新生銀行の連結子会社化(2021年・SBIHDの決断)

更新:
論点公的資金の返済ごと連結子会社化するか
SBIHD:業績の推移
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
負ののれん2,637億円を生んだ企業結合と、非公開化までの追加取得

何をなぜ決めたか:負ののれん2,637億円を生んだ企業結合と、非公開化までの追加取得

概要

2021年12月17日、SBIホールディングスは新生銀行の議決権47.77%を握って支配を獲得した。支払対価の公正価値は113,844百万円、公開買付け前から保有していた持分を公正価値で測り直した85,391百万円と合わせ、取得原価は199,235百万円となった。

受け入れた資産の公正価値は10,260,501百万円、引き受けた負債は9,287,596百万円、非支配持分は509,916百万円で、差額として負ののれん発生益263,754百万円が生じた。取得日において株式時価総額が純資産価額を下回る水準であったことなどによる。

背景

SBIは2019年以降、島根銀行を皮切りに地方銀行への出資を重ね、「第4のメガバンク構想」を掲げてきた。証券とネット銀行は擁したが、連合の中核となる普通銀行の免許と店舗網を欠いていた。新生銀行は旧・日本長期信用銀行を前身とし、破綻・一時国有化を経て再出発した銀行で、約3,494億円の公的資金が返済されないまま残る資本構造にあった。純資産を下回る時価総額が長く続いていたことが、のちに負ののれん発生益として連結の損益に表れる。

内容

新生銀行は第3四半期から金融サービス事業に取り込まれ、連結総資産は前期末の7,208,572百万円から17,838,200百万円へ2.5倍になった。負債側では顧客預金6,402,181百万円と社債及び借入金1,807,967百万円を新たに引き受けている。

金融サービス事業の税引前利益は負ののれん発生益を含めて282,924百万円と前期比227.5%増になった一方、取得日から期末までに新生銀行が計上した当期損失は56,421百万円で、主に貸付金に対する予想信用損失を認識したことによる。取得関連費用1,062百万円は販売費及び一般管理費に計上した。

含意

支配獲得の翌期以降、SBIは持分を積み増していく。2023年5月15日から6月23日まで2度目の公開買付けを行い、決済開始日の6月30日時点で所有割合は53.74%となった。株式併合を含むスクイーズアウトを経てSBI新生銀行は上場を離れ、2025年3月31日現在の議決権所有割合は100.0%に達している。公的資金は2025年3月7日付の「確定返済スキームに関する合意書」に基づき、残額約2,300億円をSBIホールディングスが全額負担する形で同年7月31日に完済された。

いつ何が起きたか9件
当時の取締役15名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

考察:買い値より安く取得した銀行と、残された返済
考察

考察:買い値より安く取得した銀行と、残された返済

取得原価199,235百万円に対し、受け入れた純資産の持分は上回っていた。差額の263,754百万円は負ののれん発生益として一気に損益へ落ち、当期利益を過去最高へ押し上げている。これは経営努力の成果ではなく、買収時点の市場が新生銀行の純資産を評価していなかったことの裏返しにすぎない。長く純資産割れが続く銀行だったからこそ、過半に満たない持分でも安く支配が取れた。割安に買えたという事実は、その資産の質にも同じだけの疑いが向いていたことを意味する。取得日から期末までの当期損失56,421百万円が、その疑いの一部を数字で示している。

もっとも、一時の益では計れないものをこの買収は同時に伴っていた。上場子会社のままでは先行投資も迅速な連携も難しいとして、SBIは2度目の公開買付けと株式併合で新生銀行を市場から降ろし、少数株主に配慮する意思決定の制約を外している。残った制約は国だった。公的資金は返済が終わるまで資本と配当の両方を縛り続け、最終的にはSBIが残額を全額負担して決着した。中核銀行を得る代償として国家的な返済を引き受けたことが、この買収を単なる割安買いから区別している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

数字で見る

図と表

SBIHD:連結総資産と金融サービス事業の推移

総資産額(百万円)
SBIHD:連結総資産と金融サービス事業の推移
(百万円)総資産額金融サービス事業の収益金融サービス事業の税引前利益備考
2017年3月期3,850,001176,98948,853
2018年3月期4,535,964217,27263,888
2019年3月期5,034,124229,23966,568
2020年3月期5,513,227246,75353,379
2021年3月期7,208,572311,72485,755セグメントは各期の有価証券報告書の当期の数値。翌期の組替後とは異なる
2022年3月期17,838,200396,179282,924新生銀行を第3四半期から連結。税引前利益は負ののれん発生益を含む
2023年3月期22,301,975886,748150,653SBI新生銀行の通期を取り込んだ最初の期
2024年3月期27,139,3911,031,439164,981
2025年3月期32,113,4301,202,206225,369
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第19期〜第27期(主要な経営指標等の推移、報告セグメントごとの収益・利益)
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第19期〜第27期(主要な経営指標等の推移、報告セグメントごとの収益・利益)

SBIHD:連結の収益と当期利益の推移

収益(百万円)
SBIHD:連結の収益と当期利益の推移
(百万円)収益親会社の所有者に帰属する当期利益備考
2017年3月期261,93932,455
2018年3月期337,01746,684
2019年3月期351,41152,548
2020年3月期368,05537,487
2021年3月期541,14581,098
2022年3月期763,618366,854負ののれん発生益263,754が当期利益を押し上げた
2023年3月期956,97735,445一時要因が剥落し、当期利益は前期比9割減となった
2024年3月期1,210,50487,243
2025年3月期1,443,733162,120
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第22期・第27期(主要な経営指標等の推移)
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第22期・第27期(主要な経営指標等の推移)

企業結合の条件

企業結合の条件
科目概要備考
被取得企業㈱新生銀行東京証券取引所に上場する普通銀行。2023年1月に㈱SBI新生銀行へ商号変更
取得の法的形式現金を対価とする公開買付け公開買付者は完全子会社のSBI地銀ホールディングス㈱
企業結合日2021年12月17日公開買付けの決済の開始日。第3四半期から連結の範囲に含めた
取得した議決権比率47.77%2022年3月31日現在の議決権所有割合は48.6%で、全て間接所有
支払対価の公正価値113,844百万円対価は現金
既保有持分の公正価値85,391百万円公正価値での再測定により、収益に23,292百万円の利益を計上した
取得原価199,235百万円支払対価と既保有持分の公正価値の合計
取得した資産の公正価値10,260,501百万円現金及び現金同等物1,853,202、営業債権及びその他の債権6,737,569を含む
引き受けた負債の公正価値9,287,596百万円顧客預金6,402,181、社債及び借入金1,807,967を含む
非支配持分509,916百万円識別可能純資産に非支配持分割合を乗じて測定した
負ののれん発生益263,754百万円取得日において株式時価総額が純資産価額を下回る水準であったことなどによる
測定期間中の修正負ののれん発生益が6,458百万円減少貸付金・非上場株式・顧客預金の情報整理に時間を要し、暫定的な金額で測定
取得関連費用1,062百万円販売費及び一般管理費に計上した
取得日以降の当期損失56,421百万円主に貸付金に対する予想信用損失を認識したことによる
期首に結合したと仮定した収益1,073,183百万円同じ仮定での当期利益は172,650百万円。この損益情報は監査の対象外
2度目の公開買付け後の所有割合53.74%2023年5月15日から6月23日まで実施し、決済の開始日は同年6月30日
非公開化後の議決権所有割合100.0%2025年3月31日現在。うち間接所有77.8%
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第24期(2022年3月期)【企業結合等関係】 / 第25期(2023年3月期)【対処すべき課題等】 / 第27期(2025年3月期)【関係会社の状況】
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第24期(2022年3月期)【企業結合等関係】 / 第25期(2023年3月期)【対処すべき課題等】 / 第27期(2025年3月期)【関係会社の状況】
当時の取締役15名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

次に読む決断

免責事項およびポリシー