タイミー求人主力の飲食から物流への転換と、倉庫内軽作業の開拓

売上が3分の1に落ちたスキマバイトは、なぜ主力業種を丸ごと入れ替えられたか

時期 2020年4月
意思決定者(推定) 小川嶺 社長
論点 需要消失下での事業領域の転換
概要
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店が営業を自粛し、掲載求人の約6割を占めていた飲食関連は数%まで落ち込んだ。売上は一時3分の1へ減少したが、小川嶺社長は自社プラットフォームで唯一出稿が上向いていた物流へ主力職種を移し、一年ほどで売上を回復させた。
背景
タイミーは2018年8月のサービス開始以来、飲食店の求人を軸に伸びていた。掲載される募集の約6割は飲食業で、事業者が納める利用料は働き手への報酬の3割にあたる。飲食への集中が成長を作っていたぶん、休業の影響はそのまま業績へ及んだ。
内容
出稿データでほぼ全てのアカウントが下向きに転じるなか、物流だけが上向いていた。仕事を短い単位で切り出して未経験者に渡し、その日のうちに賃金を払う仕組みは倉庫内軽作業でもそのまま使えたため、求人の主力を物流・小売・デリバリーへ移した。
含意
2021年10月期の売上高は前期の2.8倍にあたる12億9900万円へ戻った一方、経常損失は13億8700万円と赤字幅は広がった。黒字転換は2022年10月期を待つ。業種でなく仕事の渡し方で事業を定義していたことが、載せ替えを可能にしたとみることができる。
筆者の見解

替えたのは業種であって、仕事の渡し方ではなかった

危機に際して素早く方向を変えた、という要約ではこの決断の芯を外す。替えたのは業種であって、仕事の渡し方ではなかった。履歴書と面接を省いて短い単位の仕事を未経験者へ渡し、その日のうちに賃金を払う——事業をこの処理で定義していたからこそ、掲載求人の6割を占めていた飲食が閉じても、同じ仕組みのまま倉庫へ運び直すことができたとみられる。皿洗いも仕分けも、渡し方の側から見れば区別がなかった。

もっとも、設計が汎用であるだけでは移し先は生まれない。小川社長自身がほぼ全ての業種で出稿が下を向くなか物流だけが上向いていたと述べているとおり、巣ごもり需要で倉庫が人手を求めていた外部の条件があって、はじめて載せ替えが成り立った。しかも移した翌期の経常損失は前期より広がり、黒字化は2022年10月期まで待っている。何を固定し何を可変にしておくかという定義の置き方が、危機のさなかに選べる手の幅を決めたといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

飲食に寄りかかった求人構成

タイミーが2018年8月にスキマバイトサービスを始めてから、事業は飲食店の求人を軸に伸びていた。掲載される募集のおよそ6割は飲食業によるもので、事業者は働き手へ支払う報酬の3割にあたる額をサービス利用料として納める。2019年11月には初のテレビCMを流し、前年からの大阪・福岡に続いて2020年2月には名古屋にも拠点を置いた。飲食店を一軒ずつ訪ねて短い単位の仕事を切り出す売り方が、そのまま成長の土台になっていた[1][2][3]

その集中が2020年に裏目へ出た。新型コロナウイルスの感染拡大で多くの飲食店が営業を自粛すると、求人の約6割を占めていた飲食関連は数%まで落ち込み、売上は一時3分の1へ減少した。2020年10月期の売上高は4億6100万円、経常損失は11億9600万円にのぼる。仕事を細かく切り出して未経験の働き手へ渡す方法が伸びを作っていたぶん、その渡し先が一斉に閉じた影響は業績へそのまま表れた[4][5]

決断

物流だけが上向いていた

転換の手がかりは、自社のプラットフォームに出ていた出稿データにあった。小川嶺社長は当時を「ほぼ全てのアカウントからの出稿が下向きに転じたが、その中で物流だけが上向きだった」と振り返っている。店舗ごとの応募数を追いながら、業種別の動きを見ていたことになる。飲食の再開を待つのではなく、唯一伸びていたひとつの業種へ求人の主力を移す方針を、この観察をもとに定めた[6]

載せ替えが成り立ったのは、仕事の渡し方を変えずに済んだためであった。履歴書と面接を省いて短い単位の仕事を未経験者へ任せ、働いたその日のうちに賃金を払う——この一連の処理は、飲食店の皿洗いでも倉庫の仕分けでも同じまま使えた。倉庫内軽作業をはじめ小売やデリバリーの案件が一気に増え、創業時は飲食やイベントが中心であった対象領域は、コロナ禍を挟んで物流と小売へ広がった[7][8]

結果

一年での回復と、広がった赤字

主力職種を飲食から物流へ移したタイミーは、一年ほどで売上を回復させた。2021年10月期の売上高は12億9900万円と前期の2.8倍に達し、スタッフ1人あたりの売上も増加へ転じている。ただし同期の経常損失は13億8700万円で、赤字幅はむしろ前期より広がった。伸びを取りにいくための費用が先に出た期にあたり、業種の載せ替えがただちに採算へ結びついたわけではない[9][10][11]

資金の裏づけも同じ時期に固めた。2020年9月に13億4000万円、2021年9月には第三者割当増資40億円と借入13億円を調達し、このシリーズDには同年8月に営業支援で資本業務提携を結んだ伊藤忠商事が加わった。同年10月には元ディー・エヌ・エー社長の守安功氏を最高執行責任者に迎えている。経常損益が黒字へ転じたのは2022年10月期で、経常利益は1億1500万円であった[12][13][14][15]

出典・参考

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