SBIホールディングス 「ゼロ革命」で手数料無料化 オンラインの国内株式売買手数料の放棄と、金融収益・口座数での取り返し

更新:

時期 2023年8月
当時の社長 北尾吉孝
論点 収益構造の転換
何をなぜ決めたか
概要

2023年8月31日に発表し、9月30日注文受付分から始めた「ゼロ革命」。インターネットコースの顧客を対象に、オンラインの国内株式売買手数料を現物・信用の別なく無料にした。日本の証券会社で初めての恒久無料化にあたる。

逸失収益はSBI証券の試算で2024年3月期が158億円、通期で影響した2025年3月期が約380億円。営業収益に占めるオンライン国内株式委託手数料は、2023年3月期の19,595百万円(11.2%)から2025年3月期には1,596百万円(0.7%)まで減少した。

背景

2019年6月にオンラインの国内株式委託手数料を無料にする構想を掲げ、国内ETF全銘柄の信用取引手数料無料化(2019年12月)、株式委託手数料アクティブプランの1日約定代金100万円まで無料化(2020年9月)、単元未満株の買付手数料実質無料化(2021年10月)と、段階的に取引コストを削っていった。2022年5月には2024年3月期上半期中に実現すると期限を切っている。

その間に収益源の多様化が進み、オンライン国内株式委託手数料の比率は2021年3月期17.5%、2022年3月期13.2%、2023年3月期11.2%と漸減した。捨てても立つところまで先に下げてから、無料化に踏み切った。

内容

無料の対象はオンラインの国内株式に限られ、対面での国内株式、外国株式、先物、個別株オプション等の手数料は残した。2024年3月期第4四半期に対象外の顧客から受け取った手数料収益は823百万円ある。9月22日の第二弾で新NISAにおける米国個別株や海外ETFの売買手数料を、11月30日の第三弾で米ドル/円のリアルタイム為替手数料を、それぞれ無料にした。

失った委託手数料を埋めたのは信用取引と外国為替に連なる収益で、金融収益は2023年3月期の46,192百万円から2025年3月期には85,999百万円へ伸びた。SBI証券の営業収益は2024年3月期203,398百万円、2025年3月期238,867百万円といずれも過去最高を更新した。

含意

2024年1-3月の新規口座開設件数は約77万件を記録し、2024年3月末のグループ証券口座数は国内最多の1,245万件、グループ全体の顧客基盤は5,000万件を超えた。金融サービス事業セグメントの収益は2025年3月期に1兆2,022億円、税引前利益は2,254億円へ伸びている。

SBI証券に口座を開いた顧客は、同社の他の金融商品だけでなく、グループ各社が提供する商品・サービスを知る入口にもなる。無料化はその入口を広げる投資にあたり、現在はグループ証券口座数3,000万の早期達成を目標に掲げている。取引の仲介で稼ぐ会社から、口座という顧客基盤を総合的に収益化する会社への組み替えが、数字の上に出た判断である。

いつ何が起きたか 9件
筆者の見解
筆者の見解

手数料を捨て、顧客基盤に賭ける

この判断の核心は、まだ稼いでいる収益源を、稼げるうちに自ら捨てた点にある。オンラインの国内株式委託手数料は2023年3月期でなお営業収益の11.2%を占めていたが、無料化の構想を掲げてから実行まで4年をかけ、その間に取引コストの引き下げを重ねて比率を落とし切ってから手放した。順序が逆であれば、収益が細ってから追い込まれる値下げ競争になっていた。ゼロ革命は価格の勝負というより、いつ捨てるかを自分で決めきった時間の勝負だったと推察される。無料化を先に宣言し、埋め合わせの収益源を後から積む形では、この着地にはならなかった。

もっとも、捨てた手数料の穴を埋めたのは信用取引と外国為替に連なる金融収益であり、これは相場と金利の水準に強く依存する。約380億円の逸失を吸収できた背景には、株式市場の活況と金利上昇という追い風があったことも大きい。手数料をゼロにした以上、各社の差は品ぞろえとグループの厚みへ移り、証券会社の価値は取引を仲介することから顧客基盤そのものを持つことへ動く。その賭けが正しかったかは、相場が反転した期に初めて問われるのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
ゼロ革命の条件

ゼロ革命の条件

科目 概要 備考
発表日 2023年8月31日 2019年6月にオンラインの国内株式委託手数料無料化構想を発表していた
適用開始 2023年9月30日注文受付分 2022年5月に2024年3月期上半期中の実現を掲げ、その期限どおりに開始した
対象 オンラインの国内株式売買手数料 インターネットコースの顧客が対象。現物・信用の別は問わない
据え置いた手数料 対面での国内株式、外国株式、先物、個別株オプション等 2024年3月期第4四半期に対象外の顧客から受け取った手数料収益は823百万円
ゼロ革命第二弾 2023年9月22日発表 新NISAにおける米国個別株(ADR含む)と海外ETF(米国・中国・韓国・シンガポール)の売買手数料も無料
ゼロ革命第三弾 2023年11月30日発表 米ドル/円のリアルタイム為替手数料を無料化
2024年3月期の逸失収益 158億円 試算。開始直前の2024年3月期上半期の平均ベーシスを基に算出している
2025年3月期の逸失収益 約380億円 試算。ゼロ革命が通期で影響した最初の期にあたる

出所:SBIホールディングス 2024年3月期・2025年3月期 決算説明会資料/有価証券報告書 第26期(2024年3月期)【対処すべき課題等】

SBI証券の営業収益と委託手数料の推移

SBIホールディングス:SBI証券の営業収益と委託手数料の推移

(百万円) 営業収益委託手数料うちオンライン国内株式金融収益 備考
2019年3月期 122,537−−−
2020年3月期 124,466−−−
2021年3月期 160,356−−− オンライン国内株式委託手数料の比率は17.5%
2022年3月期 166,62740,780−43,448 オンライン国内株式委託手数料の比率は13.2%
2023年3月期 175,05339,45019,59546,192 無料化の対象となる部分が営業収益の11.2%まで低下していた
2024年3月期 203,39836,82713,84066,130 9月30日注文受付分から無料化。下半期の逸失収益は158億円と試算
2025年3月期 238,86729,8751,59685,999 無料化が通期で影響。逸失収益は約380億円と試算
SBI証券の営業収益とオンライン国内株式委託手数料の比率
営業収益(百万円)うちオンライン国内株式率(%)

出所:SBIホールディングス 2020年3月期〜2025年3月期 決算説明会資料(SBI証券連結業績・日本会計基準)

金融サービス事業セグメントの推移

SBIホールディングス:金融サービス事業セグメントの推移

(百万円) 収益税引前利益 備考
2019年3月期 229,23966,568
2020年3月期 246,75353,379
2021年3月期 311,72485,755
2022年3月期 396,179282,924
2023年3月期 886,748150,653 セグメント区分の変更とSBI新生銀行の連結による。前期の組替後は497,751
2024年3月期 1,031,439164,981 逸失収益158億円を吸収して増収増益
2025年3月期 1,202,206225,369
金融サービス事業の収益と税引前利益
収益(百万円)税引前利益率(%)

出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第21〜27期(セグメント情報・各期の当期欄)

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参考文献
出典・参考

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