この一件で目を引くのは、買収に名乗りを上げた大胆さよりも、価格を際限なく追わずに退いた引き際のほうである。1000億円の合意に100億円を上乗せして割って入りながら、最後は競り勝つことに固執しなかった。ブランドを丸ごと買うより自社の基盤になる企業を、という日ごろの言葉に照らせば、高級百貨店の争奪は方針の外への踏み込みであり、そこで無理をしなかったことに、拡大を急ぐなかの規律がうかがえる。
買わなかったことが正しかったのかは、その後の高級百貨店業界の苦境まで含めて、なお評価の分かれるところである。ただ、この撤回が示したのは、M&Aを事業領域を広げる手段と割り切りつつ、値付けには一線を引くという構えであった。仕掛けて退くという判断は、成功や失敗という物差しだけでは測りにくい。何を買い、何を買わないかを決める規律そのものが問われる例として、ファーストリテイリングの世界展開の歩みのなかに残っているとみられる。