光ファイバとワイヤーハーネスのカルテル(2010年・古河電工の決断)

更新:
論点繰り返す独禁法違反をどう断つか
古河電工:業績の推移
売上高(億円)当期純利益率(%)
第三者調査委員会の設置と各国当局への対応2010年5月21日、光ファイバケーブルおよび同関連製品の取引について独占禁止法に違反する行為があったとして、公正取引委員会から排除措置命令および課徴金納付命令を受けた。課徴金相当額は2010年3月期に独占禁止法関連損失引当金繰入額4,606百万円として計上されている。

何をなぜ決めたか:第三者調査委員会の設置と各国当局への対応

概要

2010年5月21日、光ファイバケーブルおよび同関連製品の取引について独占禁止法に違反する行為があったとして、公正取引委員会から排除措置命令および課徴金納付命令を受けた。課徴金相当額は2010年3月期に独占禁止法関連損失引当金繰入額4,606百万円として計上されている。

摘発はこれだけではない。2009年3月30日には架橋高発泡ポリエチレンシートで同じ命令を受け、2010年2月には自動車用ワイヤーハーネス、2008年12月と2010年4月には子会社の建設・電販向け電線・ケーブルで立入検査を受けていた。

背景

架橋高発泡ポリエチレンシートの違反が発覚した後、独占禁止法遵守のための施策は一段と強化されていた。それにもかかわらず次の違反が続いたことから、徹底した原因究明と抜本的な再発防止策が必要と判断された。

2009年7月、公正中立な社外有識者を過半数の構成メンバーとする「独占禁止法違反問題に関する第三者調査委員会」を設置し、同年12月に委員会がまとめた報告書を「社長メッセージ」とともに公表した。役員では代表取締役の石原廣司氏と吉田政雄氏、執行役員常務の室田勝比古氏が報酬の一部返上を行っている。

内容

再発防止策は四つの柱で組まれた。統制では同業他社との会合参加等の事前申請・事後報告を徹底し、就業規則の懲戒規定に独占禁止法違反の位置づけを明記して懲戒委員会を設置した。教育では役員と管理職全員にコンプライアンス誓約書を提出させ、遵守のための四原則を社員証に掲載した。

モニタリングでは内部監査部門が遵守状況を監査し、外部の弁護士による助言と指導を強化した。加えて関連の相談窓口を設け、営業部門等における定期的な人事ローテーションの検討に着手している。

含意

対応は国ごとに分かれた。自動車用ワイヤーハーネスでは2011年9月に米国司法省の起訴事実を認めて罰金2億米ドルの司法取引に合意し、2012年3月期に米国反トラスト法違反罰課金15,296百万円を計上した。カナダでも2012年4月に有罪判決を受け、5百万カナダドルの罰金を科されている。

一方、日本の同じ製品では立入検査より前に違反行為を取り止めたうえで課徴金減免制度の適用を申請し、これが認められたこと等から、排除措置命令も課徴金納付命令も受けていない。

いつ何が起きたか12件
考察:減免申請と司法取引の分かれ道
考察

考察:減免申請と司法取引の分かれ道

同じ自動車用ワイヤーハーネスという製品で、日本では命令の名宛人にすらならず、米国では2億米ドルを払った。この落差を生んだのは違反の重さではなく、いつ手を挙げたかである。日本では立入検査より前に違反行為を取り止めたうえで課徴金減免制度を申請し、それが認められた。米国では起訴事実を認めるほかなかった。制度の違いというより、摘発の順番に対する構えの違いが金額に化けたのだとみられる。

もっとも、減免で免れたのは行政処分だけであった。民事の請求はそのまま残り、2016年3月期には損害賠償金3,327百万円と訴訟等損失引当金繰入額7,152百万円を含む192億円の特別損失を計上している。2009年からの7年間で、制裁金・罰金・賠償として特別損失に立った額は300億円を超えた。社員証に四原則を刷り込むところまで徹底した再発防止策の値段としては、あまりに高くついたと言うほかない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月
数字で見る2表

数字で見る

図と表

古河電工:独占禁止法・カルテル関連の特別損失

独占禁止法・カルテル関連費用(百万円)損害賠償金(百万円)
古河電工:独占禁止法・カルテル関連の特別損失
(百万円)独占禁止法・カルテル関連費用損害賠償金訴訟等損失引当金繰入額備考
2010年3月期4,606−−独占禁止法関連損失引当金繰入額。光ファイバケーブルの課徴金の支払見込み額
2012年3月期15,296−−米国反トラスト法違反罰課金。罰金2億米ドルは11月に支払った
2013年3月期1,098−−カルテル関連費用。同年4月にカナダで5百万カナダドルの罰金を科された
2014年3月期2,448−−内訳は自動車用部品の制裁金516、電力ケーブルの制裁金1,254、弁護士費用655等
2015年3月期1,6821,667−カルテル関連費用の内訳に中国独占禁止法違反による制裁金576を含む
2016年3月期−3,3277,152ワイヤハーネスカルテルの民事賠償等。カルテル関連費用は「その他」へ組み替え
出所:古河電気工業 有価証券報告書 第188〜194期(連結損益計算書・連結損益計算書関係)
出所:古河電気工業 有価証券報告書 第188〜194期(連結損益計算書・連結損益計算書関係)

経緯と対応

経緯と対応
科目概要備考
立入検査(子会社)2008年12月古河エレコムが建設・電販向け電線・ケーブルの取引で公正取引委員会の検査を受けた
命令(架橋高発泡シート)2009年3月30日2007年2月までの違反行為として排除措置命令および課徴金納付命令を受けた
第三者調査委員会の設置2009年7月「独占禁止法違反問題に関する第三者調査委員会」。社外有識者が過半数を占める
報告書の公表2009年12月委員会がまとめた報告書を「社長メッセージ」とともに公表した
立入検査(ワイヤーハーネス)2010年2月自動車用ワイヤーハーネスおよび同関連製品の取引について検査を受けた
命令(光ファイバケーブル)2010年5月21日光ファイバケーブルおよび同関連製品の取引で排除措置命令および課徴金納付命令
課徴金相当額の引当4,606百万円独占禁止法関連損失引当金繰入額として2010年3月期の特別損失に計上した
役員の報酬返上代表取締役2名と執行役員常務1名石原廣司氏・吉田政雄氏・室田勝比古氏。架橋高発泡シートでは代表取締役2名
審判請求一部製品の課徴金納付命令2011年3月期の時点で公正取引委員会の審決を待つ状況にあった
命令(建設工事用電線)2010年11月古河エレコムが建設工事用汎用3品種の取引で課徴金納付命令を受けた
米国の司法取引2011年9月ワイヤーハーネスのカルテルで司法省の起訴事実を認め、罰金2億米ドルの支払いに合意
米国の罰金の計上15,296百万円米国反トラスト法違反罰課金として2012年3月期の特別損失に計上した
日本のワイヤーハーネス命令を受けていない立入検査より前に違反行為を取り止め、課徴金減免制度の適用が認められたこと等による
カナダの罰金5百万カナダドル2012年4月に自動車部品のカルテルで有罪判決を受け、罰金を支払った
欧州委員会の制裁金2013年7月自動車用部品で古河ASとともに決定を受けた。制裁金516百万円を2014年3月期に計上
電力ケーブルの制裁金1,254百万円欧州競争法違反。2014年4月にビスキャスとともに決定を受け欧州普通裁判所へ提訴
中国の制裁金576百万円2014年8月に自動車用部品取引で同国独占禁止法違反による決定。2015年3月期に計上
民事賠償の計上2016年3月期損害賠償金3,327百万円と訴訟等損失引当金繰入額7,152百万円。特別損失は192億円
再発防止策(統制)会合参加の事前申請・事後報告懲戒規定に独占禁止法違反の位置づけを明記し、懲戒委員会を設置した
再発防止策(教育)コンプライアンス誓約書の提出役員と管理職全員が対象。遵守のための四原則を社員証に掲載した
再発防止策(監視)内部監査部門による遵守状況の監査外部専門家による助言・指導の強化と、関連の相談窓口の設置
出所:古河電気工業 有価証券報告書 第187〜194期(2009年3月期〜2016年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】【役員の状況】【連結損益計算書関係】
出所:古河電気工業 有価証券報告書 第187〜194期(2009年3月期〜2016年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】【役員の状況】【連結損益計算書関係】
参考文献

参考文献

参考
  • 古河電気工業 有価証券報告書「第188期(2010年3月期)【対処すべき課題】」
  • 古河電気工業 有価証券報告書「第188期(2010年3月期)【役員の状況】」
  • 古河電気工業 有価証券報告書「第189期(2011年3月期)【事業等のリスク】」
  • 古河電気工業 有価証券報告書「第190期(2012年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】」
  • 古河電気工業 有価証券報告書「第192期(2014年3月期)【連結損益計算書関係】」
  • 古河電気工業 有価証券報告書「第194期(2016年3月期)【業績等の概要】【偶発債務】」

次に読む決断

同業他社の状況(鉄鋼・非鉄・窯業)

免責事項およびポリシー