連邦型の「放任」からグループシナジーへ、鶴羽順社長の方針転換
2020年実施買収先の裁量を尊んで全国へ広げた連邦型を、創業家出身の鶴羽順社長はなぜ「放任」と呼んで手を入れたか
- 概要
- 2020年6月、健康上の理由で退いた非創業家の堀川政司前社長に代わり、創業家3代目で生え抜きの鶴羽順が社長に就いた。鶴羽は連邦型M&Aで広げた全国網を土台に、買収先の裁量を尊ぶ「放任」を改め、プライベートブランド(PB)の導入率100%とコンサル型店舗でグループのシナジーを引き出す方針へ舵を切った。
- 背景
- 20年におよぶ連邦型M&Aで、同社は買収した地域チェーンを地域別子会社として取り込み、2020年に全国カバー網をほぼ完成させた。規模は年商8千億円を超えたが、各社の自主性を残したぶん、グループを一体で運営し利益の質を高める余地が課題として残っていた。
- 内容
- 鶴羽は「大規模な経営統合の可能性も否定しない」とM&A継続の意欲を保ちつつ、内側では「放任主義を捨てて」PB導入率を100%へ引き上げ、店頭スタッフのコンサルティング対応で付加価値を高める方針を示した。規模を広げる成長から、広げた規模を一体で稼ぐ成長への転換だった。
- 含意
- 成長の量を追う連邦型から、量を質へ変えるシナジー志向への切り替えは、2024年のイオン・ウエルシアとの統合で「500億円のシナジー」を狙う路線へつながった。買収先の独自性と、グループの一体運営をどう両立させるかという問いを残した。
広げた規模を、どう一体で稼ぐか
この判断の芯は、外へ広げる成長そのものを否定せずに、その中身を入れ替えた点にある。鶴羽は、自社が20年かけて磨いた連邦型という勝ちパターンを、あえて「放任」と呼んだ。買収した会社に任せ、屋号も運営も残す寛容さは、速く広げるには効くが、グループとして一体で稼ぐ力にはつながりにくい。健康上の理由という受け身の交代で回ってきた創業家出身の社長が、まず手を入れたのが、自分の家業が積み上げてきた成功の型だったことに、この決断の性格がよく表れている。
もっとも、PB100%やコンサル型店舗は、掲げるのはたやすく、根づかせるのは難しい。買収で寄せ集めた各社の文化や品揃えを一色に染めるには時間がかかり、収益の質が規模の拡大に追いつくには年月を要した。それでも、量を質へ変えるというこの問題意識は、やがてウエルシアとの統合という桁違いの規模へ持ち越され、「500億円のシナジー」という数字で問い直される。広げた規模を、どうすればグループとして一体で稼げるか——2020年の方針転換は、その問いを経営の中心へ据えた選択だった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
連邦型M&Aが広げた全国網
ツルハは1929年に旭川で生まれた街の薬局を源流に、2000年代以降は各地の地域チェーンを次々と株式取得し、地域別子会社として束ねる「連邦型」のM&Aで全国へ広がった。買収した各社の屋号や運営をそのまま残し、本部の物流・調達を重ねるこの手法で、北海道の一チェーンは関東・東海・関西・中国・四国へと商圏を継ぎ足していった。2020年5月にJR九州ドラッグイレブンを子会社化すると、北海道から沖縄までの全国カバー網がほぼ整った[1]。
広がった網は、業績の数字にも表れた。2020年5月期の連結売上高は8,410億円、経常利益は463億円に達し、年商8千億円を超えるグループになっていた。もっとも、各社の自主性を残す連邦型は、規模を速く広げるのに向く一方で、グループ全体で商品や品揃えを揃えるほどの一体運営には至っていなかった。買収を重ねて量を積み上げたぶん、その量をどれだけ利益に変えられるかという質の問いが、後に控えていた[2]。
健康上の理由での社長交代
経営陣の顔ぶれも、ちょうど変わろうとしていた。2014年から会社を率いたのは、創業家以外から初めて社長に就いた堀川政司である。その堀川が2020年6月、健康上の理由で退任を申し出て、6年ぶりの社長交代となった(堀川は翌2021年3月、62歳で死去する)。後を継いだのは、創業家として3代目にあたる鶴羽順だった。1998年に入社して北海道の店舗運営の現場でキャリアを積んだ、46歳の生え抜きである[3][4]。
決断
「放任」を捨て、PB100%とグループシナジーへ
鶴羽が最初に示したのは、M&Aをやめるという話ではなかった。就任直後、「大規模な経営統合の可能性も否定しない」と述べ、業界再編に加わり続ける構えを見せている。変えようとしたのは、外へ広げる速さではなく、内側の運営だった。買収した会社に任せきりにしてきたやり方を「放任主義」と呼び、これを捨てて、グループ共通のPB導入率を100%へ引き上げると宣言した。狙いは、規模に見合うだけのシナジーを取りにいくことにあった[5][6]。
コンサル型店舗への舵——価格から付加価値へ
店の売り方についても、方向を示した。2020年9月、鶴羽はコロナ下の方針として、店頭のスタッフが客の相談に応じて助言する「コンサルティング対応」を掲げた。健康や美容の相談に薬剤師や登録販売者が応え、価格の安さだけでない付加価値で選ばれる店をめざすという筋である。安く広く売る量販の発想から、専門性で稼ぐ売り方へ——連邦型で各社に委ねてきた店づくりにも、グループとしての色を通そうとしていた[7]。
結果
収益の質という宿題と、規模のシナジーへの接続
方針転換のあとも、規模は伸び続けた。コロナ特需に沸いたのち、2024年5月期には売上高が1兆274億円と1兆円台に乗せている。ただ、特需の反動で2022年5月期の経常利益は約400億円へ落ち込み、量の拡大がそのまま利益の質に結びつくわけではないことも見えてきた。買収した数十のチェーンにPBやコンサル型の売り方を通し切るには、なお時間がかかる。宣言した100%は、掲げた時点では到達点ではなく、長い作業の号砲だった[8]。
内側でシナジーを取りにいくという2020年の判断は、数年後にはるかに大きな器へ移し替えられた。2024年2月、同社は業界首位のウエルシアホールディングス、そしてイオンと資本業務提携で合意する。北海道発で業界2位のツルハと首位ウエルシアが一つになる業界再編の最大ディールで、2020年に鶴羽が唱えたグループシナジーの追求は、桁違いの規模で問い直されることになった[9]。
- データ・マックス NetIB-News(2020年6月17日)「創業家を軸にした社長交代のケーススタディー(中)サンリオ、ツルハHD、松井証券」
- ダイヤモンド・チェーンストア(2021年3月)「ツルハHD、前社長の堀川政司氏が死去、62歳」
- 日本経済新聞(2020年6月10日)「ツルハ社長『大規模経営統合も』、M&A継続に意欲」
- リアルエコノミー(2020年9月29日)「ツルハHD鶴羽順社長インタビュー『異業種のM&Aも視野』『北海道500店舗体制に』」
- ツルハホールディングス 有価証券報告書 第64期(2026年2月期)【沿革】
- ツルハホールディングス 有価証券報告書(連結・経営指標等)