九州支社と機能化学品の循環取引(2009年・三井物産の決断)

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論点架空取引を内部統制でどう防ぐか
三井物産:業績の推移
売上高(億円)当社の所有者に帰属する当期純利益率(%)
内部統制を有効と報告した期の架空取引の判明と再発防止策最初に発覚したのは九州支社である。2008年7月、同支社の営業部署が地元の取引先と農業資材などを回す循環取引に加わり、その一部は架空の取引だったとわかった。9か月後の2009年4月には機能化学品本部の営業部署でも、インドネシアなど東南アジアへの輸出として計上した取引に、実際の売買が伴っていなかったことが明らかになった。

何をなぜ決めたか:内部統制を有効と報告した期の架空取引の判明と再発防止策

概要

最初に発覚したのは九州支社である。2008年7月、同支社の営業部署が地元の取引先と農業資材などを回す循環取引に加わり、その一部は架空の取引だったとわかった。9か月後の2009年4月には機能化学品本部の営業部署でも、インドネシアなど東南アジアへの輸出として計上した取引に、実際の売買が伴っていなかったことが明らかになった。

2009年6月、社長から三井物産グループの全役職員へコンプライアンス意識の再徹底を指示するとともに、営業現場での管理の再徹底、業務プロセス上のコントロール強化、人材流動化の促進を再発防止策として決定した。

背景

三井物産は米国企業改革法404条に沿って内部統制を整えてきたが、それでも帳簿上は売買として処理されながら、実体を欠くと判断される取引が見つかった。内部統制の評価は2007年3月期から適用され、全社的な統制に加えて会計・決算、IT、業務プロセスに係る有効性を評価対象部署の自己評価と独立部署のテスティングで毎期確かめる仕組みが敷かれていた。

判明が重なった2009年3月期は、金融危機で当期純利益が1,776億円と前期の4,100億円から半減し、中期経営展望が掲げた3,000〜4,000億円のおよそ半額に減少した期にあたる。

内容

決定した再発防止策は、営業現場での管理の再徹底、業務プロセス上のコントロール強化、人材流動化の促進の三つである。このうち人材流動化は、営業本部の各事業領域を傾注・効率化・整理見直しに仕分けしたうえで、傾注領域へ若手・中堅社員約100名を社内横断的に再配分した2008年4月の施策の延長にあたる。

2010年3月期からは、この施策の一環として、かつ業務プロセス自体の徹底的な効率化を目的に、全社的な業務プロセス改善に関する活動へ引き継がれた。2009年3月期のコンプライアンス委員会は2回開催され、意識調査アンケートと国内関係会社の体制整備にあたっている。

含意

2009年3月期のSEC宛年次報告書Form 20-Fで、経営者は財務報告の内部統制を有効と報告し、会計監査人も同じく有効との監査意見を付けた。二つの営業部署で架空取引が判明した期に、制度としての内部統制は有効と結論された。

損失の計上額、調査の体制、過年度決算の訂正の有無は有価証券報告書に記載がなく、連結業績への影響も示されていない。公表されたのは、判明の事実と再発防止策までである。

いつ何が起きたか8件
考察:制度と現場の落差
考察

考察:制度と現場の落差

米国企業改革法404条という制度の上では有効と結論された内部統制が、営業現場の伝票の段階では働いていなかった。この判断が問われたのは、その落差をどう埋めるかだったと思われる。選ばれたのは、外部の調査委員会でも新たな委員会の設置でもなく、営業現場での管理の再徹底と業務プロセス上のコントロール強化という、既にある仕組みの締め直しであった。売買の実体がない取引を売買として処理できてしまう以上、締め直すべきは制度ではなく現場の運用だという判断が、ここに表れている。

もっとも、三つ目に掲げられた人材流動化の促進は、この件のために新たに起こした施策ではない。若手・中堅社員約100名を傾注領域へ再配分した前年のポートフォリオ施策の延長で、再発防止の名のもとに既存の人事施策が引き寄せられた形になっている。単体の従業員数はその後もほとんど動かず、平均勤続年数は18年7ヶ月から19年2ヶ月へむしろ伸びた。同じ部署に人が長く留まる構図が変わった形跡は、数字の上には見えない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月
数字で見る2表

数字で見る

図と表

三井物産:従業員数と平均勤続年数の推移

連結従業員数(名)平均勤続年数(年)
三井物産:従業員数と平均勤続年数の推移
(名)連結従業員数提出会社の従業員数平均勤続年数備考
2004年3月期39,7356,028−平均勤続年数は【主要な経営指標等の推移】に載らず、照合できていない
2005年3月期38,2105,957−
2006年3月期40,9936,08918.2平均勤続年数は年.月の表記。18.2は18年2ヶ月を指す
2007年3月期41,7616,09618.4
2008年3月期42,6216,13018.7九州支社の案件は2008年7月の判明で、この期の有価証券報告書に記載はない
2009年3月期39,8646,15318.6両案件が記載された期。連結従業員数は前期比2,757名減
2010年3月期41,4546,17718.8
2011年3月期40,0266,13619
2012年3月期44,8056,17219.2
2013年3月期45,1486,21219.2
2014年3月期48,0906,16019.1
出所:三井物産 有価証券報告書 第87〜95期(【従業員の状況】) / 三井物産 有価証券報告書 第87期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】(2004年3月期・2005年3月期の従業員数)
出所:三井物産 有価証券報告書 第87〜95期(【従業員の状況】) / 三井物産 有価証券報告書 第87期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】(2004年3月期・2005年3月期の従業員数)

経緯と対応

経緯と対応
科目概要備考
判明(九州支社)2008年7月地元取引先との農業資材などの循環取引に加わり、一部は架空取引だった
判明(機能化学品本部)2009年4月インドネシアなど東南アジア向け輸出として計上した取引に売買の実体がなかった
不正の内容実体を欠く売買取引帳簿上は売買として処理されていた。九州支社の案件は一部が架空取引
社長の指示コンプライアンス意識の再徹底社長より三井物産グループの全役職員へ指示した
再発防止策営業現場での管理の再徹底三つの施策のうちの一つ
再発防止策業務プロセス上のコントロール強化2010年3月期からは全社的な業務プロセス改善活動へ引き継がれた
再発防止策人材流動化の促進2008年4月に若手・中堅社員約100名を傾注領域へ再配分した施策の延長にあたる
財務報告に係る内部統制有効2009年3月期のForm 20-Fで経営者が報告し、会計監査人も有効とする監査意見を出した
損失額と過年度決算の訂正記載なし損失の計上額・調査の体制・訂正の有無は有価証券報告書に記載がない
出所:三井物産 有価証券報告書 第90期(2009年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況】、第91期(2010年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
出所:三井物産 有価証券報告書 第90期(2009年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況】、第91期(2010年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
参考文献

参考文献

参考
  • 三井物産 有価証券報告書「第90期(2009年3月期)【対処すべき課題】」
  • 三井物産 有価証券報告書「第90期(2009年3月期)【事業等のリスク】」
  • 三井物産 有価証券報告書「第90期(2009年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況】」
  • 三井物産 有価証券報告書「第91期(2010年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 三井物産 有価証券報告書「第92期(2011年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 三井物産 アニュアルレポート「アニュアルレポート2009(2009年3月期)」

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