楽天グループ楽天証券への業務停止命令:三年半に三度の行政処分を招いたシステム障害の再発と、子会社の管理体制の立て直し

更新:

時期 2009年3月
当時の社長 三木谷浩史
論点 子会社のシステム障害と再発防止
概要

2009年3月24日、子会社の楽天証券が金融庁から業務停止命令と業務改善命令を受けた。停止の対象はシステム整備を伴う新たな業務展開で、金融庁が個別に認めたものを除き1か月間できなくなった。理由は2008年11月と2009年1月に起きたシステム障害と、その復旧態勢が不十分であることである。

処分はこれが初めてではない。2005年11月と2007年6月にも同じ会社が同じ理由で業務改善命令を受けており、三年半で三度目にあたる。行政処分に関する記述は第9期から第13期までの事業等のリスクに置かれ、第14期の有価証券報告書からは外れた。

背景

楽天は2003年11月にDLJディレクトSFG証券を株式取得により子会社化し、楽天証券とした。最初の障害は2005年度で、証券市場の活況による取引高の急増でシステムへの負荷が増し、大規模な障害が複数回にわたり生じたことによる。

同社はハードウェアの改善・増強とシステム運用管理体制の強化で応じた。大規模な障害は止まったものの、その後も小規模な障害が複数回発生し、障害を防ぐ措置が不十分として2007年6月に二度目の命令を受けた。このときは再発防止体制の構築に加え、内部管理体制および経営管理体制の強化まで求められている。

内容

二度目の命令を受けた楽天証券が掲げた体制強化は四つある。品質管理部を通じたシステム開発の進捗フェーズごとのレビューとテストの徹底、情報システム部門の人員の充実と役職員への研修、障害情報の管理・分析と経営レベルでの把握、そして障害時の顧客への情報開示の徹底である。

それでも障害は再発し、三度目の処分に至った。以後はハードウェアの改善・増強に加え、システム品質管理体制と運用監視体制、障害発生時のコンティンジェンシープランの強化を進めている。処分に伴う課徴金や罰金、顧客への補償の額は会社の公表資料に記載がない。

含意

証券事業の営業利益は、最初の処分を受けた2005年12月期の12,798百万円が翌期に15,358百万円まで伸びたのち、2007年12月期は5,746百万円、2008年12月期は3,856百万円へ減少した。売上高も2006年12月期の40,524百万円を頂に、2009年12月期は23,549百万円まで減っている。

悪化の主因は世界的な株式市況の下落による委託手数料収入と金融収益の減少だが、同じ時期に同社が進めていたのはシステム関連費の削減でもあった。三度目の処分は、費用を削りながら障害を止めるという難所で受けたことになる。

筆者の見解

深くなっていった指摘

三度の処分を並べると、この件が単発の事故ではなく、同じ原因が形を変えて続いた四年間だったことが見えてくる。一度目は取引高の急増に容量が追いつかなかった障害への処分、二度目は大規模な障害が止まったのちも小規模な障害が残ったことへの処分、三度目は障害そのものよりも復旧態勢の不備を問われた処分である。当局が見る場所は、設備から運用へ、運用から有事の備えへと移っていったとみられる。改めるべき場所が、そのつど一段深いところへ動いていった。

もっとも、三度目の処分は業務の停止といっても、止められたのはシステム整備を伴う新たな業務展開に限られている。既存の取引を止める処分ではなく、伸びしろのほうを一か月凍結する処分だった。証券事業の営業利益がすでに三分の一以下へ減少していたこの時期に、成長の手足だけを縛られたことの重みは小さくないだろう。処分の記述が親会社の事業等のリスクから消えるまでには第14期を待つことになり、子会社のシステムを立て直す仕事が設備投資だけで終わらないことを、この四年は示している。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
処分を受けた会社 楽天証券株式会社 当社の子会社。2003年11月に株式取得により子会社化したオンライン証券会社
処分を行った当局 金融庁 一度目から三度目まで、いずれも同じ当局による処分である
一度目の業務改善命令 2005年11月 証券市場の活況による取引高の急増で、大規模なシステム障害が複数回生じた
一度目の処分への対応 ハードウェアの改善・増強 あわせてシステム運用管理体制の強化などにより、システム強化を実施した
二度目の業務改善命令 2007年6月 大規模な障害は止まったが小規模な障害が続き、防ぐ措置が不十分とされた
二度目の命令が求めたもの 再発防止体制の構築 加えて内部管理体制および経営管理体制の強化を求められた
二度目の処分への対応 四つの体制強化 システム品質管理・システム運用管理体制・システム障害管理・障害時の情報開示
業務停止命令の契機 2008年11月と2009年1月の障害 障害そのものに加え、その復旧態勢が不十分であるなどとされた
業務停止命令を受けた日 2009年3月24日 同じ日に業務改善命令もあわせて受けている
停止された業務の範囲 システム整備を伴う新たな業務展開 金融庁が個別に認めたものは除かれる
業務停止の期間 1か月間 第12期では「一定期間」と記し、第13期で1か月間と明らかにした
三度目の処分への対応 コンティンジェンシープランの強化 ハードウェアの改善・増強、システム品質管理体制と運用監視体制の整備も進めた
課徴金・罰金 会社の公表資料に記載なし 行政処分に伴う金銭の負担は有価証券報告書に記されていない
顧客への補償の額 会社の公表資料に記載なし 障害に伴う補償や損害賠償の額は有価証券報告書に記されていない
処分期間中の資本関係 2007年4月に完全子会社化 2006年9月に楽天証券ホールディングスを設け、株式交換で完全子会社とした
リスクとして記載した期間 第9期から第13期まで 第14期(2010年12月期)の【事業等のリスク】には記述が残っていない

出所:楽天 有価証券報告書 第9期(2005年12月期)・第11期(2007年12月期)・第12期(2008年12月期)・第13期(2009年12月期)【事業等のリスク】

楽天グループ:証券事業の売上高と営業利益

(百万円) 売上高営業利益 備考
2004年12月期 金融事業に含まれており、証券事業の区分はない
2005年12月期 26,31812,798 一度目の業務改善命令を受けた期
2006年12月期 40,52415,358 売上高・営業利益ともこの期が最も大きい
2007年12月期 30,5565,746 二度目の業務改善命令を受けた期。売上高は前期比24.6%減
2008年12月期 24,8063,856 株式市況の下落で委託手数料収入と信用取引の金融収益が減った
2009年12月期 23,5494,463 業務停止命令を受けた期。FX取引は好調だったが手数料収入が減った
2010年12月期 インターネット金融セグメントへ統合され、証券事業の区分はない
2011年12月期 証券事業の区分はない
2012年12月期 証券事業の区分はない
2013年12月期 証券事業の区分はない
2014年12月期 証券事業の区分はない
証券事業の売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:楽天 有価証券報告書 第8〜13期(事業の種類別セグメント情報)

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出典・参考
  • 楽天 有価証券報告書「第9期(2005年12月期)【事業等のリスク】」
  • 楽天 有価証券報告書「第11期(2007年12月期)【事業等のリスク】」
  • 楽天 有価証券報告書「第12期(2008年12月期)【事業等のリスク】」
  • 楽天 有価証券報告書「第13期(2009年12月期)【事業等のリスク】【事業の種類別セグメント情報】」

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