パナソニック ブルーヨンダー買収し持株会社制 大型買収を機に事業ごとを独立させる「事業会社制」への組み替え
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2021年6月に社長へ就任した楠見雄規氏は、就任直後の同年9月16日に米サプライチェーン・ソフト大手ブルーヨンダーの残り80%を追加取得し、2020年7月に取得していた20%と合わせて全株式を握った。全株式の取得対価は総額79.0億米ドル、支配獲得日に認識したのれんは6,070億円にのぼる。翌2022年4月1日には吸収分割で事業を9社へ承継させ、社名をパナソニックホールディングスへ改めて持株会社となった。ハードとソフトの融合と自主責任経営の徹底を掲げ、事業構造と組織を同時に組み替えた経営判断である。
- 背景
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2019年5月に策定した中期戦略は、基幹事業を中心とした利益成長にリソースを振り向け、固定費削減と構造的赤字事業への対策によって低収益体質から脱することを掲げていた。楠見雄規氏は2021年に"専鋭化"を打ち出し、空間ソリューション・現場プロセス・デバイス・エナジーの4領域へ絞り込む方針を示す。長年培ったインダストリアルエンジニアリングの技術とエッジデバイス、IoTに、需要と供給の変化をリアルタイムに捉えるソフトウエアを組み合わせることが、現場プロセス事業を進化させる条件に据えられた。カンパニー制のままでは、その組み替えは事業ごとの速さで進まない。
- 内容
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2021年4月23日の取締役会で80%の追加取得を決議し、同日、ブルーヨンダーと実質的な株主であるBlackstone Group Inc.及びNew Mountain Capitalとの間で最終合意に至った。取得は米国デラウェア州に設けた特別目的子会社を消滅会社、ブルーヨンダーを存続会社とする吸収合併の形をとり、9月16日に支配を獲得している。買収資金は手元資金のほか4,000億円のシンジケートローンで賄い、これは同年10月に発行した公募ハイブリッド社債で返済した。
組織の側は5月31日の取締役会で吸収分割契約の締結を決議し、2022年4月1日に9社へ2兆1,309億円の資産を承継させた。楠見雄規氏はこれを、統括する会社の下に置くというより各社が自ら事業を営む形に近いと位置づけ、自主責任経営の徹底を最大の狙いに据えた。
- 含意
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買った資産の重さは、その後の数字に表れた。ブルーヨンダーに配分されたのれんは2022年3月末の6,786億円から2025年3月末には9,475億円へ膨らみ、連結ののれんと無形資産は2兆円を超えている。2023年3月末の減損テストでは回収可能価額が帳簿価額を501億円上回るにとどまり、割引率が0.6%上昇すれば下回る水準にあった。会社は2022年5月、議決権の過半数を保有する重要な連結子会社と位置づけることを前提に、ブルーヨンダーを中心としたサプライチェーンマネジメント事業の株式上場の検討を始めている。本業から遠い映画会社を買って5年で撤退した1990年のMCAとは異なり、選んだのは製造業の現場に直結するソフトであった。
いつ何が起きたか 10件
筆者の見解
集約のための買収と、分社のための組織
買収と組織改編は、同じ判断の表と裏だったと思われる。総額79.0億米ドルを投じて取得したのは、需給の変化を読み解くソフトウエアという、どの事業にも横断的に効く一枚の基盤であった。ところがその基盤を活かす現場は家電にも車載にも電池にもあり、集権的なカンパニー制の下では、どの事業がどれだけ使うかの調整に時間を要する。翌年に事業を9社へ割り、2兆1,309億円の資産を移して意思決定を各社へ落としたのは、買った基盤を使う側の速さを揃えるための手当てだったのではないか。集めるために買い、使わせるために分けた——この二つは順序が逆でも成り立たない。
もっとも、基盤の値段は簿価として残り続ける。ブルーヨンダーに配分されたのれんは2025年3月末で9,475億円に達し、追加買収と為替換算のたびに積み上がっている。2023年3月末の減損テストでは回収可能価額が帳簿価額を501億円上回るにとどまり、割引率が0.6%動けば逆転する位置まで来た。買った翌年に上場による外部資本の導入を検討し始めたのは、自社だけで抱え切るには重い買い物だったことの裏返しかもしれない。事業会社制が問われるのは、分けた9社がこの基盤を実際に使いこなせるかどうかであって、組織図の形そのものではない。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
買収と持株会社移行の条件
買収と持株会社移行の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 被取得企業 | Blue Yonder Holding, Inc. | 製造業・流通業・物流業向けのサプライチェーンマネジメント等のソフトウエアの販売と導入支援 |
| 被取得企業の規模 | 連結売上高1,113百万USドル | 2021年12月期。連結総資産2,480百万USドル。いずれも米国会計基準 |
| 先行して取得した議決権比率 | 約20% | 2020年5月18日に決議し同年7月20日に取得。取締役会9議席のうち1議席を得た |
| 追加取得した議決権比率 | 80% | 既取得の20%と合わせて全株式を保有し、100%子会社とした |
| 取締役会の決議日 | 2021年4月23日 | 同日、Blackstone Group Inc.及びNew Mountain Capitalとの間で最終合意に至った |
| 取得の法的形式 | 特別目的子会社との吸収合併 | 米国デラウェア州に設立したSPCを消滅会社、Blue Yonderを存続会社とする |
| 対価の支払い方法 | 現金 | 株主に現金を支払って株式を消却し、SPC株式を存続会社の普通株式に転換した |
| 企業結合日 | 2021年9月16日 | 同社及び傘下子会社の支配を獲得した日 |
| 全株式の取得対価 | 79.0億米ドル | 2021年9月の追加取得分と2020年7月の取得分の合計 |
| 取得原価 | 765,764百万円 | 追加取得80%の対価(現金)622,831百万円と既存20%持分の公正価値142,933百万円 |
| 取得関連費用 | 3,159百万円 | 「その他の損益」に計上し、「コネクト」セグメントに帰属させた |
| 既存持分の再測定による評価益 | 58,260百万円 | 20%の持分を公正価値へ再測定した結果。「その他の損益」に計上した |
| のれん | 607,030百万円 | 主に期待される将来の収益力に関連する。全額が「コネクト」に帰属し損金算入できない |
| 認識した無形資産 | 359,959百万円 | 顧客、技術等が含まれる |
| 取得した資産の合計 | 1,047,822百万円 | 現金及び現金同等物37,845百万円、営業債権及び契約資産24,365百万円を含む |
| 引き継いだ負債の合計 | 282,058百万円 | 短期負債192,620百万円は企業結合後の第2四半期に全額返済した |
| 買収資金の調達 | シンジケートローン400,000百万円 | 2021年9月にブリッジローンとして実行し、同年10月発行の公募ハイブリッド社債で返済 |
| 移行の決議日 | 2021年5月31日 | 同日に吸収分割契約を締結し、6月24日の定時株主総会で承認された |
| 移行の法的形式 | 吸収分割 | 当社を分割会社とし、各分離先企業を承継会社とする |
| 効力発生日 | 2022年4月1日 | |
| 承継会社の数 | 9社 | 分割準備会社8社と、パナソニックシステムソリューションズジャパン㈱の計9社 |
| 承継させた事業 | 9事業 | ホームアプライアンス・オートモーティブ・コネクティッドソリューションズ・デバイス・エナジー等 |
| 割当ての内容 | 普通株式1株 | 各承継会社が新たに発行し、その全てを当社に割当交付した |
| 持株会社の商号 | パナソニックホールディングス㈱ | 2022年4月1日付で「パナソニック㈱」から商号変更した |
| 承継させた資産の額 | 2,130,899百万円 | 提出会社(日本基準)。前事業年度に記載した内容より1,635百万円増加した |
| 承継させた負債の額 | 1,654,409百万円 | 提出会社(日本基準)。共通支配下の取引として処理した |
| 吸収分割に伴う借入 | 300,000百万円 | 2022年3月31日に金融機関から実行した |
出所:パナソニックホールディングス 有価証券報告書 第114期(2021年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】 / 第115期(2022年3月期)【経営上の重要な契約等】、注記「35.企業結合」 / 第116期(2023年3月期)(企業結合等関係)
のれんと無形資産の推移
パナソニック:のれんと無形資産の推移
| (百万円) | ブルーヨンダーに係るのれん | のれん | 無形資産 | 総資産 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2017年3月期 | − | 386,887 | 278,245 | 5,982,961 | 連結財務諸表は全期を通じて国際会計基準(IFRS)による |
| 2018年3月期 | − | 408,303 | 329,948 | 6,291,148 | |
| 2019年3月期 | − | 395,747 | 323,810 | 6,013,931 | |
| 2020年3月期 | − | 322,009 | 298,602 | 6,218,518 | |
| 2021年3月期 | − | 304,853 | 297,189 | 6,847,073 | 7月に20%を取得。持分法適用会社のため連結にのれんは生じていない |
| 2022年3月期 | 678,599 | 994,710 | 685,317 | 8,023,583 | 9月16日に完全子会社化。のれん607,030・無形資産359,959を新たに認識した |
| 2023年3月期 | 740,365 | 1,077,620 | 718,616 | 8,059,527 | 回収可能価額が帳簿価額を上回る額は50,141。割引率が0.6%上昇すると下回る |
| 2024年3月期 | 855,674 | 1,202,522 | 781,311 | 9,411,195 | 割引率は11.5%(税引前)。回収可能価額は帳簿価額を十分に上回るとした |
| 2025年3月期 | 947,538 | 1,268,688 | 734,814 | 9,343,191 | 8月にブルーヨンダーがOne Networkを取得(対価135,935)。為替換算も加わる |
出所:パナソニックホールディングス 有価証券報告書 第111期(2018年3月期)〜第118期(2025年3月期)(連結財政状態計算書、注記「のれん及び無形資産」「非金融資産の減損」)
コネクトセグメントの推移
パナソニック:コネクトセグメントの推移
| (百万円) | 売上高 | セグメント利益 | 減価償却費及び償却費 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2021年3月期 | 817,988 | △19,980 | 38,364 | 2021年10月の組織再編に伴う新5区分へ組み替えた後の数値 |
| 2022年3月期 | 924,916 | 51,727 | 50,800 | 9月16日にブルーヨンダーを連結。同社の売上高と純損益は重要ではないとした |
| 2023年3月期 | 1,125,691 | 20,900 | 74,619 | ブルーヨンダーの通期寄与。翌期に売上高1,121,249へ組み替えられた |
| 2024年3月期 | 1,202,803 | 40,408 | 75,337 | 翌期に売上高1,205,284へ組み替えられた |
| 2025年3月期 | 1,333,217 | 77,173 | 79,054 | 8月にOne Networkを連結 |
出所:パナソニックホールディングス 有価証券報告書 第115期(2022年3月期)〜第118期(2025年3月期)(注記「セグメント情報」)
同じ問いに直面した会社
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参考文献
- パナソニック 適時開示「持株会社制移行に向けた吸収分割概要および持株会社制移行後の事業体制概要のお知らせ」
- パナソニック 適時開示「世界トップクラスのサプライチェーン・ソフトウェアの専門企業であるBlue Yonderの全株式取得を決定」
- パナソニック 適時開示「世界トップクラスのサプライチェーン・ソフトウェアの専門企業であるBlue Yonderの買収を完了」
- パナソニック 決算説明会資料「2021年度第2四半期決算」
- パナソニックホールディングス 決算説明会資料「2021年度決算概要/2022年度業績見通し」
- パナソニックホールディングス 決算説明会資料「2022年度決算概要/2023年度業績見通し」
- パナソニックホールディングス 決算説明会資料「グループ戦略説明会」
- パナソニック 有価証券報告書「第114期(2021年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
- パナソニックホールディングス 有価証券報告書「第115期(2022年3月期)【経営上の重要な契約等】、注記「35.企業結合」」
- パナソニックホールディングス 有価証券報告書「第116期(2023年3月期)(企業結合等関係)」
- パナソニックホールディングス 有価証券報告書「第115期(2022年3月期)〜第118期(2025年3月期)注記「非金融資産の減損」「セグメント情報」」