シャープ 鴻海精密工業傘下での再建 経営体制の入れ替えと、構造改革による自己資本の立て直し

更新:

時期 2016年8月
当時の社長 戴正呉
論点 外資傘下での経営再建と意思決定の作り直し
何をなぜ決めたか
概要

2016年8月、鴻海精密工業グループを割当先とする第三者割当増資の払込完了を受け、シャープは取締役社長に戴正呉氏を迎えた新経営体制へ移った。前期末に債務超過へ転落していた自己資本比率は、2017年3月期末に16.6%へ戻る。就任初日に社長決裁の基準額を1億円から300万円へ引き下げ、稟議のハンコを3つに絞った戴正呉社長のもとで、2018年3月期には4年ぶりの最終黒字702億円を計上した。

背景

液晶事業の巨額赤字で2016年3月期の純資産は△312億円の債務超過に落ち、自己資本比率は△2.7%となった。普通株式は2016年8月1日に東京証券取引所市場第二部へ移る。2016年6月23日の定時株主総会終結の時をもって取締役12名(うち社外取締役5名)が退任し、続いて鴻海精密工業グループの出資を受け入れて、大手電機で初めて外資の傘下に入った。

内容

掲げたのは「経営資源の最適化」「責任ある事業推進体制」「成果に報いる人事制度」の3つの構造改革で、2016年度はその具体化に注力した。取締役会は9名(うち社外取締役3名)に絞られ、2017年6月20日に監査等委員会設置会社へ移行して執行役員制度を復活させた。本社は2016年7月に大阪市阿倍野区から堺市堺区へ移る。

ビジネスユニットを単位に収益責任を明確にする分社化経営を進め、本社機能は社長室と管理統轄本部へ集約した。2017年3月期の減損損失は346億円、事業構造改革費用の計上はない。

含意

2017年5月26日に決議した中期経営計画は、最終年度の2020年3月期に売上高3兆2,500億円・営業利益1,500億円を掲げた。普通株式は2017年12月7日に東京証券取引所市場第一部へ再指定され、みずほ銀行と三菱UFJ銀行が保有するA種種類株式200,000株は1,850億円で取得されて2019年6月21日までに消却された。ただし2020年3月期の売上高は2兆2,622億円にとどまり、計画には届いていない。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

合議を速度へ、そのあとに残る問い

この再建で入れ替わったのは、資本の出し手よりも、決める仕組みそのものだったと思われる。2016年6月の定時株主総会で12名の取締役が退き、残った取締役会は9名に絞られた。そこへ鴻海から迎えた戴正呉社長が就任初日に社長決裁の基準額を1億円から300万円へ下げ、稟議のハンコを3つに減らす。日本の大企業が長く前提としてきた「全員で決める」作法を、「だれかが速く決める」作法へ置き換える試みであった。自己資本比率が△2.7%から16.6%へ戻った1年に、事業構造改革費用の計上はない。大きな損失処理で身を軽くしたのではなく、決裁の速度と責任の所在を変えることで数字を戻した再建だったといえる。

もっとも、速さと集権で危機を脱したことと、次の成長を描けることは別の問いである。2017年5月に決議した中期経営計画は最終年度に売上高3兆2,500億円を掲げたが、2020年3月期の実績は2兆2,622億円にとどまった。外資流の速度は、緩んだコストと停滞した意思決定を立て直すのによく効いた。しかし、何に投資し、どの事業で伸びるのかという選択までは、速さだけでは埋められない。分社化で各事業に収益責任を負わせた設計も、稼ぐ単位を細かくは見せるが、どこへ資源を配分するかまでは答えない。鴻海傘下シャープの高速黒字化は、日本的な意思決定を作り替える力と、その先に残る成長という課題を、同じ再建のなかに映している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
再建の条件

再建の条件

科目 概要 備考
新経営体制への移行 2016年8月・取締役社長に戴正呉氏 鴻海精密工業グループを割当先とする第三者割当増資の払込完了を受けて移行した
取締役会の構成 取締役9名(うち社外取締役3名) 2016年6月23日の定時株主総会終結の時をもって取締役12名(うち社外5名)が退任
鴻海側からの受入 兼務は取締役1名と監査等委員1名 戴正呉氏と高山俊明氏は親会社グループの役員を辞任。海外子会社3社では7名
ガバナンス体制の刷新 監査等委員会設置会社へ移行 2017年6月20日の定時株主総会で定款変更を決議。執行役員制度もあわせて復活させた
構造改革の3本柱 経営資源の最適化・責任ある事業推進体制・成果に報いる人事制度 早期黒字化に向けた3つの構造改革として掲げ、2016年度はその具体化に注力した
事業運営の単位 ビジネスユニット単位の分社化経営 2019年4月の電子デバイス・レーザーを皮切りに、事業を順次分社化していった
本社の移転 2016年7月・堺市堺区 大阪市阿倍野区から移した。堺工場と同じ市内に本社機能を置く形になった
就任期の減損損失 34,668百万円 2017年3月期。ディスプレイデバイス24,985、当社遊休資産等8,016が中心
就任期の構造改革費用 計上なし 前期は38,165百万円で、うち希望退職に係る費用が24,080百万円を占めていた
手元資金の枠 3,000億円のコミットメントライン 2016年8月12日に主力2行のみずほ銀行・三菱東京UFJ銀行との間で設定した
債務超過の解消 2017年3月期に連結・単体とも解消 総額3,888億円の新株式発行による。自己資本比率は△2.7%から16.6%へ戻った
株式併合 2017年10月1日・10株を1株に 発行済株式総数は4,994,729千株から499,652千株へ減った
東証1部への復帰 2017年12月7日に第一部へ再指定 2016年8月1日に第二部へ移り、2017年6月30日に第一部への指定申請を行っていた
A種種類株式の取得 185,016百万円 2018年6月5日決議。1株925,083円50銭で200,000株。取得後に速やかに消却する方針
A種種類株式の消却 2019年1月30日と6月21日 92,000株と108,000株に分けて取得・消却し、2行が持つ優先株は残らなくなった
中期経営計画の決議 2017年5月26日 2018年3月期から2020年3月期までの3か年。ビジネスモデルの変革など3つの柱を置いた
最終年度に掲げた目標 売上高3兆2,500億円・営業利益1,500億円 2020年3月期。実績の売上高は2兆2,622億円にとどまり、計画には届かなかった

出所:シャープ 有価証券報告書 第122期(2016年3月期)・第123期(2017年3月期)・第124期(2018年3月期)・第128期(2022年3月期)【沿革】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【株式の総数等】【自己株式の取得等の状況】【発行済株式総数、資本金等の推移】【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】

純資産額と総資産額の推移

シャープ:純資産額と総資産額の推移

(百万円) 純資産額総資産額 備考
2012年3月期 645,1202,614,135 自己資本比率23.9%
2013年3月期 134,8372,087,763 親会社株主に帰属する当期純損失545,347を計上し、自己資本比率は6.0%へ
2014年3月期 207,1732,181,680
2015年3月期 44,5151,961,909 自己資本比率1.5%
2016年3月期 △31,2111,570,672 債務超過に転落。自己資本比率は△2.7%
2017年3月期 307,8011,773,682 8月の第三者割当増資で債務超過を解消。自己資本比率は16.6%へ戻った
2018年3月期 401,7131,908,461 自己資本比率19.8%。12月に東京証券取引所市場第一部へ再指定された
2019年3月期 357,3311,848,551 訂正後の数値。提出時の当期欄は純資産額372,471・総資産額1,866,349
2020年3月期 270,9591,811,907 訂正後の数値。提出時の当期欄は純資産額295,138・総資産額1,832,349
2021年3月期 364,1391,927,226
2022年3月期 469,2691,956,288 自己資本比率23.2%で、鴻海傘下入り前の2012年3月期の水準を上回った
総資産額と純資産の比率
総資産額(百万円)純資産比率(%)

出所:シャープ 有価証券報告書 第122期・第123期・第128期【主要な経営指標等の推移】

業績の推移

シャープ:業績の推移

(百万円) 売上高経常利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2012年3月期 2,455,850△65,437△376,076
2013年3月期 2,478,586△206,488△545,347
2014年3月期 2,927,18653,27711,559
2015年3月期 2,786,256△96,526△222,347
2016年3月期 2,461,589△192,460△255,972
2017年3月期 2,050,63925,070△24,877 下期に親会社株主に帰属する四半期純損益が黒字化し、経常損益も黒字へ戻った
2018年3月期 2,427,27189,32070,225 4年ぶりの最終黒字。売上高は前期比18.4%増
2019年3月期 2,394,76762,84964,012 訂正後の数値。提出時の当期欄は売上高2,400,072・当期純利益74,226
2020年3月期 2,262,28450,17513,726 訂正後の数値。中期経営計画の最終年度で、掲げた売上高3兆2,500億円に届かず
2021年3月期 2,425,91063,17553,263
2022年3月期 2,495,588114,96473,991 第128期の期首から収益認識に関する会計基準を適用している
売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:シャープ 有価証券報告書 第122期・第123期・第128期【主要な経営指標等の推移】

従業員数と平均年収の推移

シャープ:従業員数と平均年収の推移

(人) 連結従業員数提出会社の従業員数平均年間給与 備考
2012年3月期 56,75621,5387,065 平均年間給与は提出会社のみの開示で、単位は千円
2013年3月期 50,64718,0166,275 希望退職の実施により提出会社が前事業年度末比3,522名減った
2014年3月期 50,25317,6176,007
2015年3月期 49,09617,5297,287
2016年3月期 43,51114,5446,337 前期に希望退職を実施し、連結で5,585人・提出会社で2,985人減った
2017年3月期 41,89813,3636,461 ディスプレイデバイスが16,190人で最大。全社(共通)は1,424人
2018年3月期 47,17113,2617,538 連結が増えたのは子会社の増加による。提出会社は102人減った
2019年3月期 54,15612,5187,592 10月に東芝クライアントソリューションを子会社化した
2020年3月期 52,87610,8627,373 2019年4月に電子デバイスの一部とレーザー事業を分社化した
2021年3月期 50,4786,4197,432 2020年10月にディスプレイデバイス事業を分社化し、提出会社が4,443名減った
2022年3月期 47,9415,6747,369 2021年4月にカメラモジュール事業を分社化した
従業員数と平均年収
連結のうち提出会社以外(人)提出会社の従業員数(人)提出会社の平均年間給与(千円)

出所:シャープ 有価証券報告書 第118期〜第128期(従業員の状況)

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

プロ経営者の招聘2010年日本航空会社更生法下での稲盛和夫氏の招聘と、フィロソフィによる意識改革経営破綻からの再建と体質転換
2005年西武ホールディングス後藤高志氏の招聘と、持株会社体制への移行によるグループ再建グループ再建の経営体制と資本構成
2003年りそなホールディングス預金保険法102条の初適用による公的資金約1兆9,600億円の受け入れと、外部招聘した細谷英二会長のもとでのリテール銀行再建戦後最大級の銀行危機に、実質国有化と外部からの会長招聘のもとでどう再建を遂げるか
2000年そごう破綻処理から再建へ——興銀が招いた和田繁明氏が描いた百貨店再編の設計図破綻企業の再建の担い手と再建方式
1996年東急財テクの行き詰まりを受けた、仕入れと販売を自ら担う本業への回帰中核子会社の再建と本業回帰
経営再建1995年ツムラバブル期に拡大した裾野の縮小と、創業家の外からの社長招聘多角化子会社の整理と経営体制
1990年SUBARU独自の流儀を貫いた指揮による本体黒字化への立て直し経営再建と量産志向からの転換
2019年MTG不適切な会計処理を受けた取締役会の刷新と、京セラ出身の会長の招聘不適切な会計処理後の統治の立て直し
2002年三菱自動車ダイムラー主導で進んだ、聖域を設けない再建計画の断行隠蔽体質と系列依存からの脱却による事業再建
1965年山一證券日本銀行法二十五条による特別融資の受け入れと、新旧勘定分離による再建経営危機の処理と再建の枠組み
参考文献
出典・参考
  • シャープ 有価証券報告書「第123期(2017年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • シャープ 有価証券報告書「第122期(2016年3月期)【主要な経営指標等の推移】【連結損益計算書関係】」
  • シャープ 有価証券報告書「第124期(2018年3月期)【株式の総数等】【自己株式の取得等の状況】【発行済株式総数、資本金等の推移】」
  • シャープ 有価証券報告書「第128期(2022年3月期)【主要な経営指標等の推移】【沿革】」

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