HOYA 池田英一郎氏への承継 21年続いた長期政権の終幕と、次の世代への経営の引き渡し

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時期 2021年12月
当時の社長 鈴木洋
論点 経営体制と事業承継
何をなぜ決めたか
概要

2022年3月1日、HOYAの代表執行役CEOが鈴木洋氏から池田英一郎氏へ交代した。鈴木洋氏は2000年6月の社長就任から21年8か月にわたりトップを務め、業績も株価も高い時期に自ら退いた。後任は外部からの登用ではなく、執行役CTOを務めていた生え抜きである。池田英一郎氏自身も 『CEOが交代するとすれば、社内ではなく社外から選ぶだろうと漠然と思っていましたので、指名委員会より打診をいただいたときには、大変驚いたというのが率直な感想でした』 と、指名委員会からの打診に驚いたことを明かしている。

背景

鈴木洋氏は、成長が見込めない事業を縮小し、成長分野へ人材と資本を移す資本配分の規律を敷いた。交代直前の2021年3月期は、売上収益5,479億円に対して当期利益が1,252億円。利益は売上の22.9%に達し、製造業として際立って高い収益性を示した。就任当初にあった世襲への批判を、この収益性を築くことで退け、長く求心力を保った経営者だった。

内容

指名委員会等設置会社であるHOYAで後継の指名にあたったのは、社外取締役5名と鈴木洋氏で構成する指名委員会である。委員長を務めた筆頭独立社外取締役の浦野光人氏は、 『池田さんの多岐にわたる事業分野での見識と実績が決め手となりました』 と選任の理由を挙げた。

池田英一郎氏は1992年に入社し、2010年に自ら率いた磁気記録媒体事業の売却を完遂、2013年6月から情報・通信担当COO、2020年3月から執行役CTOを務めた。鈴木洋氏は交代と同じ日に取締役へ退き、2022年6月28日の定時株主総会の終結をもって取締役も退任した。

含意

新CEOが掲げたのは、 『なかでも次の10~20年において成長をけん引する事業をポートフォリオに加えていくことが、私の最大の使命だと考えています』 という務めである。数字で判断するという考え方は変えず、M&Aの対象をライフケア偏重から情報・通信へも広げる方針を示した。

資本配分の規律も引き継がれた。自社株買いと配当を総還元額で捉える方針は変わらず、承継の期に1,061億円だった総還元額は、2026年3月期には2,716億円まで積み上がっている。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

カリスマ経営の「次」をどう設計するか

この承継の特徴は、財務の危機に迫られてではなく、業績も株価も高い時期に、長期政権のトップが自ら退く決断を下した点にある。鈴木洋氏は、ROEと資本配分の規律で製造業として際立つ高収益企業を築いた創業家の経営者だった。その鈴木洋氏が、外部から後継者を招くのではなく、技術部門を率いてきた生え抜きのCTOへ経営を承継した。指名委員会から打診された本人が驚いたというのだから、社内でも予期されていなかったのだろう。

もっとも、承継で真に問われるのは、人ではなく規律を継げるかどうかである。鈴木洋氏の高収益は、成長の見込めない事業を縮小し、成長分野へ資本を移す資本配分の徹底に支えられていた。池田英一郎氏はその規律を事業ポートフォリオの入替という形で引き継ぎ、承継から4年で売上収益は9,477億円へ、総還元額は2,716億円へ伸びた。数字のうえでは規律は続いている。ただしそれが特定個人の力量によるものか、指名委員会と四半期ごとのPDCAという仕組みによるものかは、次の交代を見るまで判じられない。成功したカリスマ経営の"次"を制度として設計できたかどうかは、まだ答えの出ていない問いである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
承継の経緯と対応

承継の経緯と対応

科目 概要 備考
新CEOの就任日 2022年3月1日 同じ日に、ESGと事業開発をそれぞれ担う執行役の職を新設している
新CEO 池田英一郎氏(執行役CTOから昇格) 1992年4月入社。2013年6月に執行役情報・通信担当COO、2020年3月に執行役CTO
選任の経路 指名委員会による内部登用 打診を受けた本人は、交代があるなら社外から選ばれるだろうと考えていた
選任の理由 多岐にわたる事業分野での見識と実績 中長期的な成長に向けた明確な展望と道筋を示したことも理由に挙げられた
前CEOの在任 2000年6月〜2022年2月 2000年6月に代表取締役社長、2003年6月に取締役・代表執行役CEO
前CEOのその後 2022年3月に取締役、6月に退任 2022年6月28日の定時株主総会の終結をもって取締役を退任した
指名委員会の構成(交代時) 社外取締役5名と鈴木洋氏の6名 委員長は筆頭独立社外取締役の浦野光人氏。報酬委員会・監査委員会も同じ6名
指名委員会の構成(2022年6月以降) 社外取締役6名 前CEOは委員から外れた。3委員会はいずれも同じ6名で構成される
取締役会の構成(2022年6月以降) 社内2名・社外6名の8名 うち女性取締役は2名。取締役の任期は選任後1年以内の定時株主総会終結時まで
統治の形態 指名委員会等設置会社 2003年の会社法改正と同時に移行し、取締役会の過半数を社外取締役としている

出所:HOYA 有価証券報告書 第84期(2022年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの概要】 / HOYA 統合報告書2022 CEOインタビュー・社外取締役インタビュー

業績の推移

HOYA:業績の推移

(百万円) 売上収益税引前当期利益当期利益 備考
2017年3月期 478,927110,79586,852 第79期から第83期までは継続事業ベースの売上収益・税引前当期利益
2018年3月期 535,612124,24899,222
2019年3月期 565,810144,657122,072
2020年3月期 576,546147,268114,587
2021年3月期 547,921159,218125,221 交代の直前期。当期利益は売上収益の22.9%にあたる
2022年3月期 661,466210,706165,322 池田英一郎氏の就任は期末の3月1日で、業績はほぼ前体制のもの
2023年3月期 723,582215,832168,788
2024年3月期 762,610236,564182,566
2025年3月期 866,032259,965201,750
2026年3月期 947,749327,668251,451
売上収益と当期利益率
売上収益(百万円)当期利益率(%)

出所:HOYA 有価証券報告書 第83期・第88期【主要な経営指標等の推移】(連結経営指標等)

株主還元の推移

HOYA:株主還元の推移

(百万円) 配当金の総額自己株式の取得 備考
2017年3月期 29,09835,007 配当金の総額は各期に係る中間配当と期末配当の合計。自己株式はCFの支出額
2018年3月期 28,63755,034
2019年3月期 34,1852 自己株式の取得はほぼなく、翌期に442億円の取得へ戻している
2020年3月期 33,84144,283
2021年3月期 33,48576,675
2022年3月期 40,33465,764 期末配当を45円から65円へ増額。総還元額は1,061億円
2023年3月期 39,099153,973 600億円の取得を2月から3月に実施し、追加で上限600億円を決議した
2024年3月期 38,58156,052
2025年3月期 55,074150,012 期末配当を65円から115円へ増額
2026年3月期 99,582171,970 配当性向40%目安の累進配当を新たに策定。中間125円・期末170円
配当と自己株式取得
配当金の総額(百万円)自己株式の取得(百万円)

出所:HOYA 有価証券報告書 第79期〜第88期【配当政策】(当連結会計年度に係る剰余金の配当)・連結キャッシュ・フロー計算書(自己株式の取得による支出)

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参考文献
出典・参考

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