中部家三代の同族経営終幕(1993年・マルハの決断)

更新:
マルハ:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
社名の変更と、日本興業銀行出身者への社長職の委譲1993年9月、大洋漁業は社名をマルハへ変更した。社名から「漁業」の文字を外し、創業以来の「まるは」のシンボルマークも新しい図案に替えた。決めたのは、1989年6月に社長に就任した中部慶次郎氏である。

何をなぜ決めたか:社名の変更と、日本興業銀行出身者への社長職の委譲

概要

1993年9月、大洋漁業は社名をマルハへ変更した。社名から「漁業」の文字を外し、創業以来の「まるは」のシンボルマークも新しい図案に替えた。決めたのは、1989年6月に社長に就任した中部慶次郎氏である。

社長職が中部家の外へ出たのは、改称から9年後である。2002年3月1日、日本興業銀行の常務取締役から転じた五十嵐勇二氏が代表取締役社長に就任し、中部慶次郎氏は取締役会長へ移った。交代の理由には、前年に策定した「マルハグループ経営方針」に基づき、中期三か年経営計画の骨格が定まったことを挙げた。

背景

社長職は創業から中部家の中で受け継がれてきた。創業者の中部幾次郎氏が会長に退くと長男の中部兼市氏が社長に就任し、1953年3月に中部兼市氏が急逝すると、副社長の中部謙吉氏が社長を承継した。株式も同じで、1955年1月末の大株主は上位10名がすべて中部姓だった。役員にも社長の中部謙吉氏をはじめ中部姓が4名並んだ。

その事業の土台が1977年の200カイリ漁業水域で崩れ、大洋漁業は北洋などの漁場を失った。1991年3月期にはイカの在庫処分で61億円の経常赤字となり、1992年3月期も36億円の経常赤字だった。同期の総売上高5,259億円のうち魚介類が2,846億円を占めたが、約67万2,000トンの総取扱高のうち自社の漁獲は約6万5,000トンにすぎなかった。

内容

改称は「脱漁業」と「加工食品志向」の方針表明を兼ねていた。ただし単独の売上高は、1989年の5,800億円から6年で4,100億円まで減少した。1996年、中部慶次郎社長は中期計画「チャレンジ99」の策定を表明し、その年度末で累積損失67億円を解消すると社内に示した。

銀行出身者の受け入れは2000年6月に始まり、五十嵐勇二氏が代表取締役専務に就任した。2002年2月15日の取締役会は、中期三か年経営計画と子会社の解散などを決議した。同じ日に、キューバ向けの前渡金を抱えるギルアンドダファスへの貸倒引当金で約100億円、大洋真珠の解散で約24億円の特別損失を見込んだ。社長の交代も同じ日に公表した。

いつ何が起きたか12件
筆者考察
考察

考察:社名が先、社長職が後

中部慶次郎氏は、社長職より先に社名を変更した。1992年3月期の大洋漁業は、総売上高の半分超を魚介類が占めながら、自社の漁獲は取扱高の1割を下回っていた。社名の「漁業」は、すでに事業の中身と合っていなかった。しかも社名の変更なら、株式も社長職も中部家に残したまま実行できる。経営の権限には手を付けずに、事業の方向だけを先に社内外へ示したとみられる。社長職の継承という重い問題は、収益が立ち直るまで先送りにできた。

もっとも、社名を変更しても売上は戻らなかった。単独の売上高は、1989年の5,800億円から6年で4,100億円まで減少した。社長職を渡したのは改称の9年後である。その前に中部慶次郎氏は、ギルアンドダファスへの約100億円の引当を含む損失処理を、自らが社長の取締役会で決議している。損失の処理は中部家の社長が決め、銀行出身の社長はその計画を引き継いで就任した。交代の時期は、改称ではなく損失処理の決議に合わせたと思われる。

到達点は、社長職と取締役会とで分かれる。社長職は2002年3月に五十嵐勇二氏へ移り、2004年の持株会社の設立、2007年のニチロとの経営統合へと続いた。一方で、中部慶次郎氏は取締役会長に残り、2006年には中部謙氏がマルハグループ本社の代表取締役副社長に昇格した。同族経営が終わったのは社長職の継承についてである。取締役会まで含めれば、2006年の時点でも中部家は経営の中にいた。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

数字で見る

マルハ:経常利益の推移(単体)

マルハ:経常利益の推移(単体)

マルハ:経常利益の推移(単体)
(億円)総売上高経常利益備考
1991年3月期−△61イカの在庫処分で経常赤字に転落
1992年3月期5,259△36魚介類が2,846億円で総売上高の半分超
出所:日経ビジネス 1993年4月26日号「大洋漁業 ケチに徹したタイ料理店『脱漁業』の有力な武器に」
出所:日経ビジネス 1993年4月26日号「大洋漁業 ケチに徹したタイ料理店『脱漁業』の有力な武器に」
参考文献

参考文献

参考

次に読む決断

免責事項およびポリシー