シャープTFT液晶カルテルの罰金合意:米国では争わず日本では審判で争った、国際カルテル調査への二重の応じ方
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- 概要
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2006年12月、TFT液晶事業をめぐって公正取引委員会、米国司法省、欧州委員会競争総局等の調査が一斉に始まった。シャープは米国司法省の調査について罰金を支払うなどに合意し、2009年3月期に独禁法関連損失12,004百万円を特別損失へ計上している。
一方、公正取引委員会から受けた排除措置命令及び課徴金納付命令には審判開始請求を行い、2013年3月期まで命令の当否を争った。北米・欧州では損害賠償を求める民事訴訟が続き、和解金と訴訟損失引当金が2015年3月期まで特別損益に現れ続けている。
- 背景
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調査が始まった2007年3月期は、亀山第2工場の稼働で液晶テレビの国内首位を確立した時期にあたる。連結売上高は3兆1,277億円と過去最高を更新し、当期純利益も1,582億円に達していた。TFT液晶パネルは自社の完成品に載せるだけでなく外部への販売も担う基幹デバイスで、翌2007年7月には堺に世界初の第10世代パネル工場を建設すると決めている。調査の対象となったのは、その最も強い時期の取引であった。
- 内容
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米国司法省との間では、罰金を支払うなどの合意に至った。この罰金等は独禁法関連損失12,004百万円として2009年3月期の連結・個別の双方に計上され、同期の特別損失合計140,447百万円の一部を占める。
日本では対応が分かれた。公正取引委員会の排除措置命令及び課徴金納付命令に対しては審判開始請求を行い、審判手続は2013年3月期まで係属している。課徴金の額は有価証券報告書に記載がない。欧州委員会競争総局等の調査は、2017年3月期の記載を最後に姿を消した。
- 含意
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制裁の重さは、当局ごとにまったく違う形で現れている。米国分は金額の確定した特別損失として1期で落ち、日本分は額も帰結も財務諸表に現れないまま審判の係属だけが5期にわたって記載され続けた。
金銭の負担としてより長く尾を引いたのは民事訴訟のほうで、2012年3月期の和解金18,857百万円、2013年3月期の和解金17,899百万円と訴訟損失引当金繰入額32,321百万円が、二期で9,214億円の最終赤字を計上した最中に重なっている。2015年3月期には引当金の戻入額19,234百万円が特別利益へ振れた。
制裁が財務に現れる形
この一件で問われたのは、液晶で世界を主導していた時期の取引の作法であった。興味深いのは、同じカルテルへの対応が当局ごとに割れている点である。米国司法省に対しては争わずに罰金の支払いへ合意し、12,004百万円という確定した金額を一期で損失に落とした。対して公正取引委員会の排除措置命令及び課徴金納付命令には審判開始請求で応じ、命令の当否そのものを争っている。早期に決着させる道と、争って結論を先へ送る道の両方を、同じ案件のなかで選び分けたことになる。
もっとも、金額として重かったのは行政の制裁ではなく民間からの請求のほうだった。2012年3月期からの三期に積み上がった和解金と訴訟損失引当金は、行政分の合計を上回る規模で特別損益に現れている。しかもそれは、堺工場の稼働率が上がらず二期で9,214億円の最終赤字を計上した時期と正面から重なった。カルテルの代償は、最も強かった時期の取引について、最も弱くなった時期に支払う形になったとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年9月
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 調査の開始 | 2006年12月 | 公正取引委員会、米国司法省、欧州委員会競争総局等がTFT液晶事業の調査を開始 |
| 米国司法省との決着 | 罰金を支払うなどに合意 | 2009年3月期に合意。それ以前の期は調査を受けている旨だけが記載されていた |
| 米国分の計上額 | 12,004百万円 | 独禁法関連損失として特別損失に計上。連結・個別のいずれも同額 |
| 公正取引委員会の処分 | 排除措置命令及び課徴金納付命令 | 2009年3月期までに受けた。課徴金の額は有価証券報告書に記載がない |
| 処分への対応 | 審判開始請求 | 命令を不服として請求し、2013年3月期まで審判手続が係属した |
| 民事訴訟 | 北米・欧州で損害賠償請求 | 2009年3月期は北米のみ。2010年3月期から欧州が加わり、2014年3月期に北米等へ戻る |
| 訴訟への備え | 訴訟損失引当金 | 2014年3月期から、手続きと訴訟に伴う損失の見積額を引当金に計上している |
| 欧州委員会の調査 | 2017年3月期まで記載 | 調査を受けている旨の記載が続き、処分の有無は有価証券報告書に現れない |
出所:シャープ 有価証券報告書 第113期(2007年3月期)〜第123期(2017年3月期)【その他】【事業等のリスク】【連結損益計算書関係】
シャープ:TFT液晶に関わる特別損益の推移
| (百万円) | 独禁法関連損失 | 和解金 | 訴訟損失引当金繰入額 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2005年3月期 | − | − | − | 調査が始まる前。連結売上高2兆5,398億円、当期純利益768億円 |
| 2006年3月期 | − | − | − | 調査が始まる前。連結売上高2兆7,971億円、当期純利益886億円 |
| 2007年3月期 | − | − | − | 2006年12月に各国競争当局の調査が始まった期。売上高は過去最高を更新 |
| 2008年3月期 | − | − | − | 特別損失合計は9,503。調査を受けている旨のみが記載されていた |
| 2009年3月期 | 12,004 | − | − | 米国司法省との合意に基づく罰金等。特別損失合計140,447のうちの一部 |
| 2010年3月期 | − | − | − | 特別損失合計25,008。うち事業構造改革費用が20,078を占める |
| 2011年3月期 | − | − | − | 特別損失合計20,031。うち事業構造改革費用が12,655を占める |
| 2012年3月期 | − | 18,857 | − | 特別損失合計185,960。営業活動によるキャッシュ・フローでは支払額18,622 |
| 2013年3月期 | − | 17,899 | 32,321 | 特別損失合計264,695。当期純損失545,347と重なった |
| 2014年3月期 | − | 67 | 1,135 | 訴訟損失引当金に見積額を計上する旨が記載された期 |
| 2015年3月期 | − | − | 2,140 | 特別利益に訴訟損失引当金戻入額19,234を計上している |
出所:シャープ 有価証券報告書 第112〜121期(連結損益計算書・連結キャッシュ・フロー計算書)
同じ問いに直面した会社
- シャープ 有価証券報告書「第113期(2007年3月期)【その他】」
- シャープ 有価証券報告書「第115期(2009年3月期)【事業等のリスク】【連結損益計算書関係】」
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- シャープ 有価証券報告書「第120期(2014年3月期)【事業等のリスク】」
- シャープ 有価証券報告書「第123期(2017年3月期)【連結財務諸表注記】」