東海旅客鉄道完全民営化をめぐる条件闘争 ── 長期債務の返済策を引き出したうえでの規制離脱

4.7兆円の債務を負う会社は、なぜ規制の撤廃を急がず条件を先に取りにいったのか

更新:

時期 2001年2月
意思決定者(推定) 葛西敬之 東海旅客鉄道 社長
論点 完全民営化の受け入れ条件と長期債務の処理
概要
2001年2月、扇千景国土交通大臣がJR本州3社へ完全民営化の最終案を示した際、東海旅客鉄道(JR東海)が規制からの解放より旧国鉄から継承した長期債務の返済策を優先し、国から返済促進の手立てを検討するとの言質を引き出したうえで受け入れた経営判断。同年12月にJR会社法の適用対象から外れ、2006年4月に政府保有株の売却が完了して完全民営化に至った。
背景
JR東海の長期債務は単独ベースで4.7兆円に達し、2000年度売上高との対比では4.3倍と、2.4倍のJR東日本を上回る水準にあった。うち3.8兆円が東海道新幹線に関わるもので、葛西敬之社長は新幹線の買い取り時に土地部分を過大に評価されたことが債務を膨らませたと主張していた。フリーハンドを最優先したJR東日本・西日本とは異なる立場に置かれていた。
内容
完全民営化の柱は政府保有株の売り切りとJR会社法の適用除外だが、赤字ローカル線の維持などを国が「指針」として出せる形は残った。JR東海は債務返済の手立てが示されなければ受け入れられないとの立場をとり、国土交通大臣から返済促進を考えるとの言質を得た。あるJR関係者はこれを条件闘争での勝利と受け止めた。
含意
2001年12月にJR会社法の適用対象から除外され、2005年7月に鉄道・運輸機構保有株60万株、2006年4月に残る28万6071株が売却されて完全民営化が完了した。発足から19年を要し、JR本州3社では最も遅い到達となった。自力返済も並行して進み、2006年3月期の連結売上高は1兆4676億円、当期純利益は1224億円だった。

背景

売上高の4.3倍という長期債務

1987年の分割民営化にあたり、JR東海は収益力の高い東海道新幹線とともに旧国鉄の債務を引き受けた。長期債務は単独ベースで4.7兆円に達し、2000年度売上高との対比では4.3倍と、2.4倍のJR東日本を上回った。債務の8割にあたる3.8兆円が東海道新幹線に関わるもので、同じ本州3社のなかでも突出した重さであった[1][2]

葛西敬之社長は、この債務の膨張を新幹線の買い取り条件に帰していた。JR各社が新幹線を国から買い取った際、収益力の高い東海道新幹線を持つ同社が土地部分を過大に評価されたうえで購入したため、長期債務が膨らんだという主張である。のちに葛西氏は、割り当てられた債務が東海道新幹線の譲渡価格を2兆円以上も上回る水準だったとも振り返っている[3][4]

内容

フリーハンドより先に返済の手立てを取る

2001年2月21日、扇千景国土交通大臣がJR本州3社の社長へ完全民営化の最終案を示した。柱は政府保有株の売り切りとJR会社法の適用除外で、普通の私鉄とは公共性の点で一線を画すため、赤字ローカル線の維持などを国が「指針」として出せる形は残された。完全民営化によるフリーハンドを最優先したJR東日本・JR西日本に対し、JR東海は異なる立場をとった[5][6]

JR東海は、長期債務返済への手立てを国が示さなければ完全民営化は受け入れられないとの立場を貫き、結果として国土交通大臣から返済促進を考えるとの言質を引き出した。あるJR関係者はこの決着を「JR東海が条件闘争に勝った」と受け止めている。葛西社長は当時、毎年1000億〜2000億円の返済を続けており、10年後には債務を2兆円台まで減らして経営の安定性を私鉄並みにしたいと述べた[7][8][9]

含意

19年をかけた完全民営化の完了

2001年12月、JR会社法改正法の施行によりJR東海はJR会社法の適用対象から除外された。政府保有株の処分はその後も続き、2005年7月に鉄道・運輸機構国鉄清算事業本部が保有する60万株が売却され、2006年4月に残る28万6071株の売却が終わって同機構の保有株はなくなった。1987年の発足から19年を要し、JR本州3社では最も遅い完全民営化となった[10][11][12]

完全民営化を達成した2006年3月期の連結売上高は1兆4676億円、営業利益は4037億円、当期純利益は1224億円だった。運輸業のセグメント利益3271億円は連結営業利益の約94%を占め、収益が東海道新幹線に集中する構造は変わらなかった。規制の枠から外れた一方で、返済を要する債務と単一路線への依存はそのまま残った[13][14]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2001年5月12日号「[特集]ドラマチック名古屋2001 JR東海完全民営化後の試練と課題 関連事業拡大より、鉄道への資源集中がカギ」
  • 日本経済新聞(2005年1月20日)
  • 東海旅客鉄道 有価証券報告書(2025年3月期)【沿革】
  • 東海旅客鉄道 有価証券報告書(2006年3月期)

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