この交代でいちばん重いのは、社長という職務が動いた一方で、CEOという権限が動かなかったことだと思われる。過去2度、御手洗冨士夫氏は社長を委ねながら前線へ戻ってきた。3度目にあたる今回は、社長を小川一登氏へ譲る手順を踏みつつ、CEO職と取締役会議長の座は自らに残している。最高経営責任者の後継者計画でも、候補に課題を与え、進捗を確認し、評価するのはCEO自身であり、指名・報酬委員会が担うのはその過程の確認にとどまる。承継の仕組みが働くかどうかが、承継する当人の判断に委ねられている構図は変わっていない。
もっとも、90歳のCEOと67歳の新社長が並走する構図には、この会社の固有の事情も映っている。2025年に終わったフェーズⅥは売上高の目標を1年前倒しで達成した一方、営業利益率12%には届かなかった。フェーズⅦはその12%を2028年の目標として掲げ直しており、果たせなかった約束をもう一度背負う初年度を、取締役歴2年の新社長ひとりに委ねる選択を会社は採らなかったのだろう。強い求心力で会社を率いてきた経営者が、その求心力ゆえに引き際を定めにくくなることは、キヤノンに限った話ではない。3度目の交代がCEOの移譲まで届くかは、この数年で小川一登氏が実行者としてどれだけ認められるかにかかっている。