パナソニックMTPDのブラウン管カルテル:排除措置命令と欧州委員会の制裁金を争い、8年をかけて確定した独占禁止法違反

更新:

時期 2009年10月
当時の社長 大坪文雄
論点 独占禁止法違反への対応
概要

2007年11月以降、パナソニックと子会社のMT映像ディスプレイは、ブラウン管事業に関する独占禁止法違反の可能性について、公正取引委員会・米国司法省・欧州委員会等の政府機関の調査を受けた。2009年10月、MT映像ディスプレイは公正取引委員会から排除措置命令を、その東南アジア子会社3社は課徴金納付命令を受けている。

2012年12月には、パナソニックとMT映像ディスプレイが、欧州競争法に違反したとして制裁金を課す欧州委員会の決定通知を受けた。いずれの処分に対しても、事実認定や法令の適用に疑義があるとして取消しを求め、日本と欧州の双方で法廷に持ち込んでいる。

背景

MT映像ディスプレイの前身は、2003年4月に東芝とブラウン管事業を統合して設立した松下東芝映像ディスプレイで、2007年3月に完全子会社となった。調査の対象となった時期は、テレビの表示デバイスがブラウン管から液晶とプラズマへ置き換わっていく数年間にあたる。

2010年3月期の時点で同社は大阪府門真市に本店を置き、資本金は30百万円、主要な事業内容は「ブラウン管事業関連の販売」で、すでに製造から退いた姿になっていた。同じ時期、米国とカナダではパナソニックと複数の子会社を被告とする集団代表訴訟も提起されている。

内容

国内では、MT映像ディスプレイと子会社3社が課徴金納付命令等の取消しを求めて審判手続を経たうえで東京高等裁判所で争ったが、2016年4月に請求棄却の判決を受けた。両社は同月に最高裁判所へ上告し、2017年12月の上告不受理の決定により高等裁判所の判決が確定した。

欧州では、2012年12月の決定通知に対して欧州普通裁判所へ提訴し、2015年9月に主張の一部を認め一部を退ける判決を得たうえで欧州司法裁判所へ上告した。2016年7月に上告を棄却する決定が下って制裁が確定し、翌8月に欧州委員会へ制裁金を支払っている。

含意

争いは、調査の開始から10年、国内の処分からは8年を要して、いずれも会社の主張が通らない形で終わった。制裁金と課徴金の額は開示されていない。合理的に見積り可能な制裁金を引当計上したとするにとどまり、引当金以外の追加的な費用範囲の見積りは示していない。

2014年3月期には、ブラウン管、リチウムイオン電池などの独占禁止法違反について訴訟関連費用592億円を計上した。同じ独占禁止法違反でも、子会社の三洋電機による二次電池事業の案件は、2016年12月に欧州委員会と和解し、翌年3月に制裁金を支払う形で決着している。

筆者の見解

消えた事業に費やした8年

会社が選んだのは、処分を受け入れて幕を引くことではなく、争うことだった。ブラウン管はすでに液晶とプラズマに置き換えられつつあり、争って競争優位を確立したところで戻ってくる事業はない。それでも取消しを求め続けたのは、カルテルの事実認定を受け入れることが、米国とカナダで進む集団代表訴訟や他の当局の判断へ跳ね返るためだったとみられる。欧州普通裁判所が主張の一部を認めたことは、その選択に一定の実利があったことを示している。

もっとも、この案件が残した重い問いは、争いの優劣よりも金額の不開示にある。合理的に見積り可能な制裁金を引当計上したとするにとどまり、いくらを積んだのかは示されていない。2014年3月期に計上した訴訟関連費用592億円も、ブラウン管とリチウムイオン電池などをまとめた数字で、案件ごとの負担は外から読めない。争う姿勢を最後まで通しながら、その代償の輪郭だけは伏せられたままである。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
合弁の設立 2003年4月 東芝とのブラウン管事業の合弁会社として松下東芝映像ディスプレイを設立した
完全子会社化 2007年3月 その後MT映像ディスプレイへ商号を変更した
調査の開始 2007年11月以降 公正取引委員会、米国司法省、欧州委員会等の政府機関による調査を受けた
国内の処分 2009年10月 MT映像ディスプレイが排除措置命令、その東南アジア子会社3社が課徴金納付命令
国内の処分への対応 取消しを求めて争う 審判手続を経たうえで、東京高等裁判所で課徴金納付命令等の取消しを求めた
民事訴訟 米国とカナダの集団代表訴訟 パナソニックと複数の子会社が被告となった
欧州の処分 2012年12月 パナソニックとMT映像ディスプレイが、欧州委員会から制裁金を課す決定通知を受けた
欧州の処分への対応 欧州普通裁判所へ提訴 事実認定や法令の適用に疑義があるとして争った
欧州普通裁判所の判決 2015年9月 主張の一部を認め、一部を退ける判決。これを受けて欧州司法裁判所へ上告した
東京高等裁判所の判決 2016年4月 請求棄却。MT映像ディスプレイと子会社は同月、最高裁判所へ上告した
欧州司法裁判所の決定 2016年7月 上告を棄却する決定により、パナソニックに対する制裁が確定した
制裁金の支払い 2016年8月 欧州委員会に対して支払った
最高裁判所の決定 2017年12月 上告不受理の決定により、東京高等裁判所の判決が確定した
制裁金・課徴金の額 有価証券報告書に記載がない 合理的に見積り可能な制裁金を引当計上し、引当金以外の見積りは開示していない
訴訟関連費用 592億円 2014年3月期の営業外費用。ブラウン管、リチウムイオン電池などの違反について計上

出所:パナソニック 有価証券報告書 第103期(2010年3月期)〜第111期(2018年3月期)連結財務諸表注記(偶発債務・訴訟等)/第108期(2014年3月期)【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

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出典・参考
  • パナソニック 有価証券報告書「第103期(2010年3月期)連結財務諸表注記(偶発債務・訴訟等)」
  • パナソニック 有価証券報告書「第106期(2013年3月期)連結財務諸表注記(偶発債務・訴訟等)」
  • パナソニック 有価証券報告書「第108期(2014年3月期)【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
  • パナソニック 有価証券報告書「第109期(2016年3月期)連結財務諸表注記(偶発債務・訴訟等)」
  • パナソニック 有価証券報告書「第110期(2017年3月期)連結財務諸表注記(偶発負債・訴訟等)」
  • パナソニック 有価証券報告書「第111期(2018年3月期)連結財務諸表注記(偶発負債・訴訟等)」

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