三井物産 国後島不正入札問題 DPFの虚偽データと併せて突きつけられた、内部統制の作り直しと360億円の補償
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2002年7月3日、東京地方検察庁特別捜査部が国後島のディーゼル発電施設をめぐる不正入札で三井物産の社員3人を逮捕した。7月24日に社員2人が偽計業務妨害で起訴されると、清水愼次郎社長は役員報酬の20%を3か月自主返上する処分にとどめ、引責辞任を否定した。同年10月、槍田松瑩氏が後任の社長に就任し、コンプライアンスの徹底を最重要課題に掲げて内部監査制度を拡充する。その内部監査が2004年11月、100%子会社のピュアース株式会社が製造し自社が販売していたディーゼル車向け粒子状物質減少装置DPFで、虚偽の試験データが作成・提出されていたことを掘り当てた。
- 背景
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受注は2000年4月で、総額40億円と規模の小さい案件に社長賞が出ていた。清水愼次郎社長の就任はその2か月後にあたる。着手したのは商品別のタテ割り組織で、2001年10月に16の営業本部を5つのグループへ集約し、本部長の3億円だった投資権限をグループプレジデントの数十億円へ移した。
槍田松瑩常務は 『今の物産からは10のリスクで15の利益を出す提案は出ても、100のリスクで300を儲けようとする提案はあまり出てこない』 と、提案の縮こまりを認めている。組織を開く改革が進む一方で、2001年2月に設けたコンプライアンス委員会は2002年1月に一度開かれただけで、逮捕時の社内調査を担ったのはその下に置かれた営業部門単位の委員会であった。
- 内容
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槍田松瑩社長はコンプライアンスの徹底を最重要課題に掲げ、内部監査制度を拡充して3年から4年に一度は子会社の内部監査を行う体制とし、現場の社員と語り合う車座集会も重ねた。2004年5月に始めた子会社ピュアースの監査で帳簿帳票類の不備が見つかり、本社から役員2名を派遣して体制を見直したところ、11月12日に関与した社員が告白した。虚偽データの提出に関わったのはDPF担当の室長、入社4年目の社員、製造子会社の技術開発担当者の3名だった。DPFは東京都はじめ八都県市・国土交通省・環境省・関連団体ほかの補助金対象商品で、販売は累計で約21,500台に達していた。
- 含意
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代替品との無償交換、廃車・転売に伴う返品への購入代金相当額の返還、新車・中古車への買替支援の3点でユーザーに対応し、2005年3月期にユーザー対策費用約280億円と補助金弁償額約80億円、合計360億円を計上した。2006年3月期には要望の変化を織り込んで90億円を追加し、累計は450億円となる。回収は2006年6月22日時点で99%を超え、2007年3月期に回収対象を全台回収して38億6,400万円を戻し入れた。
再発防止の芯に据えたのは、2005年4月に制定した特定事業管理制度である。「R&D型製造業」「環境関連事業」「政府の補助を受ける等、公共性の高い事業」を名指しして社内審査を強化し、メーカー経験者など環境と技術に知見のある社外専門家を環境検査人として常置した。内部監査は機能したが、その拡充だけでは商流から外れた事業の実務までは届いていなかった。
いつ何が起きたか 14件
筆者の見解
Yutaka Sugiura, 2026年8月
業績の推移
経緯と対応
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 国後島事件の記載 | 会社の公表資料に記載なし | 2006年3月期以降の有価証券報告書に、事件と社員の処分についての記載はない |
| 虚偽データの判明 | 2004年11月 | 子会社ピュアースが製造し自社が販売していたDPFで、虚偽の試験データが作成・提出されていた |
| 対象となった商品 | 補助金対象のDPF | 東京都はじめ八都県市・国土交通省・環境省・関連団体ほかの補助金対象商品 |
| 販売済みの台数 | 約21,500台 | |
| ユーザー対応策 | 無償交換・代金返還・買替支援 | 代替品との無償交換、廃車・転売に伴う返品への購入代金相当額の返還、新車・中古車への買替支援 |
| 補償費用の計上 | 36,000百万円 | 2005年3月期。ユーザー対策費用約28,000百万円と補助金弁償額約8,000百万円 |
| 補償費用の追加計上 | 9,000百万円 | 2006年3月期。ユーザー要望の変化に基づき対応策ごとの見込費用を見直した |
| 補助金の一括弁償 | 2006年3月期に完了 | 補助金交付団体からの請求額に基づき計上した |
| 販売済みDPFの回収率 | 99%超 | 2006年6月22日現在。2007年3月期に回収対象を全台回収した |
| 見積費用の戻入益 | 3,864百万円 | 2007年3月期。全台回収により支払が予想される金額がほぼ確定した |
| 補償費用の累計 | 45,000百万円 | 2006年3月期末の未払額は9,391百万円 |
| 製造子会社の処置 | ピュアース株式会社を清算 | 2007年3月期中に清算した |
| 再発防止の制度 | 特定事業管理制度 | 2005年4月制定。R&D型製造業・環境関連事業・公共性の高い事業の審査を強化 |
| 社外専門家の配置 | 環境検査人を常置 | メーカー経験者などを採用し、コンプライアンス統轄部(後のCSR推進部)に置いた |
| 内部通報の窓口 | 全8ルート | 社外の弁護士および第三者機関へのルートを含む。国内関係会社も利用できる |
| コンプライアンス委員会 | 内部統制委員会の下部組織 | 社外弁護士を委員に含む。2006年3月期は2回開催した |
出所:三井物産 有価証券報告書 第87期(2006年3月期)【対処すべき重点課題】【コーポレート・ガバナンスの状況】、第88期(2007年3月期)・第89期(2008年3月期)【DPF補償関連費用】
DPF補償関連費用と当期純利益の推移
三井物産:DPF補償関連費用と当期純利益の推移
| (百万円) | DPF補償関連費用 | 当期純利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2002年3月期 | − | 55,400 | |
| 2003年3月期 | − | 31,100 | 2002年7月に社員3人が逮捕され、10月に社長が交代した期 |
| 2004年3月期 | − | 68,400 | |
| 2005年3月期 | 36,000 | 121,100 | DPF補償関連費用の初計上。ユーザー対策費用と補助金弁償額の合計 |
| 2006年3月期 | 9,000 | 202,409 | 対応策ごとの見込費用を見直し、ユーザー対策費用を追加計上した |
| 2007年3月期 | △3,864 | 301,502 | 全台回収により支払額がほぼ確定し、見積計上額を戻し入れた |
| 2008年3月期 | − | 410,061 |
出所:三井物産 有価証券報告書 第87〜89期(DPF補償関連費用・連結損益計算書)
同じ問いに直面した会社
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参考文献
- 日経ビジネス 2001年10月22日号(日経BP社)
- 三井物産 有価証券報告書「第87期(2006年3月期)【対処すべき重点課題】」
- 三井物産 有価証券報告書「第87期(2006年3月期)連結財務諸表注記22「DPF補償関連費用」」
- 三井物産 有価証券報告書「第87期(2006年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況】」
- 三井物産 有価証券報告書「第88期(2007年3月期)連結財務諸表注記21「DPF補償関連費用」」
- 三井物産 有価証券報告書「第89期(2008年3月期)【財政状態及び経営成績の分析】」