本業のストック利益を上場株の長期保有へ回す「純投資」への傾斜
稼いだ資金をどこに置くか——事業会社でありながら、なぜ上場株の長期保有を第二の柱に選んだのか
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- 概要
- 2000年の経営危機を乗り越えた光通信が、法人営業のストック収益で得た資金を、上場株の長期保有へ振り向ける「純投資」を第二の柱に育てた経営判断。取得額に対する持分営業利益の比率であるEarnings Yieldとハードルレートで規律し、事業会社でありながら投資会社の性格を年々強めた。
- 背景
- 携帯電話小売の崩壊から法人営業へ回帰し、複写機・回線・水・保険など契約後に継続収入が積み上がる商材を束ねた光通信は、2004年3月期に黒字転換して以降、本業から潤沢な資金を生む体質になった。その資金をどこへ置くかが次の課題であった。
- 内容
- 「株式を買うことは会社の事業を一部保有すること」との考えのもと、安定した事業・強固な財務・割安な価格の3条件で銘柄を選び、長期保有を原則とした。取得額に対する持分営業利益をEarnings Yieldとして測り、利回りを守るためだけの拡大はしないハードルレートを判断軸に据えた。
- 含意
- 2026年3月末の純投資は取得価額8,523億円・時価1兆4,764億円・含み益6,241億円まで育ち、持分営業利益は1,399億円に達した。本業の営業利益に匹敵する利益を投資が生む構造となり、光通信は事業と投資の二輪で回る会社に変わった。
本業の稼ぎを、なぜ株の長期保有に置くのか
この判断の核心は、事業で稼いだ資金の置き場所として、光通信が上場株の長期保有をあえて選んだ点にある。多くの事業会社は余った資金を現預金や自社事業への再投資、あるいは株主還元に振り向ける。光通信はそこに、他社の株を長く持ってその利益の取り分を得るという第三の道を太く通した。Earnings Yieldという利回りの物差しとハードルレートの規律は、この投資を勘や相場観から切り離し、本業の投資判断と同じ土俵に載せる仕掛けだったとみることができる。
事業会社と投資会社の二つの顔を併せ持つ経営は、両刃でもある。投資先の業績や株価が崩れれば、含み益6,000億円の厚みはそのまま逆に振れる。かつて光通信は、ネットバブル期の対外投資の失敗で巨額の損失を計上し、危機の一因をみずから作った過去を持つ。同じ会社が、危機後に築いた規律のもとで投資を本業並みの柱へ育てた事実は重い。稼いだ資金をどこへ置き、どの利回りで律するか——この問いに一つの型で答え続けている点に、光通信の経営の芯がある。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
危機後の再建が生んだストック収益と余剰資金
2000年の架空契約問題で携帯電話小売が崩れたあと、光通信は創業期の法人向け訪問販売へ戻り、複写機・回線・宅配水・保険といった、契約したあとも継続的に手数料が入る商材を束ねていった。2004年3月期に連結純利益106億円で黒字へ戻ると、その後は営業利益を伸ばし続けた。2019年3月期の連結売上収益は4,843億円、営業利益は643億円に達し、本業が毎期まとまった資金を生む体質になった。稼いだ資金をどこへ置くかが、再建を終えた光通信の次の課題となった[1]。
光通信は借入と社債で膨らんだ2000年の危機を経て、財務の安全度を強く意識する会社になった。中小企業向けの営業から積み上がるストック収益は景気の波を受けにくく、手元にはたえず余剰資金が生まれた。この資金を、事業の拡大だけでなく、外部企業の株式を長く持つことにも振り向ける。そうした資本の配りかたが、2010年代を通じて光通信の経営の中心に入り込んでいった[2]。
「株を買うことは会社を一部保有すること」
光通信は、この上場株の長期保有を「純投資」と呼んだ。土台にあるのは、株式を買うことをその会社の事業を一部だけ持つことと同じだととらえる見方である。短期の値動きで売買して差益を狙うのではなく、投資先とよい関係を保ちながら長く持ち続けることを原則とした。銘柄は、安定した事業を営み、財務の基盤が強く、しかも割安な価格で買える優良企業に絞った。値上がり益ではなく、その会社が毎年生む利益の取り分を積み上げる発想である[3]。
決断
Earnings Yieldとハードルレートで測る
光通信は、株を持つ判断を利回りで測る物差しを持ち込んだ。投資先が生む持分営業利益を、その株を買った取得額で割った比率を「Earnings Yield」と名づけ、投資の良し悪しを見る基準に据えた。株価が上がったか下がったかではなく、投じた元手に対して事業がどれだけの利益を返すかで投資を評価する。買値が安いほどこの利回りは高くなるため、割安に買うという原則と一つの物差しで結びついていた[4]。
買い増しには、守るべき利回りの下限としてハードルレートを置いた。競争が激しくなって取得価格が上がり、期待できる利回りが下限を割るなら買わない。逆に、電力の長期契約のように将来の利益が見込めるなら、目先の費用が増えても投資する。利回りを保つためだけにシェア拡大を追う運営はしない、という規律である。持ち株の比率に上限は設けず、条件次第では連結子会社として抱え込むことも選択肢に入れた。事業の買収と株式投資の境目を、光通信はあえて曖昧にした[5]。
事業と投資という二つの利益源
この選択で、光通信は二つの利益源を並べて管理する会社になった。一つは中小企業向け営業から積み上がるストックの利益、もう一つは純投資が生む持分営業利益である。前者は自社の営業人員が汗をかいて稼ぐ利益、後者は他社の事業が稼ぐ利益の取り分にあたる。どちらも、契約や株式を長く持ち続けるほど積み上がる点で性格が似ていた。光通信は、本業で稼いだ資金を利回りの高い株へ回し、その株がまた利益を生むという循環を経営の骨格に組み込んだ[6]。
結果
含み益6千億円規模へ育った投資
純投資は、本業に並ぶ利益の柱へ育った。2026年3月末で取得価額は8,523億円、時価は1兆4,764億円に達し、税引き前の含み益は6,241億円に上った。投資先から受け取る持分営業利益は1,399億円で、同じ時期の本業の営業利益に匹敵する規模である。Earnings Yieldは16.3%を保った。危機後に法人営業で稼いだ資金が、20年をかけて本業と同じだけの利益を生む投資へ姿を変えた[7]。
会社全体の利益も過去最高を更新し続けた。2024年3月期の連結純利益は1,222億円に達し、時価総額も2018年に2000年以来の1兆円を回復して、その後さらに切り上がった。3兆円まで膨らんで100分の1へ崩れたかつての時価総額が市場の熱狂の産物だったのに対し、二度目の兆円企業は、本業のストック利益と純投資の持分利益という、積み上げの効く二つの源泉に支えられていた[8]。
- 光通信「純投資概要」(2026年3月末時点)
- 光通信 有価証券報告書(連結業績・IFRS)
- 光通信 有価証券報告書 主要な経営指標等の推移(第37期・2024年3月期)