コーエーテクモホールディングス 襟川陽一氏の社長退任と鯉沼久史氏への継承 襟川夫妻が15年かけて仕込んだ引き継ぎの仕上がり

更新:

時期 2025年2月
当時の社長 鯉沼久史
論点 創業家からプロパー経営者への権限移譲と、本業・資産運用のガバナンス分離
何をなぜ決めたか
概要

2025年6月19日、第16回定時株主総会とその終了後に開かれた取締役会で、代表取締役副社長だった鯉沼久史氏が代表取締役社長執行役員CEOに就任した。創業者の襟川陽一氏は代表取締役社長から代表取締役会長 兼 取締役会議長へ移り、業務執行から一定の距離を置いて監督にあたる。代表取締役会長だった襟川恵子氏は取締役名誉会長となり、2013年から続いた襟川夫妻のトップ体制は12年で終わった。

背景

鯉沼久史氏は1994年にコーエー(現コーエーテクモゲームス)へ新卒で入社したプログラマーで、『決戦』のリードプログラマー、『戦国無双』のプロデューサーを経て、2006年に34歳で執行役員、2015年4月に事業会社コーエーテクモゲームスの代表取締役社長となった。持株会社では2018年4月に代表取締役副社長へ就任し、2025年4月には事業会社のCEOを兼ねている。襟川陽一社長は 『これまで段階的に取り組んできた、次世代経営層への移行は完了となります』 と、段階を踏んできた移行の区切りを認めている。

内容

同じ総会で取締役会も組み替わった。社外取締役1名と社外監査役1名を新たに選び、取締役11名のうち社外取締役は6名と過半数になり、社外取締役比率は41.6%から54.5%へ、女性役員比率は18.8%から33.3%へ上がった。独立社外取締役が過半数を占めたことで、それまで置いていた特別委員会は同日付で廃止された。指名報酬委員会は独立社外取締役の小林宏氏を委員長とする8名で、取締役会の諮問を受けて取締役・執行役員の指名と報酬を審議し、取締役会へ答申・提案する。

含意

交代と並行して、資産運用の置き場も動いた。2025年2月7日にコーエーテクモコーポレートファイナンスを設立し、4月にはコーエーテクモゲームスが持っていた有価証券等の運用に関する権利義務を吸収分割で承継させ、グループ各社に分散していた運用を1社へ集めた。襟川恵子氏はこの会社の代表取締役社長を務める。

営業外収支はこの持株会社の稼ぎどころで、2026年3月期の経常利益570億円は営業利益371億円の1.5倍にあたる。本業の指揮は生え抜きへ、資産運用は専業子会社へと、担い手が分かれた。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

創業家が手放したものと、抱えたもの

この交代の核心は、創業家が血縁ではなく開発現場を知る生え抜きへ本業を託した点にあるのだろう。鯉沼久史氏はプログラマーとして入社し、作品の現場から事業会社の社長まで積み上げてきた人物で、創業者の長女である襟川芽衣氏は常務取締役にとどまっている。同時に取締役会は社外が過半数となり、創業者は代表権を持ったまま議長として監督の側へ回った。執行を生え抜きに、監督を創業者と社外取締役に振り分けたこの設計は、同族企業が世代交代でもっとも迷う「創業者をどこへ置くか」に、退任ではなく役割の組み替えで答えたものだと思われる。

もっとも、創業家が手放したのは本業の執行であって、資産運用ではない。各社に散っていた運用は新設の専業子会社へ集められ、その代表取締役社長には襟川恵子氏が就任した。営業利益の5割を超える額を営業外で稼ぐこの会社にとって、そこは利益の源泉のひとつであり、ガバナンス強化として説明された集約は、同時に創業家の得意分野を一箇所に残す配置でもある。生え抜きの社長が担うのはエンタテインメント事業の成長のほうで、第4次中期経営計画の3年で本業をどこまで伸ばせるかが、この分業の当否を決めることになるだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
交代の経緯と対応

交代の経緯と対応

科目 概要 備考
新経営体制の公表 2025年5月1日 2025年3月期の決算説明会で、現役職と新役職を並べた移行表を示している
就任日 2025年6月19日 第16回定時株主総会と、その終了後に開催された取締役会で正式に決定した
新社長の役職 代表取締役社長執行役員CEO 業務執行の最高責任者として置かれる役職。就任前は代表取締役副社長
新社長の経歴 1994年入社の生え抜き 2015年4月からコーエーテクモゲームス代表取締役社長。2025年4月にCEOを兼ねた
前任者の新しい役職 代表取締役会長 兼 取締役会議長 襟川陽一氏は業務執行から一定の距離を置き、議長として経営の監督に注力する
前会長の新しい役職 取締役名誉会長 襟川恵子氏は2025年2月にコーエーテクモコーポレートファイナンス社長へ就任した
資産運用の分離 2025年2月7日 同社を設立し、4月に有価証券等の運用に関する権利義務を吸収分割で承継させた
指名報酬委員会 8名(うち社外取締役6名) 委員長は独立社外取締役の小林宏氏。取締役会の諮問を受け、答申・提案する
最高経営責任者の後継者計画 有価証券報告書に記載なし 開示されるのは指名報酬委員会の構成と活動状況までで、後継者計画の記述はない
取締役の任期 1年 2025年6月19日の総会から2026年3月期に係る定時株主総会終結の時まで
交代後の取締役会 11名(うち社外取締役6名) 社外取締役比率は41.6%から54.5%へ。定款が定める取締役の員数の上限は15名
交代後の女性役員比率 33.3% 役員15名のうち女性5名。18.8%から上がった
機関設計 監査役会設置会社 指名委員会等設置会社ではない。監査役4名のうち3名が社外監査役
特別委員会の廃止 2025年6月19日 取締役会で独立社外取締役が過半数を占めたことに伴い廃止した

出所:コーエーテクモホールディングス 有価証券報告書 第16期(2025年3月期)【沿革】【コーポレート・ガバナンスの状況等】【役員の状況】/2025年3月期決算説明会資料

取締役会と監査役会の構成の推移

コーエーテクモホールディングス:取締役会と監査役会の構成の推移

(名) 取締役うち社外取締役監査役うち社外監査役 備考
2021年12月 12442
2022年2月 12442
2022年6月 13542
2022年7月 13542
2022年10月 13542
2022年12月 13542 指名報酬委員会の委員長が社内取締役から社外取締役に替わった
2023年6月 12542
2023年9月 12542
2024年1月 12542
2024年5月 12542
2024年9月 12542 襟川夫妻が代表取締役社長・代表取締役会長を務めた最後の体制
2025年5月 11643 社外取締役1名と社外監査役1名を新たに選び、社外取締役が過半数になった
2026年5月 11643
取締役の人数と社外取締役の比率
取締役(名)うち社外取締役率(%)

出所:コーエーテクモホールディングス コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2021年12月20日〜2026年5月28日の各届出) / コーエーテクモホールディングス 有価証券報告書 第16期(2025年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】

売上高と利益の推移

コーエーテクモホールディングス:売上高と利益の推移

(百万円) 売上高営業利益経常利益 備考
2021年3月期 60,37024,39739,299
2022年3月期 72,75934,52748,696
2023年3月期 78,41739,13339,899 営業外費用がふくらみ、経常利益が営業利益をほとんど上回らなかった期
2024年3月期 84,58428,49445,741
2025年3月期 83,15032,11949,988 襟川陽一氏が期末まで代表取締役社長を務めた最後の通期
2026年3月期 88,39337,16857,000 鯉沼久史氏の就任期。売上高・営業利益・経常利益がそろって最高を更新
営業利益と営業外で得た損益
営業利益(百万円)営業外で得た損益(百万円)営業利益率(%)

出所:コーエーテクモホールディングス 有価証券報告書 第12〜17期(連結損益計算書)

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参考文献
出典・参考

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