野村総合研究所自己株式の取得・消却と資本効率を軸とする株主還元への転換
グローバル3極を掲げながら、国内で稼いだ現金を自社株買いと消却に厚く回したのはなぜか
- 概要
- 2023年4月27日、野村総合研究所は中期経営計画(2023-2025)とNRI Group Vision 2030を発表し、同日の取締役会で上限2,000万株・500億円の自己株式取得を決議した。2024年3月には13,370,131株を消却して発行済株式数を580,796,911株へ減らした。此本臣吾会長兼社長のもとで、資本効率と株主還元を経営目標の前面に据えた資本政策であった。
- 背景
- 金融機関向けシステムとITソリューションで国内に厚い現金を生む体質を築いたNRIは、中期経営計画2025でROE20%以上と配当性向40%を掲げ、資本効率を経営の目標に据えた。成長で積み上がった潤沢なキャッシュの使途が、経営の課題となっていた。
- 内容
- 2023年4月27日の取締役会で自己株式取得を決議し、2024年3月期に12,833,700株・約500億円を取得した。さらに13,370,131株を消却して発行済株式数を恒久的に減らし、翌2024年4月にも上限1,000万株の取得を決議して2年続けての実施となった。
- 含意
- 2024年3月期のROEは19.9%、配当性向は38.8%となった。国内で稼いだ現金を海外拡張より還元に厚く回した一方、海外3極体制の実装は道半ばにとどまり、2025年には取得の発表が見送られてM&Aへ資金の照準が移りはじめた。
効率の数字と、拡張の遅れ
この判断の芯は、成長で積み上げた国内の現金を、海外への拡張よりも先に株主へ戻すことを選んだ点にある。ROE19.9%・配当性向38.8%という数字と、発行済株式の2.25%を消す踏み込みは、資本市場との対話を経営の前面に置く方針を示している。親会社を持つ上場会社が現金を抱え込みがちだった従来の相場観に照らせば、国内のシステム会社がここまで還元に踏み込む例は多くなかったとみられる。
もっとも、この選択は身軽さと引き換えに課題も残した。グローバル3極を掲げながら海外売上の比率は低いままにとどまり、豪州では組織再編の費用が利益を削った。国内で稼いだ現金を、海外拠点の育成よりも自社株買いと消却へ振り向けた期が続いたのち、2025年には取得の発表が見送られ、資金の照準はM&Aへと移りはじめた。還元と成長投資のどちらを厚くするかは、機動的であるがゆえに、期ごとに揺れうる問いとして残っているといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
国内で厚い現金を生む体質と、余剰資金の使途
野村総合研究所は、金融機関向けの共同システムとITソリューションを主力に、2016年3月期の売上4,245億円から2024年3月期には7,365億円へと規模を伸ばしてきた。営業利益率は16%台に乗り、国内で厚い現金を生む収益構造を持つに至っていた。事業の成長そのものより、そこで積み上がる潤沢なキャッシュをどこへ向けるかが、経営の課題として浮かび上がっていた[1]。
2023年4月27日、此本臣吾会長兼社長のもとで、NRIは中期経営計画(2023-2025)とNRI Group Vision 2030を発表した。この中計はROE20%以上を目標に掲げ、連結配当性向を2023年3月期の35%から2026年3月期をめどに40%へ段階的に引き上げる方針を示した。あわせて、資本効率の向上に向けた機動的な自社株買いを、余剰資金の使途のひとつとして明記した[2]。
決断
取締役会が決めた取得と、消却への踏み込み
中計の発表と同じ2023年4月27日、NRIの取締役会は、資本効率の向上と経営環境の変化に対応した機動的な資本政策の一環として、自己株式の取得を決議した。取得の上限は2,000万株・500億円と定め、東京証券取引所での市場買付けによって進めるとした。2024年3月期の1年間で、同社は12,833,700株・約500億円の自己株式を実際に買い付けた[3][4]。
取得は、買い戻した株式を金庫に抱えるだけでは終わらなかった。2024年3月8日の取締役会は13,370,131株の消却を決議し、3月29日に手続きを終えた。消却の規模は消却前の発行済株式総数の2.25%にあたり、発行済株式数は593,652,242株から580,796,911株へ減った。買い戻した株式を消すことで、発行済株式数そのものを恒久的に減らす意思を示した形になる[5]。
結果
2年続いた還元と、その後の照準の移動
還元の効果は数字にも表れた。2024年3月期のROEは19.9%、配当性向は38.8%となり、中計の掲げた資本効率の目標に近づいた。取得と消却は一度限りではなく、翌2024年4月25日の取締役会でも上限1,000万株の自己株式取得が決議され、2年続けての実施となった。国内で稼いだ現金を、配当と自社株買いに厚く振り向ける方針が続いた[6][7]。
もっとも、還元の勢いは一定ではなかった。2025年4月24日の決算説明会で、柳澤花芽社長は自社株買いについて、ROEを意識しつつしかるべき時期にしかるべき金額を実施する方針だと述べ、この期は取得の発表を見送った。同じ場ではVision 2030に向けてM&Aを本格的に探索する意向も語られた。一方で豪州子会社では組織再編の一時費用が生じ、海外3極体制の実装は道半ばにとどまっていた[8][9]。
- 野村総合研究所 NRIグループ中期経営計画(2023-2025)(2023年4月27日)
- 野村総合研究所 自己株式の取得に係る取締役会決議(2023年4月27日)
- 野村総合研究所 2024年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)
- 野村総合研究所 2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)
- 野村総合研究所 2024年3月期 決算説明会資料
- 野村総合研究所 2025年3月期 決算説明会 質疑応答(2025年4月24日)
- 野村総合研究所 有価証券報告書(連結財務諸表)