ドリームインキュベータアイペットホールディングス全株式の第一生命ホールディングスへの譲渡と、ビジネスプロデュース事業への経営資源の集中

12年育てた子会社を手放すか、抱え続けるか——株価に映らない2本立てをめぐる選択

時期 2022年11月
意思決定者(推定) 原田哲郎三宅孝之・取締役会 ドリームインキュベータ 代表取締役CEO・ドリームインキュベータ 代表取締役社長
論点 事業構成の集約と株主価値
概要
2023年1月17日、ドリームインキュベータが、2011年2月に発行済株式の82.11%を取得して育てたアイペットホールディングスの全株式を第一生命ホールディングスへ譲渡した。売却価額は21,541百万円、関係会社株式売却益は18,401百万円。創業以来のベンチャー投資とビジネスプロデュースという2本立てを1本へ集約する決定と一体であった。
背景
期間損益が重視される株式市場でボラティリティの高いインキュベーション事業は評価されにくく、2021年6月の第21回定時株主総会では、保有するアイペット株56%の価値139億円がドリームインキュベータの時価総額93.8億円を上回ると株主から指摘されていた。
内容
2022年11月7日の取締役会で第一生命ホールディングスによる公開買付けへ全株式を応募することを決議し、2023年1月10日に公開買付けが成立した。税引き後のキャッシュイン約150億円は成長投資50億円・株主還元100億円へ配分し、2023年2月に特別配当20億円、同年5月に上限30億円の自己株式取得を決めた。
含意
ペットライフスタイルセグメントが連結から外れ、2024年3月期の売上高は前年同期比82.2%減の5,378百万円まで縮んだ。ビジネスプロデュース1本に絞った事業は2026年3月期に売上高8,691百万円・経常利益1,872百万円まで伸び、2030年3月期に売上高110億円以上という目標が置かれている。
筆者の見解

評価されない資産を、現金へ

アイペット株56%の値打ちが139億円、自社の時価総額が93.8億円。2021年6月の総会で株主が並べた数字は、育てた資産が株価に映っていないことを示している。投資育成の使命は果たされたという説明と、中身がわからないため評価ができないという株主の声は、同じ事実の裏表であったとみられる。原田哲郎氏が1年以上の議論の末に選んだのは、評価されない資産を現金へ換えて配り、残る一本を評価しやすくすることであった。

ただ、集約の代償は翌期の決算に出ている。売上高は82.2%減の5,378百万円まで落ち、ベンチャー投資も投資先18社の減損1,792百万円でセグメント損失1,929百万円を計上した。経常利益が1,872百万円まで戻る2026年3月期まで、回復には3期を要している。インキュベーションで培った経営アセットをビジネスプロデュースに活かすという構想も、原田哲郎氏自身が成長戦略の検討課題と述べたまま、答えはまだ出ていない。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

売却を前提に育てた12年

ドリームインキュベータは2011年2月、インキュベーション事業の一環として、ペット向け医療保険を手がけるアイペット(現アイペットホールディングス)の発行済株式の82.11%を議決権ベースで取得し、連結子会社とした。同社は2018年4月に東京証券取引所マザーズへ上場する。投資の実行時から、自らの役割を果たした暁には保有する全株式を売却する方針が、有価証券報告書等で開示されていた[1][2]

この記載の経緯について原田哲郎氏は、2018年6月の第18回定時株主総会で、アイペットの上場にあたり東京証券取引所とも相談するなかで、最終的に売却する方針であればその点をきちんと書いたほうがよいと助言を受けたためだと説明している。投資から10年余りでアイペットホールディングスは著しい成長を達成し、ドリームインキュベータは自らが担うべき投資育成の使命は十分に果たされたと考えるに至った[3][4]

評価されない2本立て

一方で、育てた資産が自社の株価に映らないという問題が長く残っていた。2021年6月の第21回定時株主総会では株主から、保有するアイペット株56%の価値が139億円であるのに対し、ドリームインキュベータの時価総額は93.8億円にとどまると指摘された。アイペット株の一部を売却して自己株式取得に充てれば1株当たりの持分が増えるという裁定取引の提案も、この総会で出ている[5]

評価されにくさの原因を、原田哲郎氏は事業構成に求めていた。創業以来、祖業のベンチャー投資と大企業向けのビジネスプロデュースの2本立てで事業を営むなかで、株価をどう上げるかが長年の課題であった。株主に意見を聞くと、中身がわからないため評価ができないと共通して言われたと振り返っている。有価証券報告書も、ボラティリティが高く株式市場から評価されにくかったインキュベーション事業について、適切な収穫を進める方針を記した[6][7]

決断

全株式の応募と、譲渡の理由

2022年11月7日、ドリームインキュベータの取締役会は、第一生命ホールディングスが実施するアイペットホールディングスの普通株式および新株予約権に対する公開買付けへ、保有する普通株式の全てを応募することを決議した。公開買付けは2023年1月10日に成立し、同月17日に決済が行われた。売却価額は21,541百万円で、連結上の帳簿価額との差額18,401百万円を関係会社株式売却益として特別利益に計上した[8][9]

有価証券報告書は譲渡の理由を二つの側から記している。売り手の側では、アイペットホールディングスが投資実行後に著しい成長を達成し、担うべき投資育成の使命は十分に果たされたと認識していた。対象会社の側では、アイペット損保の保有契約件数の増加が続き、持続的な成長とソルベンシー・マージン比率の良化のために資本増強が必要だと共有されていた。株主価値の最大化と同社の成長を同時に達成するには、売却が最善の手法と時期だと判断された[10][11]

2本立てから1本へ

譲渡は、事業構成そのものを組み替える決定と一体であった。原田哲郎氏によれば、継続的な株価向上のために何を変えるべきかという議論は社内で1年以上続き、ミッションは変えずに、方法論として2本立ての事業を1本へ集約・統合するほうが株主に企業価値を評価してもらいやすいという結論に至った。安心して買いやすい株になれば株価も上げやすくなると考えた末の決定であった[12][13]

得た資金の配り方も同時に決めている。税引き後のキャッシュイン約150億円のうち、50億円を成長投資に、100億円を株主還元へ充てる配分とした。還元総額100億円は、公開買付けの開始が発表された2022年11月7日に同時に公表し、2023年2月7日に期末特別配当20億円、同年5月には上限30億円の自己株式取得を決めた。2023年3月末の手元資金は241億円であった[14][15]

結果

連結売上高の8割減

アイペット損害保険が連結から外れた影響は、翌期の数字にそのまま出た。2024年3月期の売上高は5,378百万円で、前年同期に比べ24,754百万円、率にして82.2%の減収となった。販売費及び一般管理費は12,196百万円から2,418百万円へ縮んだものの、営業損失1,966百万円、親会社株主に帰属する当期純損失1,847百万円を計上している。前期に11,553百万円の当期純利益を上げた会社が、1期で損失へ転じた[16][17]

収穫を進めるはずのベンチャー投資も、同じ期に痛んだ。投資先18社の価値下落に伴い減損1,792百万円を計上し、セグメントの売上高は344百万円、セグメント損失は1,929百万円となった。残る柱のビジネスプロデュースは売上高5,034百万円・セグメント利益955百万円を確保し、ビジネスプロデューサーの人員は2023年3月末の87名から2024年3月末には155名へ増えている[18][19]

ビジネスプロデュース1本での再成長

1本に絞った事業が損失から抜けたのは、2026年3月期であった。売上高は8,691百万円で前期比40.6%増、経常利益は1,872百万円で同529.0%増、親会社株主に帰属する当期純利益は1,593百万円で同835.8%増となった。ビジネスプロデュースセグメントだけで売上高6,787百万円・セグメント利益1,967百万円を計上し、2030年3月期に売上高110億円以上、営業利益率15%以上の目標を掲げている[20][21]

一本化した先の中身は、なお描き足されている。三宅孝之社長は2024年2月の誌面で、もうからなくても世の中の役に立つフックと、もうけの仕掛けである回収エンジンを組み合わせることが事業づくりの要であり、構想は社会課題から起こすと述べている。原田哲郎氏も、23年間積み上げたインキュベーション事業のノウハウ・資金・人材は収穫して終わりではないとし、培った経営アセットの活かし方は成長戦略の検討課題だと説明した[22][23]

出典・参考
  • ドリームインキュベータ 有価証券報告書(2023年3月期・連結・日本基準)
  • ドリームインキュベータ 有価証券報告書(2024年3月期・連結)
  • ドリームインキュベータ 有価証券報告書(2026年3月期・連結)
  • ドリームインキュベータ 第18回定時株主総会 質疑要旨(2018年6月11日)
  • ドリームインキュベータ 第21回定時株主総会 質疑要旨(2021年6月16日)
  • ドリームインキュベータ 第23回定時株主総会 質疑要旨(2023年6月20日)
  • 週刊東洋経済 2024年2月24日号

この決断を下した社長 原田哲郎

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