ファーストリテイリング 玉塚元一氏が社長就任 柳井正氏の社長退任と経営の世代交代

更新:

時期 2002年11月
当時の社長 柳井正
論点 創業者への依存からの脱却と世代交代
何をなぜ決めたか
概要

2002年11月、ファーストリテイリング創業者の柳井正社長が53歳で社長を退任して代表取締役会長へ回り、40歳の玉塚元一氏を代表取締役社長へ登用した。柳井正氏が1984年9月から18年握った社長の座であった。フリースブームの反動で減益に沈むなかでの世代交代であり、副社長の澤田貴司氏が本命と見られた末の人事でもあった。カリスマ創業者への依存から脱する"脱カリスマ経営"への挑戦だった。

背景

フリースの大ヒットで2000年8月期に過去最高益を記録した後、ブームの反動で業績は減益へ転じた。

内容

柳井正氏は好調の記憶が濃い時期ではなく減益のなかで、旭硝子と日本アイ・ビー・エムを経て1998年12月に入社した玉塚元一氏へ社長を譲り、自らは代表取締役会長として経営者・幹部の育成に回った。入社から4年、40歳での登用である。玉塚元一氏は女性向け商品の強化や"ユニクロデザイン研究室"の設置など、原点に戻す立て直しを進めた。

含意

玉塚元一社長のもとで2003年後半から既存店売上高は回復したが、"脱カリスマ"は長続きしなかった。守成にメドがついた2005年、柳井氏が会長兼社長CEOとして経営に復帰し、持株会社体制へ移行して、結局は創業者が再び社長を兼ねる一頭体制へ戻った。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

好調な創業者が試した「自分がいなくても回る経営」

この意思決定の核心は、事業の失敗を若手に押しつける後始末の人事ではなく、成功した創業者が自らの求心力への依存を解こうとした点にある。柳井正氏は、ユニクロを一代で築いた強い創業者であるがゆえに、その強さが会社を創業者個人へ縛る弱さでもあると見ていた。減益という逆風のなかで40歳の玉塚元一氏へ社長を譲り、自らは代表取締役会長として次代の経営者育成に回った選択は、日本電子の風戸健二氏が好調のさなかに合議制へ踏み込んだ判断と同じく、成功者があえて自己否定に踏み込む性格を帯びる。

もっとも、この"脱カリスマ"は制度として根づかなかった。玉塚元一社長の3年で既存店は回復し守成にメドはついたが、世界で戦う攻めの経営を前に、柳井氏は2005年に自ら社長へ復帰し、以後は会長兼社長の一頭体制が続いた。世代交代論を唱えた当人が再び前面へ立たざるを得なかった事実は、カリスマ創業者からの脱却の難しさを示している。好調な企業ほど創業者への依存を弱さと自覚しにくいなかで、失敗も含めて次に生かす経営を若い社長と試みた2002年の選択は、つまずきの時こそ承継を動かせることを示している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
交代の経緯

交代の経緯

科目 概要 備考
交代 2002年11月 第41期定時株主総会の後。有価証券報告書の提出は2002年11月25日
新社長 玉塚元一氏(40歳) 1962年5月23日生まれ。代表取締役社長に就任した
前社長 柳井正氏(53歳) 1949年2月7日生まれ。1984年9月から18年務め、代表取締役会長へ回った
玉塚元一氏の入社 1998年12月 旭硝子と日本アイ・ビー・エムを経て入社し、4年で社長になった
直前の役職 取締役副社長 2002年6月就任。同年8月まで英国子会社の取締役会長兼最高経営責任者を兼ねた
玉塚元一氏の持株 4千株 柳井正氏は28,297千株。所有では創業者が圧倒的な差を保った
この期の業績 単体で減収減益 売上高は4,185億円から3,416億円、経常利益は1,032億円から547億円へ

出所:ファーストリテイリング 有価証券報告書 第41期(2002年8月期・2002年11月25日提出)【役員の状況】【主要な経営指標等の推移】

業績の推移

ファーストリテイリング:業績の推移

(百万円) 売上高経常利益当期純利益 備考
1997年8月期 75,0205,5102,703 2001年8月期までは提出会社単体。連結財務諸表は第41期から作成している
1998年8月期 83,1206,3192,924
1999年8月期 111,08114,1656,816 11月に原宿店を出店し、フリースが売れ始めた期
2000年8月期 228,98560,48034,514 フリースブームで売上高は前期の2.1倍、経常利益は4.3倍
2001年8月期 418,561103,21759,192 ブームの頂点。経常利益1,032億円はこの後10年を超えて破られない
2002年8月期 344,17051,11027,850 11月に玉塚元一氏が社長へ。この期から連結。単体では減収減益に転じた
2003年8月期 309,78941,56920,933 減収が続き、既存店の立て直しに向かった期
2004年8月期 339,99964,18331,365 増収増益に戻る
2005年8月期 383,97358,60733,884
2006年8月期 448,81973,13840,437 2005年9月に柳井正氏が代表取締役会長兼社長へ復帰した
2007年8月期 525,20364,60431,775
売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:ファーストリテイリング 有価証券報告書 第39期・第41期・第44期・第46期【主要な経営指標等の推移】。1997〜2001年8月期は提出会社、2002年8月期以降は連結

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

プロ経営者の招聘2005年トレンドマイクロ創業者スティーブ・チャンからの社長兼CEO職の引き継ぎ創業者からの世代交代と多国籍経営体制の確立
2006年ライフコーポレーション社長職の世襲を退け、自己株式の処分と引き換えに三菱商事から後継を迎えた承継経営承継と資本構成
2009年ソニーCEOと社長を一人へ集め、エレクトロニクスとゲームを一体で動かす体制への転換経営体制の一本化と事業構造の改革
2010年太陽ホールディングス公認会計士出身のトップ登用と、持株会社制への移行による統治の組み替え経営体制と多角化
2012年ベイカレント創業者・江口新氏の退任と、経営コンサル出身者を迎えた外部登用創業者の退場と外部経営者の招聘
社長交代と後継指名2014年武田薬品工業トップの外部登用に踏み切ったグローバル経営体制への転換経営体制の国際化と承継
2015年タカラトミー創業家が執行を外部のプロ経営者へ委ね、2年7か月で引き戻した社長人事監視と執行の分離と、外部招聘トップの起用
2016年ヤマダホールディングス創業者が社長を託しては引き取る、9年におよぶ交代と復帰の反復創業者からの経営承継
2018年東芝生え抜きによる社長継承の打ち切りと、10年で5人が替わった経営トップ人事経営トップが定着しない10年
2019年ロート製薬創業家が会長として代表権を残し、執行を武田出身の社外人材へ委ねた交代経営体制と同族統治
参考文献
出典・参考
  • 日経ビジネス 2002年3月25日号(日経BP)
  • 日経ビジネス 2004年4月5日号(日経BP)
  • ファーストリテイリング 有価証券報告書「第41期(2002年8月期)【役員の状況】【沿革】」
  • ファーストリテイリング 有価証券報告書「第39期(2000年8月期)【主要な経営指標等の推移】」
  • ファーストリテイリング 有価証券報告書「第44期(2005年8月期)【主要な経営指標等の推移】」

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