国後島不正入札問題(2002年・三井物産の決断)

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三井物産:業績の推移
売上高(億円)当期純利益率(%)
強弁の会見からの社長交代と、数字より倫理を掲げた法令順守の再構築2002年7月3日、東京地方検察庁特別捜査部は、色丹・択捉・国後の北方3島のディーゼル発電設備工事をめぐる偽計業務妨害の容疑で、三井物産の社員3人を逮捕した。翌4日には本社が家宅捜索を受け、およそ1か月後にはモンゴル向け政府開発援助(ODA)をめぐる不正競争防止法違反の容疑で再び逮捕者を出す。清水愼次郎社長は引責辞任し、9月30日付で槍田松瑩専務が社長に就任した。ところが就任から3か月半後の2003年1月、子会社のピュアース株式会社が製造し三井物産が販売していたディーゼル車向け粒子状物質減少装置DPFの性能試験で、データが改ざんされていた。2004年11月に判明したこの問題の補償関連費用は、累計450億円に達する。

何をなぜ決めたか:強弁の会見からの社長交代と、数字より倫理を掲げた法令順守の再構築

概要

2002年7月3日、東京地方検察庁特別捜査部は、色丹・択捉・国後の北方3島のディーゼル発電設備工事をめぐる偽計業務妨害の容疑で、三井物産の社員3人を逮捕した。翌4日には本社が家宅捜索を受け、およそ1か月後にはモンゴル向け政府開発援助(ODA)をめぐる不正競争防止法違反の容疑で再び逮捕者を出す。清水愼次郎社長は引責辞任し、9月30日付で槍田松瑩専務が社長に就任した。ところが就任から3か月半後の2003年1月、子会社のピュアース株式会社が製造し三井物産が販売していたディーゼル車向け粒子状物質減少装置DPFの性能試験で、データが改ざんされていた。2004年11月に判明したこの問題の補償関連費用は、累計450億円に達する。

背景

国後島ディーゼル発電設備工事の入札は、2000年3月に支援委員会が実施した。三井物産は、入札する気のない住友商事と兼松にも加わってもらって一般入札の体裁を整え、外務省ロシア支援室の課長補佐に予定価格のもとになる積算価格を教えてもらい、予定価格の99.9%で落札した。この案件は、当時の上島重二社長から社長賞の表彰を受けている。

2000年6月に後を継いだ清水愼次郎社長は、2001年10月に16の営業本部を5つのグループへ集約し、本部長に3億円まで認めていた投資の裁量を、グループのプレジデントには30億〜50億円で与える方向で調整した。当時常務の槍田松瑩氏は『今の物産からは10のリスクで15の利益を出す提案は出ても、100のリスクで300を儲けようとする提案はあまり出てこない』と、守りに傾いた社内の空気を認めている。

内容

逮捕の日の記者会見には、当初は広報部長1人で臨む予定で、直前に所管の田代淳副社長が出席を決めた。田代淳副社長は『捜査については司法当局に委ねるが社内調査には自信を持っている』と言い切り、調査の中身は明かさなかった。翌日の家宅捜索にも社長は立ち会っていない。社員の起訴が決まった7月24日、社長・会長ら首脳4人が役員報酬の20%を3か月自主返上すると発表し、日本経団連の副会長を務める上島重二会長は経団連から3か月の活動自粛を言い渡された。

9月1日に後任を打診された槍田松瑩専務は、事件の教訓を『我々は売り上げや利益といった数字ばかりに目を奪われ、倫理観を失っていた』と認め、研修による法令順守の啓蒙と、社内の不正を調べる検査役の増員を掲げた。社長に就任して半年後には『私まで、利益、利益と言い出したら、この会社は「形状記憶合金」のように元の状態に戻ってしまう』と語り、2003年4月から各階層の社員と膝を交えて話す車座集会を始めている。社長直轄の内部監査部は、2006年3月末に検査役34名を含む61名の陣容となった。

含意

DPFは2002年2月に東京都へ指定を申請し、4月に指定を受けた301B型である。これを付けた都バスに黒煙の苦情が寄せられ、都の試験ではPM減少率が40%程度にとどまった。2003年1月16日から18日に長崎で行った都職員立会いの試験で、ピュアースの副社長と三井物産の社員の指示によりPMの重さが読み替えられ、規制基準の60%以上の性能があるように装われた。関与したのはこの2名を含む4名に限られる。

判明後は代替品との無償交換、購入代金相当額の返還、買替支援の3点でユーザーに対応し、2005年3月期にユーザー対策費用280億円と補助金弁償額80億円、2006年3月期に90億円を計上した。再発防止の芯は2005年4月に制定した特定事業管理制度で、「R&D型製造業」「環境関連事業」「政府の補助を受ける等、公共性の高い事業」の社内審査を強化し、環境と技術に知見のある社外専門家を環境検査人として常置した。

いつ何が起きたか16件
筆者考察
考察

考察:宣言の直後に起きた改ざん

この交代で問われたのは不正入札そのものより、社内の論理が世間の常識から外れていることへの無自覚であった。副社長が社内調査に自信を示し、社長は家宅捜索に立ち会わず、首脳の責任は報酬の自主返上で済ませようとした。一連の対応は、事件を社内で収めようとするものだったとみられる。槍田松瑩社長が利益を口にしないとまで言い切ったのは、検査役を増やすような制度の手当てだけでは、数字を追う現場の風土が元に戻ると見ていたからだろう。

もっとも、DPFの改ざんは槍田松瑩社長の就任から3か月半後、グレーな仕事はやらないと宣言した直後に起きている。東京都の基準に届かない製品を、子会社の副社長と自社の社員が試験の数字で通した構図は、数字の病気が新規事業の現場で再発したものと思われる。再発防止で名指しされたのが「R&D型製造業」「環境関連事業」「政府の補助を受ける等、公共性の高い事業」だったのは、トップの言葉と監査の増員だけでは、商社が自ら作り手に回った事業の技術までは検められなかったことを示している。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

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三井物産:DPF補償関連費用と当期純利益の推移

三井物産:DPF補償関連費用と当期純利益の推移

DPF補償関連費用(百万円)当期純利益(百万円)
三井物産:DPF補償関連費用と当期純利益の推移
(百万円)DPF補償関連費用当期純利益備考
2002年3月期−55,400
2003年3月期−31,1002002年7月に社員3人が逮捕され、9月に社長が交代した期
2004年3月期−68,400
2005年3月期36,000121,100DPF補償関連費用の初計上。ユーザー対策費用と補助金弁償額の合計
2006年3月期9,000202,409対応策ごとの見込費用を見直し、ユーザー対策費用を追加計上した
2007年3月期△3,864301,502全台を回収して支払額の見通しが固まり、見積計上額を戻し入れた
2008年3月期−410,061
出所:三井物産 有価証券報告書 第87〜89期(DPF補償関連費用・連結損益計算書)
出所:三井物産 有価証券報告書 第87〜89期(DPF補償関連費用・連結損益計算書)
経緯と対応

経緯と対応

経緯と対応
科目概要備考
国後島事件の記載会社の公表資料に記載なし2006年3月期以降の有価証券報告書に、事件と社員の処分についての記載はない
虚偽データの判明2004年11月子会社ピュアースが製造し自社が販売していたDPFについて、偽の試験データを作って提出していた
対象となった商品補助金対象のDPF東京都はじめ八都県市・国土交通省・環境省・関連団体ほかの補助金対象商品
販売済みの台数約21,500台
ユーザー対応策無償交換・代金返還・買替支援代替品との無償交換、廃車・転売に伴う返品への購入代金相当額の返還、新車・中古車への買替支援
補償費用の計上36,000百万円2005年3月期。ユーザー対策費用約28,000百万円と補助金弁償額約8,000百万円
補償費用の追加計上9,000百万円2006年3月期。ユーザー要望の変化に基づき対応策ごとの見込費用を見直した
補助金の一括弁償2006年3月期に完了補助金交付団体からの請求額に基づき計上した
販売済みDPFの回収率99%超2006年6月22日現在。2007年3月期に回収対象を全台回収した
見積費用の戻入益3,864百万円2007年3月期。回収対象を全台回収し、見込んでいた支払額がほぼ固まった
補償費用の累計45,000百万円2006年3月期末の未払額は9,391百万円
製造子会社の処置ピュアース株式会社を清算2007年3月期中に清算した
再発防止の制度特定事業管理制度2005年4月制定。R&D型製造業・環境関連事業・公共性の高い事業の審査を強化
社外専門家の配置環境検査人を常置メーカー経験者などを採用し、コンプライアンス統轄部(後のCSR推進部)に置いた
内部通報の窓口全8ルート社外の弁護士および第三者機関へのルートを含む。国内関係会社も利用できる
コンプライアンス委員会内部統制委員会の下部組織社外弁護士を委員に含む。2006年3月期は2回開催した
出所:三井物産 有価証券報告書 第87期(2006年3月期)【対処すべき重点課題】【コーポレート・ガバナンスの状況】、第88期(2007年3月期)・第89期(2008年3月期)【DPF補償関連費用】
出所:三井物産 有価証券報告書 第87期(2006年3月期)【対処すべき重点課題】【コーポレート・ガバナンスの状況】、第88期(2007年3月期)・第89期(2008年3月期)【DPF補償関連費用】
参考文献

参考文献

参考

  • 日経ビジネス 2002年9月30日号
  • 日経ビジネス 2002年9月16日号
  • 三井物産 有価証券報告書 第87期(2006年3月期)【財政状態及び経営成績の分析】
  • 三井物産 有価証券報告書 第87期(2006年3月期)【連結財務諸表】注記22「DPF補償関連費用」
  • 日経ビジネス 2001年10月22日号
  • 日経ビジネス 2002年8月5日・12日号
  • 日経ビジネス 2003年4月28日号
  • 日経ビジネス 2001年10月22日号(日経BP社)
  • 日経ビジネス 2002年9月30日号(日経BP社)
  • 日経ビジネス 2002年9月16日号(日経BP社)
  • 日経ビジネス 2003年4月28日号(日経BP社)
  • 三井物産 有価証券報告書 第87期(2006年3月期)【対処すべき課題】
  • 三井物産 有価証券報告書 第88期(2007年3月期)【連結財務諸表】注記21「DPF補償関連費用」
  • 三井物産 有価証券報告書 第87〜89期(DPF補償関連費用・連結損益計算書)
  • 三井物産 ニュースリリース「平成15年1月の立会い試験時に関する調査報告要約」
  • 三井物産 有価証券報告書「第87期(2006年3月期)【対処すべき重点課題】」
  • 三井物産 有価証券報告書「第87期(2006年3月期)連結財務諸表注記22「DPF補償関連費用」」
  • 三井物産 有価証券報告書「第87期(2006年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況】」
  • 三井物産 有価証券報告書「第88期(2007年3月期)連結財務諸表注記21「DPF補償関連費用」」
  • 三井物産 有価証券報告書「第89期(2008年3月期)【財政状態及び経営成績の分析】」

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