ドリームインキュベータ創業者と2代目社長の同時退任、原田・三宅・細野の3代表制への移行

一度は継続と開示した体制をなぜ翻したのか——創業20年の株価と世代交代

時期 2020年6月
意思決定者(推定) 堀紘一山川隆義・取締役会 ドリームインキュベータ 取締役ファウンダー・ドリームインキュベータ 代表取締役社長
論点 経営体制と世代交代
概要
2020年6月、創業20年のドリームインキュベータで、創業者の堀紘一氏(取締役ファウンダー)と2代目社長の山川隆義氏(代表取締役社長)が同時に退任し、原田哲郎氏を代表取締役CEO、三宅孝之氏と細野恭平氏を代表取締役COOとする3人の代表による体制へ改めた経営判断。
背景
2002年のマザーズ上場時と2005年の東証一部昇格時を下回る株価が20年続いた。2019年には大口顧客1社がコンサルティングの発注を取りやめて約10億円の売上が消え、2020年3月期は増収ながら経常損失と当期純損失を計上した。
内容
取締役会は当初、従前の体制を次期も継続するとして開示したが、2020年5月にこれを取り下げ、社内育ちの原田・三宅・細野の3氏へ代表権を分ける世代交代を決議した。山川氏は退任の理由に、自身と堀氏が残る限り社員の考えが従来の延長線上から動かないことを挙げた。
含意
後継者の準備が整ったからではなく、創業者2人の存在そのものを制約とみなした交代であった。3人横並びの代表制は1年で序列のある体制に改まり、電通グループとの資本業務提携と投資事業の整理が続いた。
筆者の見解

制約としての創業者

山川氏が退任の理由に挙げたのは、後継者が育ったことではなく、自分と堀氏が残る限り社員の頭のなかが延長線上から動かないという見立てであった。創業者と2代目社長が、自分たちの存在そのものを社内の制約とみなした説明であった。20年かけてもビジネスプロデュースを世の中に浸透させられなかったという自己評価と、この説明は対になっている。一度は継続と開示した取締役会が5月に方針を翻せたのも、上場時を下回る株価という実績が当事者に反論の余地を残さなかったからだとみられる。

もっとも、3人が横並びで代表権を持つ形は1年しか続かず、2021年6月には三宅氏が社長、細野氏が副社長となって序列が引かれた。株価も新体制の初年度に下げ止まらず、堀氏が切腹に値すると詫びた翌年の総会では、原田氏が申し訳ないと述べる側に回っている。世代交代が効いたかどうかは、電通グループとの提携と投資事業の整理で絞った事業構成が利益を生むかで測られる。創業者の退場は、その問いの答えではなく前提を作り替えた手続きだったといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

上場時を下回る株価が続いた20年

2020年6月29日の第20回定時株主総会で、堀紘一氏は謝罪から話を始めた。ドリームインキュベータの株を保有してキャピタルゲインを得た株主はほぼゼロだと認めたうえで、株価の推移を並べた。2002年5月のマザーズ上場時の公募価格23万円は、株式分割を調整すると2,300円にあたり、時価総額は約230億円であった。2005年に東証一部へ昇格した際の公募価格58万9,760円は同じ調整で5,900円にあたる[1]

堀氏によれば、東証一部に昇格した時点の時価総額は2020年の4倍あり、そこから14年から15年をかけて4分の1へ減った。社員には手厚く賞与を払う一方で株主には冷たいという批判は当たっていると認め、競合に人材を引き抜かれないための処遇であったと説明している。武士の社会であれば切腹に値するとまで述べ、詫びたうえで静かに去ると結んだ。同じ総会には、投資家として最大の損失を被ったのがこの銘柄だという株主の追及が出ていた[2]

収益源の偏りと、2019年の失注

前年の第19回定時株主総会で、堀氏は業績悪化の中身を具体的に説明していた。失われた顧客は2社でも3社でもなく1社で、その1社が発注額の首位を占め、2位以下と比べても突出していた。競合に奪われたのではなく、その会社の経営幹部が経営コンサルティングを使わないと決めたためであった。金額にして約10億円で、堀氏は1社で売上の1割を超える受注構成そのものに危うさがあったと認めている[3]

同じ総会で会社の最大の課題を問われた堀氏は、限界までの挑戦がないことだと答えた。2020年3月期の連結売上高は22,595百万円と9.1%の増収でありながら、経常損失25百万円、親会社株主に帰属する当期純損失198百万円を計上した。プロフェショナルサービス事業が売上2,679百万円まで戻した一方、営業投資セグメントは投資先5社の価値下落などで営業損失166百万円を出し、連結売上の8割は子会社アイペット損害保険の18,157百万円が占めた[4]

決断

一度開示した体制継続の撤回

会社は当初、堀氏と山川隆義氏が引き続き取締役にとどまる人事を開示し、2020年5月にこれを取り下げた。社外取締役で監査等委員長の那珂正氏は総会で、その経緯を株主に説明している。取締役会として従前の体制をそのまま次期も継続するという議論があったため一旦はそのように開示したが、その後、山川社長らから経緯の説明があり、この際やはり思い切った世代交代をやるという結論に至った、というのが那珂氏の説明であった[5]

那珂氏は世代交代そのものの難しさにも踏み込んだ。創業以来長く続いた強力な経営陣の交代については、その対象・規模・時期をめぐって様々な考え方があり、議論が起きるのは当然であって、その過程に迷いや軋轢、混乱が生じるのもやむを得ないと述べている。コロナ禍のなかで若干の混乱もあったと認めたうえで、原田・三宅・細野の3氏によるトロイカ体制への世代交代を決めたことは社外取締役としても一定の評価をしたい、と結んだ[6]

創業20周年と、自分たちが残ることの制約

山川氏は、6月1日がドリームインキュベータの創業20周年にあたるため、この機会に自身と堀氏の退任を発表したと述べた。理由として挙げたのは後継者の準備が整ったことではない。自分と堀氏がそのままでは社員たちの頭のなかがいつまでも延長線上から変わらない、という見立てであった。産業構造が根本から変わる以上、社員も考え方を全部入れ替えなければならず、それを把握して実行するには経営陣も変わらなければならないと語っている[7]

もうひとつ挙げたのは、20年かけても看板を作れなかったという総括であった。山川氏は2000年6月に堀氏からコンサルタントではない違う言葉を考えろと言われ、ビジネスプロデュースという言葉を作ったが、作っただけで世の中に浸透せず、自分たちもそれができているわけではなかったと述べている。コンサルティングとベンチャー投資・事業投資が融合して戦えず、独自のものをブランド化できていないことが株価低迷の最大の原因ではないか、とも語った[8]

後任の3氏のうち三宅孝之氏は、コンサルティングの責任者として大企業の新規事業や事業創造を仕掛けてきたためビジネスモデルを作るのは得意だが、そのスキルをクライアントや他社のためだけに使ってきたと総括した。今度はドリームインキュベータという会社のためにそれを使う、というのが新体制の方針であった。山川氏も、原田・三宅・細野の3氏は自分たちができなかったことを実際に体現しはじめていると評している[9]

結果

3人の代表による1年目

2020年6月29日の総会終結の時をもって、原田哲郎氏が代表取締役CEO、三宅孝之氏と細野恭平氏が代表取締役COOに就いた。3氏はいずれも創業後の入社で、原田氏が2000年10月、三宅氏が2004年6月、細野氏が2005年10月に入社し、取締役への就任は原田氏が2018年6月、三宅・細野の両氏が2019年6月であった。同じ総会で可決したファウンダー功労金は6,000万円で、取締役には退職金の規定がなく、山川氏にも過去の取締役にも退職金はなかった[10][11]

新体制の初年度となった2021年3月期は、連結売上高27,776百万円と22.1%の増収でありながら、経常損失971百万円、親会社株主に帰属する当期純損失2,105百万円を計上した。2021年6月16日の第21回定時株主総会では、株価への株主の指摘に対し、原田氏が申し訳なく思っていると述べ、株価の向上と株主の信頼回復に努めると答えている。堀氏が切腹に値すると総括した問題は、経営陣を替えた1年では動かなかった[12][13]

電通グループとの提携と、投資事業の整理

3人が横並びで代表権を持つ形は1年で改まった。2021年6月、三宅氏が代表取締役社長COO、細野氏が取締役副社長COOに就き、原田氏の代表取締役CEOと合わせて序列のある3人体制となった。新体制は外部の資本も受け入れた。2021年5月14日に電通グループと資本業務提携を開始し、戦略の策定から実行支援までを一気通貫で提供する方針を掲げた。電通グループは2022年3月末時点で2,192,700株・21.83%を保有する主要株主となった[14][15]

投資事業のほうは絞り込んだ。2021年10月1日、ビジネスプロデュース事業への経営資源の傾注と投資事業のボラティリティ抑制を目的として、国内向け投資ファンドの運営会社であるDIMENSION株式会社を譲渡し、同ファンドを連結子会社から外した。山川氏がブランド化を阻む原因として挙げたコンサルティングと投資の併存は、投資側を細らせる形で整理された。2020年の交代が動かしたのは経営陣の顔ぶれだけではなかった[16]

出典・参考
  • ドリームインキュベータ 第20回定時株主総会 質疑要旨(2020年6月29日)
  • ドリームインキュベータ 第19回定時株主総会 質疑要旨(2019年6月10日)
  • ドリームインキュベータ 第21回定時株主総会 質疑要旨(2021年6月16日)
  • ドリームインキュベータ 有価証券報告書(2020年3月期・連結)
  • ドリームインキュベータ 有価証券報告書(2021年3月期・連結)
  • ドリームインキュベータ 有価証券報告書(2022年3月期・連結)

この決断を下した社長 堀紘一

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