営会社との契約 | 当社キャラクターを使用する権利の許諾 | 対価はピューロランド収入に一定料率。期間は同施設の運営期間 |
| ハーモニーランドの所在地 | 大分県速見郡日出町 | 大分県の一村一品クラフト公園内。1991年4月に開業した |
| ハーモニーランドの運営会社 | 株式会社ハーモニーランド | 1988年10月設立。大分県・日出町・県内外の有力企業との第三セクター |
| ハーモニーランドの資本金と出資比率 | 1,800百万円・議決権49.7% | うち2.2%はサンリオ・コミュニケーション・ワールドの間接所有 |
| ハーモニーランドへの出資額 | 895百万円 | 17,900株。1990年3月期に13,500株675百万円を追加取得した |
| ハーモニーランドへの債務保証 | 15,522百万円 | 1991年3月末。1989年7月末は2,000、1990年3月末は5,745 |
出所:サンリオ 有価証券報告書 第27期(1987年7月期)〜第33期(1993年3月期)【沿革】【設備の状況】【設備の新設、重要な拡充若しくは改修又はこれらの計画】【関係会社に関する事項】
サンリオ:有形固定資産と建設仮勘定の推移(連結)
| (百万円) | 有形固定資産 | 建設仮勘定 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1983年7月期 | − | − | 連結貸借対照表は手元の有報で遡れない。連結の売上高と利益は下表に載る |
| 1984年7月期 | − | − | |
| 1985年7月期 | − | − | |
| 1986年7月期 | 11,546 | 278 | 総資産に対する有形固定資産の比率は8.8% |
| 1987年7月期 | 12,994 | 166 | 多摩市の計画を物流拠点から複合文化施設へ切り替えた期 |
| 1988年7月期 | 13,751 | 290 | 運営会社を設立した期。用地は取得済みで建設仮勘定はまだ動いていない |
| 1989年7月期 | 23,265 | 10,095 | 1988年11月に着工。当期の設備投資総額12,878のうち9,582がこの工事 |
| 1990年3月期 | 45,805 | 32,480 | 決算期を7月から3月へ変更したため8か月の変則決算。前後と期間が異なる |
| 1991年3月期 | 91,163 | 17,556 | 12月7日開業。建設仮勘定56,819を本勘定へ振り替えた(当社単体) |
| 1992年3月期 | 85,518 | 942 | 総資産に対する有形固定資産の比率は24.3%まで上がった |
| 1993年3月期 | 80,067 | 1,242 | 償却が進み減少。建物及び構築物の減価償却累計額は7,871 |
出所:サンリオ 有価証券報告書 第27期・第29期・第31期・第33期(連結貸借対照表) / サンリオ 有価証券報告書 第29期〜第31期【設備の状況】
サンリオ:連結の売上高と当期純利益
| (百万円) | 売上高 | 当期純利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1983年7月期 | 61,910 | 1,710 | この期のみ当期利益として開示。当期純利益の欄は開示されていない |
| 1984年7月期 | 71,657 | 3,815 | |
| 1985年7月期 | 74,259 | 2,222 | |
| 1986年7月期 | 74,002 | 3,200 | |
| 1987年7月期 | 77,707 | 4,867 | 経常利益10,849。営業の効率的展開と資産の効率的運用による大幅増益 |
| 1988年7月期 | 84,634 | 5,588 | 運営会社を設立した期。経常利益11,425で増収増益 |
| 1989年7月期 | 95,085 | 6,058 | 経常利益12,011。増益はこの期で止まる |
| 1990年3月期 | 74,872 | 2,603 | 8か月の変則決算。金融費用と開業準備費用の増加で経常利益は6,645 |
| 1991年3月期 | 124,193 | △5,656 | 株式市場の急落と開業準備費用の発生などにより経常損失4,830 |
| 1992年3月期 | 131,480 | △35,418 | 株式評価損を含め経常損失37,077。テーマパーク事業は営業損失5,703 |
| 1993年3月期 | 114,220 | △5,585 | 営業利益5,379。テーマパーク事業の営業損失は6,388へ拡大 |
出所:サンリオ 有価証券報告書 第27期【最近5連結会計年度に係る主要な財務指標】 / サンリオ 有価証券報告書 第28期〜第33期【企業集団の業績の概要】
同じ問いに直面した会社
- サンリオ 有価証券報告書「第27期(1987年7月期)【設備の新設、重要な拡充若しくは改修又はこれらの計画】」
- サンリオ 有価証券報告書「第28期(1988年7月期)【沿革】【設備の新設、重要な拡充若しくは改修又はこれらの計画】」
- サンリオ 有価証券報告書「第29期(1989年7月期)【設備の状況】【関係会社に関する事項】」
- サンリオ 有価証券報告書「第30期(1990年3月期)【設備の新設、重要な拡充若しくは改修又はこれらの計画】」
- サンリオ 有価証券報告書「第31期(1991年3月期)【設備の状況】【重要な契約等】【関係会社に関する事項】」
- サンリオ 有価証券報告書「第33期(1993年3月期)【企業集団の業績の概要】(連結)」