斉藤恭彦氏が社長就任(2016年・信越化学工業の決断)

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信越化学工業:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)

何をなぜ決めたか:金川千尋氏からシンテック社長を経ての、二段階での承継

概要
概要

1990年8月から19年10か月にわたり社長を務めた金川千尋氏が、2010年6月に社長職を森俊三氏へ譲って代表取締役会長となり、その半年後には自らが1978年3月から握っていた米国子会社シンテックの社長職を斉藤恭彦氏へ渡し、2016年6月に斉藤恭彦氏を本社の代表取締役社長に据えた二段階の承継。

背景
背景

社長を選ぶ仕組みは置かれていなかった。監査役会設置会社として指名委員会を設けず、社外取締役等で構成する役員報酬委員会が扱うのは役員報酬の審査・評価だけで、取締役・監査役候補者の指名を諮問する体制が整うのは2024年度に入ってからである。2010年6月に会長へ就任した時点で金川千尋氏は84歳。塩化ビニール樹脂と半導体シリコンウエハで世界首位に立った高収益は、一人の判断に依存していた。

内容
内容

本社の社長職は信越エンジニアリングと武生工場を経た森俊三氏へ渡す一方、後継候補を試す場所は米国に置いた。斉藤恭彦氏は1998年3月にシリカプロダクツINC.、2004年4月にシンエツハンドウタイアメリカInc.の取締役社長を兼ね、2011年1月にシンテックINC.の取締役社長となって五年五か月を経てから本社の社長に就任している。金川千尋氏自身が1978年3月のシンテック社長就任から12年5か月で本社社長になった道筋を、そのままなぞるものであった。

沿革:意思決定前後の出来事8件
考察:席を空けるという試し方
考察

考察:席を空けるという試し方

金川千尋氏が後継者に与えたのは教えではなく、席であった。1978年3月から握り続けた米国子会社シンテックの社長職を2011年1月に空け、そこへ斉藤恭彦氏を座らせている。本社の社長を森俊三氏へ渡した半年後という順序が、どちらを本命の持ち場とみていたかを示している。指名委員会は置かれず、社外取締役等で構成する委員会が扱うのは役員報酬の審査・評価だけで、誰を次に据えるかを諮る仕組みはなかった。教育ではなく持ち場での選別に経営資源を集中したこの承継が用意した試験は、自らが12年5か月かけて通った道を、候補にもう一度歩かせることであった。

もっとも、この型は繰り返しにくい。斉藤恭彦氏は社長就任から九年を経てなおシンテックの社長を兼ねており、次の後継者を試す席は空いていない。金川千尋氏の側も代表取締役会長の座を保ったまま96歳で逝去し、取締役の個人別固定報酬額を決める権限は取締役会から委任されたままであった。資本配分のほうは引き継がれ、自己株式の取得は交代後に水準が一段上がっている。引き継がれなかったのは席の空け方だけである。自分が通った道を後継者に歩ませる承継は、その経営者が長く在り続けられることを前提にしていると思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

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数値:意思決定前後の事業数値2件

信越化学工業:業績の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)
信越化学工業:業績の推移
(百万円)売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純利益備考
2012年3月期1,047,731149,632100,643
2013年3月期1,025,409157,043105,714
2014年3月期1,165,819173,809113,617
2015年3月期1,255,543185,329128,606
2016年3月期1,279,807208,525148,840森俊三氏の社長在任の最終期。2016年6月に斉藤恭彦氏へ交代した
2017年3月期1,237,405238,617175,912斉藤恭彦氏の社長就任後の初通期。売上高は減少したが営業利益は増加した
2018年3月期1,441,432336,822266,235
2019年3月期1,594,036403,705309,125
2020年3月期1,543,525406,041314,027
2021年3月期1,496,906392,213293,732
2022年3月期2,074,428676,322500,117
出所:信越化学工業 有価証券報告書 第135期・第137期・第139期・第140期・第141期・第143期・第145期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)
出所:信越化学工業 有価証券報告書 第135期・第137期・第139期・第140期・第141期・第143期・第145期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)

信越化学工業:株主還元の推移

配当金の支払額(百万円)自己株式の取得による支出(百万円)
信越化学工業:株主還元の推移
(百万円)配当金の支払額自己株式の取得による支出備考
2012年3月期42,45991株当たり配当額は100円
2013年3月期42,459111株当たり配当額は100円
2014年3月期42,5051501株当たり配当額は100円
2015年3月期42,573241株当たり配当額は100円
2016年3月期44,720161株当たり配当額は110円。自己株式の取得は単元未満株の買取のみ
2017年3月期48,987191株当たり配当額は120円。取締役会決議による自己株式の取得はない
2018年3月期53,301301株当たり配当額は140円
2019年3月期74,65589,4751株当たり配当額は200円。2019年3月12日に上限1,000億円の取得を決議
2020年3月期87,41010,5661株当たり配当額は220円。前期決議分の残りを取得した
2021年3月期91,42010,6571株当たり配当額は250円
2022年3月期120,4815,9541株当たり配当額は400円。2021年8月17日決議分を59億2千5百万円取得
出所:信越化学工業 有価証券報告書 第135期・第137期・第139期・第141期・第143期・第145期(連結キャッシュ・フロー計算書) / 信越化学工業 有価証券報告書 第139期・第140期・第145期(提出会社の経営指標等)
出所:信越化学工業 有価証券報告書 第135期・第137期・第139期・第141期・第143期・第145期(連結キャッシュ・フロー計算書) / 信越化学工業 有価証券報告書 第139期・第140期・第145期(提出会社の経営指標等)
承継の経緯と体制

承継の経緯と体制

承継の経緯と体制
科目概要備考
前任者の社長在任期間1990年8月〜2010年6月の19年10か月金川千尋氏。退任後は代表取締役会長となり、2023年1月1日の逝去まで在任した
社長交代の第一段2010年6月・森俊三氏が代表取締役社長に就任就任前は代表取締役副社長。2016年6月に社長を退き取締役相談役となった
シンテック社長の交代2011年1月・斉藤恭彦氏が取締役社長に就任金川千尋氏が1978年3月から務めた職。同氏は同社の取締役会長へ移った
社長交代の第二段2016年6月・斉藤恭彦氏が代表取締役社長に就任就任前は代表取締役副社長。シンテックINC.の取締役社長は兼務のまま
新社長の在米子会社歴米国子会社3社の取締役社長を兼務1998年3月シリカプロダクツINC.、2004年4月シンエツハンドウタイアメリカInc.
指名委員会設置なし社外取締役等で構成する役員報酬委員会が担うのは役員報酬の審査・評価のみ
取締役の任期2年斉藤恭彦氏の社長就任時の任期は2015年6月26日の定時株主総会終結から2年間
交代時点の取締役会取締役23名・うち社外取締役4名監査役は5名でうち社外3名。2016年6月30日現在の監査役会設置会社
報酬決定権限の所在取締役会議長である代表取締役会長へ委任金川千尋氏が取締役の個人別固定報酬額を決定。2023年4月27日に方針を改訂
交代後の取締役会取締役9名・うち社外取締役5名2023年6月30日現在。森俊三氏は同年6月29日の総会終結で取締役を退任
出所:信越化学工業 有価証券報告書 第133期(2010年3月期)・第139期(2016年3月期)・第146期(2023年3月期)・第148期(2025年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
出所:信越化学工業 有価証券報告書 第133期(2010年3月期)・第139期(2016年3月期)・第146期(2023年3月期)・第148期(2025年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
人物:意思決定前後の取締役19名

取締役19名(2016年6月株主総会決議)

役員名役職
取締役業務執行担当領域
秋谷文男取締役:代表取締役業務執行:取締役会議長担当:半導体事業・技術関係担当
斉藤恭彦取締役:代表取締役業務執行:社長担当:
笠原俊幸取締役:取締役業務執行:担当:社長室関係担当、経理部長
宮島正紀取締役:取締役業務執行:常務担当:精密材料事業関係担当、塩ビ事業本部長
荒井文男取締役:取締役業務執行:常務担当:有機合成事業部長
轟正彦取締役:取締役業務執行:専務執行役員担当:半導体部関係担当
秋本俊哉取締役:取締役業務執行:常務担当:秘書室・広報・法務・資材関係担当、デジタル推進室長
松井幸博取締役:取締役業務執行:常務担当:特許関係担当、電子材料事業本部長
森俊三取締役:取締役業務執行:相談役担当:
石原俊信取締役:取締役業務執行:専務担当:新機能材料事業・新規製品関係担当
福井俊彦金融取締役:取締役業務執行:担当:
髙杉晃司取締役:取締役業務執行:常務担当:国際事業・資材関係担当
丸山和政取締役:取締役業務執行:担当:新機能材料事業部長
上野進取締役:取締役業務執行:専務執行役員担当:シリコーン事業本部長
塩原利夫取締役:取締役業務執行:担当:研究開発関係担当、電子材料事業本部副本部長、有機材料関係担当
池上健司取締役:取締役業務執行:常務担当:総務・人事・業務監査関係担当
安岡快取締役:取締役業務執行:担当:国際事業本部長
髙橋義光取締役:取締役業務執行:担当:環境保安関係担当、企業開発部長
小宮山宏学者取締役:取締役業務執行:担当:
この一覧は2016年6月の定時株主総会の直後に提出された有価証券報告書の【役員の状況】による。
参考文献

参考文献

参考

  • 信越化学工業 有価証券報告書「第133期(2010年3月期)【役員の状況】」
  • 信越化学工業 有価証券報告書「第139期(2016年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 信越化学工業 有価証券報告書「第143期(2020年3月期)【自己株式の取得等の状況】」
  • 信越化学工業 有価証券報告書「第146期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 信越化学工業 有価証券報告書「第148期(2025年3月期)【役員の状況】」

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