社長交代と後継指名
日本企業の社長は社内昇進の到達点にあり、後継の指名は前任者の裁量に属していた。長期雇用のもとで、選抜は入社の日から始まっていた。同期のあいだで配属と昇進に少しずつ差が付き、役員に残る数人まで絞られた。社長交代として外部から見えるのは、その長い過程の最終段階だけであった。
選ぶ主体も社内で完結していた。前任の社長が後継を決め、取締役会がその人事を承認した。取締役は社長の下で昇進した人々であり、指名を覆す立場になかった。株式は取引先どうしが相互に保有し合っており、主力銀行も融資が回収できるかぎり人事へ関与しなかった。基準を外部へ示す必要がないため、基準は明文化されなかった。在任年数や年齢の慣行が、暗黙の目安として働く程度である。
日本的経営として総括された長期雇用と集団での意思決定は、後継の選び方まで含んでいた。経営者を社内で育て、社内で選び、社内で承認する。1977年の山下俊彦氏の序列外抜擢が長く語られるのは、同じ社内の序列を飛び越えただけで例外と見なされたからである。
手続きのないところで、社長交代は責任追及の場面にだけ表面化した。1991年の野村證券の損失補填、1997年の第一勧業銀行の総会屋融資では、不祥事の露呈がそのまま経営陣の総退陣に直結した。誰が次を担うかではなく、誰が辞めるかを決める局面でだけ、交代が外部から見えた。
転機は帝人が2002年に導入した社外委員による後継者選抜である。この制度により、指名は個人の裁量から手続きへ移った。導入の時期は、株式の持ち合いが解けて外国人株主が増加し、日本企業が外部の基準で成績を説明するようになった時期と重なる。資本の使い方を説明する義務が生じれば、その資本を任せる人物の選び方も説明の対象になる。
手続きを欠いたまま長期政権が続いた場合の代償は、その後に露呈した。2015年の東芝の歴代3社長引責では、三代の社長が同じ会計処理を引き継いでいた。2018年のカルロス・ゴーン氏の逮捕では、後継を決めないまま権限が一人に集中していた。2023年、サイバーエージェントはサクセッションプランを公表した。創業者でさえ、在任中に交代の手順を市場へ示したのである。指名が前任者の裁量にとどまるかぎり、交代の理由は交代した後にしか分からない。一方、手続きに載せれば、後継を選ぶ基準は選任の前に開示される。
財務諸表のどこを見るか
「役員の状況」を年ごとに並べ、代表取締役の就任年月日と生年月日から在任期間と就任時の年齢を割り出す。次にコーポレート・ガバナンスの状況で、指名委員会の設置形態、社外取締役の員数、後継者計画の記載を確かめる。交代の理由は有価証券報告書より臨時報告書に出るため、代表取締役の異動の届出と、特別損失や不適切会計の注記を突き合わせる。臨時報告書の議決権行使結果に載る取締役選任議案の賛成率は、交代が株主の信任をどこまで得たかを示す。