「第4のメガバンク」構想と地方銀行連合の形成

2019年実施

低金利で疲弊する地方銀行を、SBIはなぜ大型合併ではなく一行ずつの資本提携で束ねようとしたのか

時期 2019年9月
意思決定者 北尾吉孝氏(社長)
論点 地銀連合と分散型の金融再編
概要
2019年9月、SBIホールディングスは島根銀行への出資を皮切りに、全国の地方銀行を資本で束ねる「第4のメガバンク」構想を打ち出した。共同の持株会社のもとにSBIのシステム・運用力と地銀の地域基盤を組み合わせ、三大メガバンクに次ぐ分散型の銀行連合を築く経営判断。
背景
低金利と人口減で地方銀行の収益は疲弊し、2019年3月期は上場地銀の約7割が減益か赤字に沈んだ。SBIは金融ノウハウとデジタルの基盤を持つが地域の顧客接点は薄く、地銀の地域基盤とSBIの技術力は互いを補える関係にあった。
内容
2019年9月に島根銀行へ計25億円を出資して議決権の約34%を握り、以後、福島・清水・東和・じもとHD・筑波・大光と地銀への資本参加を重ねた。中央集権でない「分散型の連合体」を掲げ、2025年8月の東北銀行で提携先は計10行に達した。
含意
2021年に子会社化した新生銀行が連合の中核銀行となり、SBI新生銀行をコアとする広域の金融基盤という構想へつながった。一方で2025年12月には筑邦銀行が離脱し、参加地銀は9行に。連合をどう束ねるかという設計は、なお定まっていない。
筆者の見解

一行ずつ資本で結ぶ、分散型の銀行連合という賭け

この判断の核心は、地方銀行の再生とSBI自身の成長を一つの構想の上で重ね合わせた点にある。低金利と人口減という同じ逆風が、地銀には収益の枯渇として、SBIには全国の顧客接点の不足として現れていた。北尾社長は、地銀を救う話としても、SBIが地域へ食い込む話としても語れる枠組みを選んだ。島根銀行への出資から始め、一行ずつ資本で結んでいく手法は、大型合併で一気に統合する従来の銀行再編とは異なる速度と手ざわりを持っていた。

分散型の連合体という設計は、地銀の自立を残す点で受け入れられやすい半面、束ねる力の弱さと裏表であった。筑邦銀行の離脱は、資本で結んだだけの連合がほどけうることを示している。新生銀行という中核を得た今、SBIに残された課題は、10行に届いた連携網を全国規模の一つの金融基盤へ練り上げられるかどうかにある。地方の金融をだれがどう支えるのか――人口が減り続ける日本で避けて通れないこの問いに、SBIの地銀連合は民間からの一つの答えを示している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

収益が細る地方銀行と、顧客接点を欠くSBI

2019年当時、地方銀行は収益の疲弊に直面していた。日本銀行のマイナス金利政策が続くなかで運用から得られる利ざやは細り、地銀が保有する有価証券の約4割は利回りの低い国債・地方債が占めていた。人口減少と地域経済の縮小も重なり、2019年3月期には本業のもうけを示すコア業務純益が前期を下回り、上場する地銀の約7割が減益か赤字の決算に沈んだ。単独では立ちゆかない地銀が増えるという見立てが、業界で広く語られていた[1][2]

一方のSBIホールディングスは、ネット証券最大手のSBI証券や住信SBIネット銀行を抱え、金融のノウハウとデジタルの基盤を蓄えていた。だが預金や地元企業との取引といった地域の顧客接点は薄く、全国の家計や中小企業へ直接届く回路を持たない。北尾社長は、SBIのシステムや資産運用の力で地域の金融機関を支え、地銀の再生を通じて地方経済そのものを活性化できると説いた。地銀の立て直しとSBI自身の事業拡大を、同じ設計図の上で描く発想であった[3]

決断

島根銀行を皮切りに、共同持株会社を構想する

2019年9月、SBIホールディングスは島根銀行との資本業務提携を発表した。傘下のSBI地域銀行価値創造ファンドなどを通じて島根銀行の増資を引き受け、計25億円を出資して議決権の約34%を握る。全国の地方銀行と組む「連合構想」の第1弾で、SBIは資産運用やシステムの共通化を島根銀行に持ち込み、収益力の底上げをはかった。地銀を一行ずつ資本で結んでいく、その最初の一手であった[4]

北尾社長がこの提携の先に描いたのが、共同の持株会社を軸とする「第4のメガバンク」構想であった。SBIグループが過半を出資し、大手銀行や有力な地方銀行、ベンチャーキャピタルにも出資を募って、東日本と西日本に一つずつ持株会社を設けるという青写真を掲げた。集まった地銀が資産運用やシステムを共通化すれば、単独では重くのしかかるシステム費用も分け合える。三菱UFJ・三井住友・みずほに次ぐ第4の銀行連合を、全国の地銀を束ねて築こうという狙いであった[5]

「分散型の連合体」という思想

もっとも、北尾社長が掲げたのは既存メガバンクの再現ではなかった。三大メガバンクのように本部が地方を統べる中央集権ではなく、地方の自立を促す「分散型の連合体」を志向すると説く。地元に根を張る地銀それぞれの主体性を残したまま、SBIのシステムと運用力で全体を支える。「リージョナルからネーションワイドへ」――地域に閉じた地銀を、全国につながる金融の生態系へ組み替える。この分散という発想が、中核を頂点に置く従来の金融再編とSBIの構想を分けていた[6]

結果

全国へ広がる連携網と、中核銀行の獲得

島根銀行に続き、SBIは2019年11月に福島銀行と資本業務提携を結んで議決権の約19%を握り、清水・東和・じもとホールディングス(きらやか・仙台)・筑波・大光と地銀への出資を重ねた。2025年8月には東北銀行への3%出資を発表し、資本業務提携を結んだ地銀は計10行に達した。中央に大きな本部を築くのではなく、各地の地銀を一行ずつ束ねていく分散型の連携網が、6年をかけて全国へ広がった[7][8]

連合の中核を担う銀行も手に入れた。SBIは2021年12月にTOBを経て新生銀行を子会社化し、2023年1月にSBI新生銀行へ改称した。全国免許を持つこの銀行を中核に据え、SBIは「SBI新生銀行をコアとする広域地域プラットフォーマー」を掲げる。ただし、この連合はまだ完成していない。2025年12月には筑邦銀行が提携を解消して連合を離れ、参加地銀は9行となった。中核銀行を得たあとの各地銀の役割や、連合全体をどう統べるかという設計は、なお定まっていない[9][10]

出典・参考