杉江俊彦氏が社長昇格(2017年・三越伊勢丹HDの決断)

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論点 求心力を失った社長を交代させるか
三越伊勢丹HD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
大西洋社長の退任を受けた社内からの後任のトップ選出

何をなぜ決めたか:大西洋社長の退任を受けた社内からの後任のトップ選出

概要

2017年3月、大西洋社長の退任と杉江俊彦専務執行役員の社長昇格が決まり、代表取締役の異動として3月9日に臨時報告書が提出された。杉江俊彦氏は翌4月に代表取締役社長執行役員へ就任し、事業会社である三越伊勢丹の社長も兼ねた。

訪日客の需要が一巡した2017年3月期の経常利益は27,418百万円で、前期から9,286百万円の減益。百貨店業の営業利益は11,093百万円と前期の半分に沈んでおり、統合の象徴だったトップがその決算を待たずに退場した。

背景

収益源と位置づけた新宿・日本橋・銀座の基幹3店を抱えながら、2017年3月期の百貨店業は売上高1,151,020百万円で前期比3.1%減、営業利益は11,093百万円と前期の21,569百万円からほぼ半減した。

2008年の統合後に事業会社や機能・業務フローの統廃合を進め、成果獲得フェーズとして新規事業への先行投資に着手したものの、前の3か年計画は大幅未達に終わった。次の中期経営計画がまだ策定中という空白の時期に、トップの交代が重なった。

内容

退任した大西洋氏は2012年2月に社長へ就任し、2016年5月からは日本百貨店協会会長も務めていた。後任の杉江俊彦氏は1983年に伊勢丹へ入社し、2012年から経営戦略本部長として同じ路線を支えてきた人物で、社内からの昇格となった。

人事の原案は、社外取締役が過半数を占める指名報酬委員会が取締役会へ答申する。委員会は社外取締役4名と代表取締役1名で構成され、委員長は社外取締役が務める。経営トップの在任任期と後継者は毎年確認・共有され、社外取締役の判断による交代を可能にする仕組みが置かれていた。取締役の任期は1年である。

含意

新体制が掲げたのは、収益性に課題のある支店・地域店・海外店・中小型店の徹底した構造改革と、社内の対話を増やして風通しの良い風土をつくることだった。前者は事業の問題、後者は交代の引き金となった組織の問題への答えである。

もっとも高コスト体質そのものは残り、2018年3月期は店舗閉鎖損失2,415百万円を含む特別損失を計上して、親会社株主に帰属する当期純損失960百万円へ転落した。百貨店業の営業利益は14,484百万円まで戻したが、全社の最終損益は赤字だった。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 8名

当時の取締役(2016年6月株主総会決議)

考察:カリスマの退場が問うたもの
考察

考察:カリスマの退場が問うたもの

この交代の中心にあるのは、統合会社を統括するトップの正統性がどこから生まれるかという問いであった。大西洋氏は旧三越と旧伊勢丹の融和を掲げて求心力を保とうとし、その代償として痛みを伴うリストラを先送りしてきた。ところが百貨店業の営業利益が11,093百万円まで半減すると、機関決定を待たずに発せられた改革のメッセージは現場の不信へ転じ、融和のために温存したはずの組織そのものが反旗を翻した。カリスマ性が支えていた統治の足場が、業績不振を触媒に崩れていった経緯がうかがえる。

もっとも、社長を替えても課題が解けたわけではなかった。後継体制は構造改革を掲げながら不採算店の原則閉鎖には踏み込めず、翌期は親会社株主に帰属する当期純損失960百万円へ沈んだ。トップの退場は組織の不満を鎮める装置にはなっても、高コスト体質という積年の課題まで解く保証はない。誰が号令をかけるかという人の問題と、何を畳み何を残すかという事業の問題は別物であり、三越伊勢丹の再建はその後も長く後者を問い続けたと推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

三越伊勢丹HD:連結業績の推移

売上高(百万円)経常利益率(%)
三越伊勢丹HD:連結業績の推移
(百万円) 売上高経常利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2012年3月期 1,239,92138,45258,891 第4期。当期純利益の表記で、親会社株主に帰属する当期純利益の区分は未導入
2013年3月期 1,236,33334,21725,292
2014年3月期 1,321,51238,44021,166
2015年3月期 1,272,13034,56329,886
2016年3月期 1,287,25336,70426,506
2017年3月期 1,253,45727,41814,976 社長交代の期。経常利益は9,286百万円の減益で、百貨店業の営業利益は半減した
2018年3月期 1,256,38627,325△960 構造改革に伴う特別損失を計上。売上高は翌期以降の有報の組替後の値
2019年3月期 1,196,80331,99513,480
2020年3月期 1,119,19119,771△11,187
2021年3月期 816,009△17,171△41,078
2022年3月期 418,3389,52012,338 第14期より収益認識会計基準を適用。売上高は前期までと連続しない
出所:三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書 第4〜14期(主要な経営指標等の推移)
出所:三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書 第4〜14期(主要な経営指標等の推移)

経緯と対応

経緯と対応
科目 概要 備考
交代期の連結業績 経常利益27,418百万円 前期から9,286百万円の減益。親会社株主に帰属する当期純利益は14,976百万円
百貨店業の営業利益 11,093百万円 売上高は1,151,020百万円で前期比3.1%減。前期の営業利益21,569百万円から半減
交代の臨時報告書 2017年3月9日 代表取締役の異動として関東財務局長へ提出。開示府令第19条第2項第9号に基づく
退任した社長 大西洋氏(代表取締役社長執行役員) 2012年2月に就任。2016年5月からは日本百貨店協会会長も務めていた
新社長 杉江俊彦氏(取締役専務執行役員) 1983年に伊勢丹入社。2012年から経営戦略本部長、2016年4月から専務執行役員
社長の交代時期 2017年4月 代表取締役社長執行役員に就任し、事業会社である三越伊勢丹の社長も兼ねた
会長の異動 2017年4月25日 代表取締役の異動として臨時報告書を提出。赤松憲氏が同年6月に代表取締役会長へ
人事を諮る機関 指名報酬委員会 取締役、執行役員等の人事と報酬に関する原案を取締役会へ答申する諮問機関
委員会の構成 社外取締役4名と代表取締役1名 委員長は社外取締役。会社設立からの10年間で110回以上開催している
サクセションプラン 毎年確認・共有する 経営トップの在任任期と後継者。社外取締役の判断によるトップ交代を可能にする
取締役の任期 1年 2017年6月21日から2018年3月期に係る定時株主総会終結の時まで
新体制が掲げた課題 構造改革と風土の刷新 支店・地域店・海外店・中小型店の構造改革と、社内の対話を増やした風通しの改善
出所:三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書 第9期(2017年3月期)【役員の状況】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【その他の参考情報】・第10期(2018年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】
出所:三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書 第9期(2017年3月期)【役員の状況】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【その他の参考情報】・第10期(2018年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】
当時の取締役 8名

当時の取締役(2016年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 三越伊勢丹ホールディングス 臨時報告書「代表取締役の異動」
  • 三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書「第9期(2017年3月期)【役員の状況】」
  • 三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書「第9期(2017年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書「第9期(2017年3月期)【セグメント情報等】」
  • 三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書「第10期(2018年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」

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