中期経営計画「リ・ボーン」による原点回帰と3期連続減益からのV字回復

過去最高益の直後に失速したしまむらを、鈴木誠社長はなぜ「元に戻す」ことで立て直したのか

更新:

時期 2021年4月
意思決定者 鈴木誠 社長
論点 商品政策と経営再建
概要
2021年4月、鈴木誠社長のもとでしまむらが中期経営計画2023「リ・ボーン」を策定し、過去最高益の直後に始まった3期連続の減益から原点回帰で立て直した経営判断。品揃えを絞り込んだ「2016年型売場」を元へ戻し、PB・EC・アプリを鍛え直して、2025年2月期に売上・利益とも過去最高を更新した。
背景
2017年2月期に売上5,655億円・営業利益488億円で過去最高を更新した直後、旧来の売場に比べ商品を約25%減らした「2016年型売場」が裏目に出て客足が鈍った。営業利益は2020年2月期に230億円とピークの半分ほどへ沈み、13年ぶりに就いた北島常好社長がわずか2年で退く異例のトップ交代に至った。
内容
2020年2月に就いた鈴木誠社長は、2021年4月に「リ・ボーン」を掲げた。少品種化を元へ戻して品揃えを回復し、PB「クロッシー」と共同開発ブランドの比率を上げ、「服は安ければ良いわけではない」として値引き依存からプロパー消化重視へ転じた。ECとアプリでオムニチャネル化を進め、出店を抑え既存店改装中心の質的成長へ切り替えた。
含意
危機の処方が新規性ではなく「元に戻す」ことだった点に特徴がある。規模拡大で薄れた品揃えの厚みという自社の芯を、鈴木誠社長は商品力の再建として引き直した。リ・ボーンは4期連続増収増益で完遂し、2024年に量的成長を掲げる中期経営計画2027「ネクスト・チャレンジ」へつないだ。
筆者の見解

「元に戻す」という再建

この再建の核心は、危機の処方が新しい何かの追加ではなく、いちど手放したものを「元に戻す」ことにあった点にある。過去最高益をもたらした「2016年型売場」の整理整頓と少品種化は、売場を見やすくする合理的な改善に見えて、しまむらの強みだった品揃えの厚みと、掘り出し物を探す買い物の楽しさを削っていた。鈴木社長がまず取り組んだのは、目新しい成長の絵を描くことではなく、薄めた品揃えを回復し、値引き依存から質へ寄せ直すという、自社の芯の引き直しであった。好調の頂点にあった判断がのちの失速を招いたという反転に、この事例の教訓がある。

もっとも、V字回復のすべてを商品改革だけに帰することはできない。巣ごもり需要のもとで値ごろな実用衣料への追い風が吹いた面もあり、回復の背景は一つではない。それでも、規模を薄く広く追う量的成長と、一店ごとの中身を高める質的成長のあいだで、しまむらは往復を続けてきた。少品種化で規模の重みに沈み、原点回帰で立て直し、ふたたび量的成長へ舵を戻す——この決断は、拡大と純化のどちらに軸足を置くかという問いを、小売の現場でくり返し突きつけている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

過去最高益と「2016年型売場」の少品種化

しまむらは、地方の郊外に広がる小商圏へ薄く広く出店し、自社で開発した電算システムと専用の物流で運営費を切り詰めてきた衣料品チェーンである。2017年2月期には連結売上高5,655億円・営業利益488億円・純利益329億円と過去最高を更新し、営業利益率は8.6%に達した。この過去最高益の直前、しまむらは売場の見やすさを優先して品揃えを絞り込む「2016年型売場」を全店へ広げていた。旧来の売場に比べて商品数をおよそ25%減らしたこの売場は、整理整頓を進める一方で、品揃えの厚みを削るものであった[1][2]

品揃えを薄くした売場は、客が思わぬ掘り出し物に出会う楽しさを弱め、来店の足を鈍らせた。業績は過去最高の翌期から反転する。連結営業利益は2018年2月期に429億円、2019年2月期に255億円、2020年2月期に230億円へと、3期続けて落ち込んだ。ピークの488億円と比べれば半分ほどの水準で、規模を追って積み上げた1,500店を超える店舗網が、かえって固定費として利益を圧迫する構図が表に出た[3]

異例のトップ交代

業績の落ち込みは、経営体制の動揺となって表れた。2018年1月、しまむらは13年ぶりの社長交代を発表し、北島常好氏が4代目社長に就いた。北島社長は「2016年型売場」の見直しと商品数の回復を掲げたが、業績は本格的な回復に届かない。就任からわずか2年の2020年2月、北島社長は5代目の鈴木誠氏へ社長を譲った。流通大手では異例の短い交代は、低迷の根の深さと取締役会の危機感を映していた。退任にあたり北島社長は、不振の最大の要因を「アイテムを絞り過ぎ、整理整頓し過ぎたことだ」と総括した[4][5]

決断

中期経営計画「リ・ボーン」── 原点への回帰

2020年2月に社長へ就いた鈴木誠氏は、1989年に入社し物流の畑を長く歩んだ生え抜きで、しまむらが自前で築いた電算・物流の仕組みを知り尽くしていた。鈴木社長は就任の翌2021年4月、中期経営計画2023「リ・ボーン」を掲げ、成長の原点への回帰を再建の柱に据えた。まず「2016年型売場」で薄くした品揃えを元へ戻し、売場の厚みを取り戻す。鈴木社長はこの揺り戻しを「変えてはいけないものも元に戻す[8]」と語り、売れ筋への偏りと少品種化から離れる方針をはっきり示した[6][7]

商品の中身も組み替えた。自社で企画するプライベートブランド「クロッシー」と、取引先と共同で開発するブランドの比率を引き上げ、価格の安さだけに頼らない品揃えへ寄せた。鈴木社長は「服は安ければ良いわけではない[10]」として、値引き販売への依存を薄め、値下げに回さず定価で売り切るプロパー消化を重んじる売り方へ転じた。安さで数をさばく量販から、手ごろな価格のなかで質と鮮度を訴える売り方への調整であった[9]

ECとアプリ、質的成長への切り替え

販路も広げた。2020年10月に直営の「しまむらオンラインストア」を開き、2022年にはアベイルとシャンブルのECを加え、同年11月には4つの業態でアプリの会員サービスを始めて、店舗と通販をつなぐオムニチャネル化を進めた。あわせて、量的拡大の時期のように店舗数を積み増すのではなく、店舗の純増を抑えて既存店の改装へ重心を移す質的な成長へ切り替えた。薄く広く出して規模を追う型から、一店ごとの中身を高める型への転換である[11][12]

結果

4期連続増収増益と過去最高益の更新

リ・ボーンの効果は早く数字に表れた。2021年2月期の連結営業利益は前期比65.4%増の380億円へ反発し、2022年2月期494億円、2023年2月期533億円、2024年2月期553億円と4期続けて増収増益を重ねて、2017年2月期の過去最高益を上回った。原点回帰を終えた2025年2月期には、連結売上高6,654億円・営業利益592億円・純利益419億円と全項目で過去最高を更新し、旧記録を売上でおよそ18%、営業利益でおよそ21%上回った[13][14]

販路と商品の組み替えも成果に結びついた。EC売上高は2020年度の41億円から2024年度の129億円へおよそ3倍に伸び、PBの比率は24.3%、共同開発ブランドの比率は8.4%まで高まった。危機の入口で薄めた品揃えを元へ戻し、商品と販路を鍛え直した3年で、しまむらは長い低迷を抜けた。鈴木社長は、原点回帰を果たした土台のうえで2024年4月に中期経営計画2027「ネクスト・チャレンジ」を掲げ、抑えていた出店を再び増やす量的な成長へ舵を戻した[15][16]

出典・参考