「リニューアル・ニッケ130(RN130)」ビジョン策定と富田一弥社長就任

800億円台まで落ち込んだ売上をどう立て直し、創業130周年に向けた次の10年をどう描くか

更新:

時期 2016年11月
意思決定者 富田一弥 日本毛織 社長、2016年就任
論点 中長期成長戦略の策定と4事業区分への再編
概要
2016年、日本毛織は創業130周年を迎える2026年に向けた10ヵ年計画「リニューアル・ニッケ130(RN130)ビジョン」を策定した。同年に社長へ就任した富田一弥氏が主導し、事業を衣料繊維・産業機材・人とみらい開発・生活流通の4区分に再編して成長戦略の土台とした。
背景
2009年度に始動した前身の「NN120ビジョン」は、リーマン・ショック後に800億円台へ落ち込んだ連結売上高を6期連続増収増益で1,000億円台へ回復させていた。この回復基調のうえで、佐藤光由社長から富田一弥氏への交代という節目に合わせ、次の10年を見据えたビジョンの再構築が図られた。
内容
RN130ビジョンは4事業区分への再編、減配しない安定配当方針、自己株式取得を含む株主還元の充実を打ち出した。第1次中計(2017-19)でエミー・AQUA買収による産業機材バリューチェーン拡張、第2次中計(2021-23)で4基本戦略に基づく事業部内シナジー創出、第3次中計(2024-26)で成長投資500億円枠を掲げ、段階的にM&Aを積み重ねた。
含意
単発の意思決定ではなく10年がかりの面的な戦略として、連結売上高は2010年代半ばの1,000億円規模から2020年代半ばには1,200億円規模へと拡大した。2026年の最終年度を控え、次代の柱として構想されたメディカル事業がどこまで育つかが、このビジョンの到達点を左右する。
筆者の見解

10年がかりの戦略をどう評価するか

RN130ビジョンの特徴は、単発の決断ではなく、10年という時間の幅そのものを設計に組み込んだ点にある。前身のNN120ビジョンがリーマン後の再建という守りの計画であったのに対し、RN130ビジョンは4事業区分への再編を土台に、第1次から第3次までの中期経営計画を通じて段階的にM&Aを積み重ねる攻めの計画として設計された。富田一弥氏が語った「規律」という言葉は、拡大そのものよりも、拡大の仕方を制御しようとする経営観の表れとみることができる。

ただし、10ヵ年計画である以上、その全体像を一時点で評価し切ることには限界がある。2026年度という最終年度を控えたいまも、成長投資枠の消化や自己株式取得は調整が続いており、次代の柱として構想されるメディカル事業も、実績として積み上がるのはこれからである。創業130周年という節目に向けて描かれたこの戦略が、次の10年に何を残すかは、なお進行中の問いとして残されているといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

NN120ビジョンとリーマン・ショック後の回復

日本毛織は2009年度、創立120周年(2016年度)に向けた中長期ビジョン「NN120ビジョン」を始動させた。策定時点で1,000億円を超えていた連結売上高は、リーマン・ショックの影響でいったん800億円台まで落ち込んだ。「繊維」「非繊維」の区分をなくし全事業を「本業」と位置付ける方針のもと、地道な増収増益を積み重ねる再建が進められた[1]

この地道な積み重ねは、6期連続の増収増益として結実し、連結売上高は再び1,000億円台を回復した。RN130ビジョンが策定された2016年11月期の連結売上高は1,009億円、経常利益は76億円という水準で、NN120ビジョンによる再建が一巡した直後の姿であった。次のビジョンは、この回復を土台にして描かれることになる[2]

佐藤光由から富田一弥への社長交代

NN120ビジョンの総括を担った佐藤光由社長(第13代、2009-2016年)から富田一弥氏(第14代)へ社長が交代したのは、2016年1月であった。歴代社長の在任表をたどると、日本毛織の社長交代は業績の転換点と重なることが多く、今回もリーマン後の再建が一段落した節目での交代となった[3]

就任の人事は日刊工業新聞・日本経済新聞ともに同日に報じており、繊維専業から多角化を進めてきた日本毛織の経営が、創業130周年という節目を見据える新しい経営体制へ移ったことを示す出来事であった。次の10ヵ年をどう描くかは、就任直後の富田一弥新社長に委ねられた課題となった[4]

決断

RN130ビジョン策定と4事業区分への再編

富田一弥社長は2016年、創業130周年を迎える2026年に向けた10ヵ年計画「リニューアル・ニッケ130(RN130)ビジョン」を策定した。ニッケグループの統合報告書は、この策定の経緯と、事業別中長期成長戦略として衣料繊維・産業機材・人とみらい開発・生活流通の4事業区分を初めて体系的に提示したビジョンだったと位置付けている[5]

翌2017年度からの第1次中期経営計画(2017-19)では、RN130ビジョンの初開示にあわせて4事業区分への再編とシナジー創出を掲げた。あわせて、減配しない安定配当方針と、自己株式取得を含む総合的な株主還元の充実方針を打ち出し、成長戦略と株主還元を両輪で進める方針を打ち出した[6]

段階的なM&Aと「規律」を語る富田一弥氏

第1次中計期には、産業機材バリューチェーン拡張を狙ったM&Aが相次いだ。2017年10月に産業用資材・機器貿易商社の株式会社エミーを、2018年3月に家具・インテリア通販サイト運営の株式会社AQUAを子会社化し、既存の繊維・不動産事業に加えて新たな成長ドライバーを取り込んだ。2017年から2018年にかけて、RN130ビジョンは抽象的な方針から具体的な買収案件へと姿を変えていった[7]

富田一弥氏自身は、M&Aの積み重ねを振り返って「規律」という言葉を用いている。第1次中計から第2次中計にかけて多数の買収・資本業務提携を実行しながらも、案件を選別してきたという自己評価であり、量を追うだけの拡大路線ではないという認識をにじませていた[8]

結果

段階的な変革と連結業績の趨勢的拡大

第1次中計は目標を上回って完了した。FY19(2019年11月期)の連結売上高は1,264億円、営業利益は104億円、経常利益は111億円に達し、中計目標だった売上高1,200億円・営業利益90億円を上回った。第2次中計(2021-23)では成長事業拡大・グローバル拡大・資本効率改善・事業部内再編シナジーの4基本戦略を掲げ、フジコーの完全子会社化など不織布分野を中心にM&Aを継続した。2023年12月にはアンビックとフジコーの不織布・フェルト事業を統合してF&Aノンウーブンズを発足させ、産業機材事業の生産体制を一段と集約した[9]

2020年代を通じて連結業績の拡大は持続した。FY20(2020年11月期)の連結売上高1,049億円から、FY25(2025年11月期)には1,193億円へと5年間で約13%拡大し、経常利益は過去最高圏で推移した。産業機材事業の売上高はFY19の257億円からFY25には351億円へ伸び、日本経済新聞は不織布分野での一連のM&Aを、縮小する市場であえてシェアを積み上げる「逆張り」の拡大戦略として報じている[10][11]

進行中の第3次中計と創業130周年への到達

2024年度に始まった第3次中期経営計画(2024-26)は、RN130ビジョンの最終フェーズにあたる。成長投資500億円枠を掲げ、2025年10月には鉄道インフラ機器を手がける株式会社カコテクノスを子会社化するなど、産業機材バリューチェーンの拡張を継続している。2026年1月発表のFY26決算では、成長投資枠500億円に対し約430億円の見通しを示し、差分の70億円を自己株式取得(200万株・上限40億円)に充てる方針を打ち出した[12]

累進配当とDOE2.5%目標は前倒しで達成され、2025年度の配当は47円(2円増配)を予定するに至った。もっとも、RN130ビジョンが対象とする2026年度はまだ終わっておらず、10ヵ年計画としての最終的な到達点は確定していない。第3次中計で育成中のメディカル事業が「第5の柱」として100億円規模へ育つかどうかも、現時点では構想の段階にとどまっている[13]

出典・参考