タイミー無担保・無保証の銀行借入による運転資金の調達と累計403億円の資金構成

希薄化を避けるか、返済義務を負うか——即日払いで先に出ていく運転資金を、タイミーはどう賄ったか

時期 2023年9月
意思決定者(推定) 小川嶺 社長
論点 運転資金の調達手段と資本構成
概要
2022年11月と2023年9月、タイミーは大手3行からの長期借入とコミットメントラインで183億円・130億円を相次いで調達した。いずれも無担保・無保証・希薄化無しで、借入金利はAll-in costで年利1.0%未満。サービス開始から5年で累計調達額は約403億円となった。
背景
スキマバイトは働き手へその日のうちに賃金を払い、事業者からの入金は後になる。取扱高が伸びるほど立て替えの現金が要り、2022年10月期の営業キャッシュフローは19億5100万円の流出であった。同じ時期、スタートアップのエクイティ調達環境は前年比27.3%減へ後退していた。
内容
みずほ銀行・三菱UFJ銀行・りそな銀行を中心に、長期借入と融資枠を組み合わせた。調達を主導したのは三菱UFJ銀行出身の八木智昭CFOで、審査で重視される黒字経営の実績は2022年10月期の黒字転換で満たしていた。
含意
2023年10月期末の有利子負債79億5800万円は自己資本62億200万円を上回った。一方でエクイティによる希薄化を抑えたため、2024年7月の上場後も創業者の小川嶺氏は株式の19%強を保有した。
筆者の見解

弱点を説明材料に変えた資本政策

無担保・無保証で年利1%未満という条件を、業績が良かったからと説明するのは筋を単純にしすぎる。エクイティ調達が前年比27.3%減へ後退するなか、タイミーが借入を選べた核心は、即日払いで現金が先に出ていくという事業の弱点を、貸し手への説明材料に変えた点にある。立て替えが膨らむのは取扱高が伸びている証拠でもあり、三菱UFJ銀行出身の八木智昭CFOはその読み替えを銀行の言語で示せる立場にあったとみられる。

もっとも、この資本政策が身軽さだけをもたらしたわけではない。2023年10月期末の有利子負債79億5800万円は自己資本62億200万円を上回り、返済義務のある資金が株主資本より厚い状態にあった。エクイティと違い、借入は取扱高の伸びが鈍っても返済期日が動かない。上場後も創業者が株式の19%強を保有し続けたという結果は、その返済圧力を引き受けたうえで得たものといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

即日払いが生む立て替えの構造

タイミーのスキマバイトは、働いたその日のうちに賃金が働き手の口座へ入る。一方、事業者からサービス利用料が入金されるのは後になる。取扱高が伸びるほど、その差額を立て替える現金が要る構造にあった。2022年10月期の営業キャッシュフローは19億5100万円の流出で、同じ期の売上高62億1600万円と並べると、成長そのものが現金の先出しを求める事業の性格がうかがえる[1][2]

2021年9月、タイミーはシリーズDとして総額53億円を調達した。内訳はエクイティ40億円とデットファイナンス13億円で、香港のKeyrock Capital Managementなど3社に加え、伊藤忠商事とKDDI Open Innovation Fundが出資に加わった。この時点の累計調達額は約90億円であった。コロナ禍で飲食の求人が止まった後、物流へ主力を移して成長軌道へ戻した直後の調達にあたる[3]

エクイティ後退とデット拡大の同時進行

2022年に入ると、スタートアップの資金調達環境そのものが変わった。STARTUP DBの調査では、2022年のエクイティ調達が8847億円と前年比27.3%減へ後退した一方、デットなどの調達は2538億円と同123.1%増へ倍増した。迅速で柔軟な経営判断が欠かせないスタートアップにとって、増資による持株比率の低下は不利にもなりうる。必要資金が大きいほど、デットを織り交ぜられる意味は増していた[4][5]

貸し手の側も体制を変えていた。みずほ銀行は2016年にスタートアップ支援の専門部隊を立ち上げ、2022年4月には専門の審査室を設けた。三菱UFJ銀行も2019年に成長産業支援室を設立し、融資残高は1000億円を超えた。ただし審査で重視されるのは黒字経営の実績や担保資産の有無であり、投資を先行させて赤字を掘る企業との相性は悪いままであった。借り手にとっては、黒字化の見通しを示せるかどうかが分かれ目となった[6][7]

決断

無担保・無保証での183億円

2022年11月16日、タイミーは事業の成長拡大にともなう運転資金として、総額183億円の調達を公表した。みずほ銀行・三菱UFJ銀行・りそな銀行をはじめとする大手銀行からの長期借入とコミットメントラインで構成され、条件は無担保・無保証・希薄化無し、借入金利はAll-in costで年利1.0%未満であった。サービス開始から4年で累計調達額は約273億円に達した[8]

調達を主導した八木智昭CFOは三菱UFJ銀行の出身であり、貸し手側の事情を知る立場にあった。後年、当時の交渉をこう振り返っている。「タイミーのようなスタートアップは審査のハードルが非常に高く、短期的には儲かりそうにもないので、銀行員の営業目標達成において優先順位が低い。そこで担当者には、『今から取引してもらえれば、今後の営業実績にドル箱として貢献できる』と“営業”をかけていた」[9]

黒字転換と、累計403億円への到達

借入を積める前提には、業績の転換があった。2021年10月期に13億8700万円の経常損失を計上していた会社が、翌2022年10月期には経常利益1億1500万円で黒字へ転じた。さらに2023年10月期は売上高161億4400万円・営業利益19億5700万円へ水準を上げた。銀行の審査が黒字経営の実績を重視する以上、この転換なしに無担保の枠を広げることは難しかったとみられる[10]

2023年9月25日、タイミーはみずほ銀行・三菱UFJ銀行・りそな銀行との間で総額130億円のコミットメントライン契約を新規・追加で締結した。条件は前年と同じく無担保・無保証・希薄化無しで、サービス開始から5年で累計調達額は約403億円となった。この時点でワーカー数は500万人を超え、事業者数は46,000社、従業員は800名を上回っていた[11]

結果

借入に厚い財務と、保たれた持株比率

調達の結果は貸借対照表に表れた。2023年10月期の財務キャッシュフローは53億600万円の流入となり、営業キャッシュフローの7億4900万円の流出を補って現金同等物は79億9600万円まで積み上がった。一方で有利子負債は79億5800万円に達し、自己資本62億200万円を上回った。総資産178億円に対する自己資本比率は34.8%で、借入に厚く依存する財務構成であった[12]

2024年7月26日、タイミーは東京証券取引所グロース市場へ上場した。公開価格1450円に対して初日終値は1650円、時価総額は1569億円となり、この年最大の新規株式公開にあたる。上場後も創業者の小川嶺氏は株式の19%強を保有した。エクイティによる希薄化を抑えて成長資金を賄った資本政策が、創業者が大株主であり続ける資本構成につながったとみることができる[13]

出典・参考

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