コーエーテクモホールディングス ゲーム事業と並ぶ資産運用 本業と並ぶ収益源に育った運用益による開発の当たり外れの吸収

更新:

時期 2024年5月
当時の社長 襟川陽一
論点 本業への投資後に残る余資の運用方針と、資金管理・運用機能の分離
何をなぜ決めたか
概要

長年にわたってグループの資産運用を主導してきた襟川恵子氏のもとで、本業への投資を行った後に残る余資の運用が育ち、2024年3月期には営業外収益357億円が営業利益285億円を上回る決算となった。2025年4月、有価証券等の運用に関する権利義務は新設の子会社コーエーテクモコーポレートファイナンスへ移され、襟川恵子氏が同社の代表取締役社長に就任した。

背景

経営統合後のコーエーテクモホールディングスは自己資本比率が6割台から9割近くで推移する厚い自己資本を築き、毎期の利益のうち本業への投資を行った後に残る余資をどこに置くかが論点となっていた。運用の目的は、財務基盤を安定させて本業を下支えすることに置かれた。

内容

運用は継続性・機動性・健全性を掲げ、債券を中心とするポートフォリオで続けられた。連結の投資有価証券残高は2021年3月期に1,131億円、2024年3月期に1,065億円となり、営業外収支は2017年3月期から2020年3月期まで毎期48億円〜66億円で推移したのち、2024年3月期には172億円に達した。

含意

グループファイナンス機能の集約によるガバナンス強化と最適なキャッシュマネジメントの実現を目的に、資金管理と運用は事業部門から切り離された。資産運用は金融市場の変動に左右され、会社が重視するのは本業のゲーム開発・販売によって得られる営業利益である。

いつ何が起きたか 5件
筆者の見解
筆者の見解

ゲーム会社が運用会社を併せ持つということ

この判断の核心は、本業の変動を吸収してきた運用機能を事業部門から切り離し、執行と監督の役割分担のなかに置き直した点にあると推察される。運用の損益を本体の決算に溶け込ませたままにしておけば、当面の経常利益は嵩上げされて映る。資産運用は金融市場の変動に左右され、会社が重視するのは本業のゲーム開発・販売によって得られる営業利益で、自己資本に対する営業利益の割合が今後の財務管理の指標に置かれている。ゲームソフト会社が資金管理と運用を専門に担う子会社を持つという体制は、同業他社にほとんど例がない。

もっとも、運用機能を切り出したこと自体は、運用益への依存という構造そのものを解消するわけではない。分離後の2026年3月期も営業外収益399億円が営業利益372億円を上回っており、グループ全体でみれば運用が業績を押し上げる構造は続いている。会社は襟川恵子氏の知見を仕組みとして定着させ、同氏が運用から退いた後も本業を支えられる体制を構築すると表明しており、個人の手腕をどこまで組織の再現性へ移せるかが、この財務戦略の次の焦点になっている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
余資運用の方針

余資運用の方針

科目 概要 備考
運用の位置づけ 財務基盤を安定させ、本業を下支えする 会社としてのKPIは営業利益。ROEの分子でも本業の営業利益を重視する
運用に回す資金 毎期の利益のうち本業への投資を行った後の余資 自己資金による財務調達を基本方針とし、不足時は外部借入や社債で調達する
運用の軸 継続性・機動性・健全性 中長期視点で安定した収益を計上し、金融市場の動向に機動的に対応する
ポートフォリオ 債券中心へ移行 2年ほどかけて組み換え、健全性を高めるため不良資産の処分も進めた
投資対象 株式、債券、デリバティブを組み込んだ複合金融商品 社内規程に基づき投資限度額を定めて厳重に管理する
運用の管理体制 取引部門と管理部門を明確に分離 管理部門が取引の確認とポジション管理を行い、内部牽制を働かせる
中期経営計画の目標 経常利益500億円(2024年度) 営業利益400億円と営業外収支を合わせて達成する計画に据え置いた
運用機能の集約先 株式会社コーエーテクモコーポレートファイナンス 2025年2月7日設立。襟川恵子氏が代表取締役社長に就任した
権利義務の承継 2025年4月・吸収分割 コーエーテクモゲームスの有価証券等の運用等に関する権利義務を承継
集約の目的 ガバナンス強化と最適なキャッシュマネジメント グループ各社に分散していた資産運用を1社に集約し、監督機能を強める

出所:コーエーテクモホールディングス 2024年3月期決算説明会資料【営業外収支・資金運用方針】、有価証券報告書 第16期(2025年3月期)【沿革】【金融商品関係】

営業外収支と営業利益の推移

コーエーテクモホールディングス:営業外収支と営業利益の推移

(百万円) 営業利益営業外収益営業外費用営業外収支経常利益 備考
2019年3月期 12,0928,4502,2346,21618,307
2020年3月期 14,10210,4135,6464,76718,869
2021年3月期 24,39719,4034,50214,90139,299 受取利息が49億円へ増え、投資有価証券売却益も106億円に伸びた
2022年3月期 34,52733,95219,78314,16948,696 投資有価証券売却益234億円に対し、営業外費用も197億円に膨らんだ
2023年3月期 39,13322,31321,54776639,899 クレディ・スイスのAT1債で41億円の損失を計上し、収支は7億円に沈んだ
2024年3月期 28,49435,72618,47917,24745,741 営業外収益357億円が営業利益285億円を上回り、営業外収支は過去最高
2025年3月期 32,11926,4368,56717,86949,988 2025年4月に運用の権利義務を新会社へ承継。営業外収支は最高を更新
2026年3月期 37,16839,92320,09119,83257,000 分離後も営業外収益399億円が営業利益372億円を上回った
営業利益と営業外収支
営業利益(百万円)営業外収支(百万円)営業外収支率(%)

出所:コーエーテクモホールディングス 有価証券報告書 第10期〜第16期(連結損益計算書) / コーエーテクモホールディングス 2026年3月期決算説明会資料(決算ハイライト)

営業外収益の内訳

コーエーテクモホールディングス:営業外収益の内訳

(百万円) 受取利息受取配当金投資有価証券売却益デリバティブ評価益営業外収益合計 備考
2019年3月期 1,7482,2433,936−8,450 デリバティブ評価益の計上はない
2020年3月期 1,6881,4516,980−10,413 デリバティブ評価益の計上はない
2021年3月期 4,9551,16610,6491,79219,403
2022年3月期 5,60698123,4711,86933,952
2023年3月期 13,9517341,7324,29822,313 債券中心への組み換えが進み、受取利息が139億円へ跳ね上がった
2024年3月期 14,5927259,8858,90835,726 受取利息145億円に売却益98億円とデリバティブ評価益89億円が重なった
2025年3月期 15,6416494,4441,04226,436 受取利息156億円。有価証券償還益33億円は表に立てていない
受取利息とそれ以外の営業外収益
受取利息(百万円)受取利息以外の営業外収益(百万円)

出所:コーエーテクモホールディングス 有価証券報告書 第10期〜第16期(連結損益計算書) / コーエーテクモホールディングス 2026年3月期決算説明会資料(決算ハイライト)

運用資産の残高

コーエーテクモホールディングス:運用資産の残高

(百万円) 有価証券投資有価証券総資産 備考
2019年3月期 12676,355129,192
2020年3月期 33771,350147,793
2021年3月期 5,238113,176190,671 投資有価証券が1,131億円となり、総資産の6割を占めた
2022年3月期 25,185102,940219,803 自己株式の公開買付けと転換社債の発行で総資産は2,198億円へ
2023年3月期 8,076112,766210,889
2024年3月期 58,393106,590245,802 1年以内に満期の来る債券が増え、流動資産の有価証券が583億円に
2025年3月期 20,45499,409209,828 運用資産は計1,198億円。自己資本比率は89.9%
運用資産の残高と総資産に占める比率
有価証券(百万円)投資有価証券(百万円)投資有価証券率(%)

出所:コーエーテクモホールディングス 有価証券報告書 第10期〜第16期(連結貸借対照表)

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参考文献
出典・参考

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