ファーストリテイリング ファミクロ撤退と店舗別運営への転換 本部による集中管理をやめ、店舗ごとの判断に委ねる運営への切り替え
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何をなぜ決めたか
- 概要
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1998年、ファーストリテイリングは、いつ・どこに・何を・どう並べるかを本部が全店一律に決める集中管理を改め、本部の指針のもとで各店舗が在庫量と陳列を決める"個店対応"へ切り替えた。既存店売上高が前年を割り込み、新業態"ファミクロ""スポクロ"が1年で撤退した失速のなかでの転換であり、同年11月の原宿出店とフリースの浸透によって挽回へ向かう前夜にあたる。
- 背景
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『優れた商品を持っているはずなのに、売り上げが伸びない』 という壁の正体は、本部の画一的な店舗運営だった。色・サイズ別ではなく商品種類別に全店共通で商品を配分する仕組みは、店ごとの売れ行きの違いを吸収できず、売れる商品を欠品させ、売れない商品を残した。店長は 『本部の言うことを忠実に実行するロボットのような存在』 に置かれていた。
- 内容
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柳井正社長は店長の創意工夫を認める方向へ転じ、ジーンズなどから色・サイズ別の補充へ切り替え、本部と店舗を橋渡しするスーパーバイザー部を新設し、店長の評価から"本部の指示通りか"を外して売上・人件費の業績連動へ改めた。
店舗経営部は第1部から第14部までに分かれ、それぞれが担当の都道府県を分け持つ。1998年9月1日には営業本部にマーチャンダイジング部を新設して同チームを移し、貿易・物流チームを商品計画部へ移すなど、本部の機能そのものも組み替えている。
- 含意
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1995年に確立した本部主導の運営実務は、店舗数が数百に膨らむと店ごとの需要差を取りこぼす弱さへ転じた。集中管理の限界を自ら認めて店舗へ権限を戻した1998年の判断は、直後の原宿出店とフリースの大ヒットによる急伸を下支えした。
いつ何が起きたか 5件
筆者の見解
強みが裏返る前に、強みを畳んだ判断
この意思決定の核心は、不振の原因を商品や立地という"外側の箱"ではなく、本部集中管理という"内部の仕組み"に見定めた点にある。1995年に確立した本部主導の運営実務は、少ない人材で年50店を出すための合理的な仕組みだった。だが店舗数が数百に膨らむと、その強さは店ごとの需要差を取りこぼす弱さへ裏返る。柳井正氏が新業態の撤退から学んだのは、箱を増やしても内部の仕組みが古ければ売れないという因果だった。
個店対応が全店で軌道に乗ったとは言いがたく、成果は気温差の大きい沖縄・北海道に偏り、本州では効果が出ず、物流コストと人材育成の課題も残った。それでも、成功を支えてきた集中管理を好調の記憶が濃いうちに自ら畳み、店舗へ権限を戻した判断は、直後の原宿出店とフリースの大ヒットによる急伸を下支えした。1995年の完全売り切り体制と1998年の個店対応は、対立する打ち手ではなく、同じ強みが規模の拡大とともに裏返っていく一続きの過程として読める。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
体制の組み替え
体制の組み替え
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 店舗経営の体制 | 店舗経営部を14部に分ける | 第1部から第14部までが、担当する都道府県を分け持つ |
| 担当の割り方 | 都道府県の単位 | 第10部は東京都・神奈川県・北海道、第3部は福岡・山口・広島・岡山 |
| 貿易・物流チーム | 商品計画部へ移管 | 1998年9月1日付の経営組織の変更 |
| マーチャンダイジング部 | 営業本部に新設 | 1998年9月1日付。マーチャンダイジングチームを同部へ移した |
| 店舗設計・メンテナンス | 廃止しマーケティングへ | 1998年9月1日付。チームを廃し、その機能を移した |
| 直営店舗数 | 325店舗 | 1998年8月31日現在、43都道府県に展開。フランチャイズ店は11店舗 |
| 3年前の規模 | 直営167店舗 | 1995年8月31日現在、29都府県。3年で店舗数はほぼ倍になった |
| 原宿店の開業 | 1998年11月 | 首都圏初の都心型店舗として東京都渋谷区に開いた |
| この期の業績 | 売上高83,120百万円 | 経常利益6,319百万円、当期純利益2,924百万円。従業員数は950人 |
出所:ファーストリテイリング 有価証券報告書 第37期(1998年8月期)【企業の概況】【事業の内容】・第34期(1995年8月期)【事業の内容】・第41期(2002年8月期)【沿革】
業績の推移
ファーストリテイリング:業績の推移
| (百万円) | 売上高 | 経常利益 | 当期純利益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 1994年8月期 | 33,336 | 2,742 | 1,333 | 2001年8月期までは提出会社単体。連結財務諸表は第41期から作成している |
| 1995年8月期 | 48,692 | 4,530 | 2,108 | 直営167店舗、29都府県 |
| 1996年8月期 | 59,959 | 4,570 | 2,326 | 増収に対して経常利益はほぼ横ばいに止まった |
| 1997年8月期 | 75,020 | 5,510 | 2,703 | |
| 1998年8月期 | 83,120 | 6,319 | 2,924 | 直営325店舗、43都道府県。3年で店舗数はほぼ倍になった |
| 1999年8月期 | 111,081 | 14,165 | 6,816 | 9月に本部の組織を組み替え、11月に原宿店を出店した期。経常利益は2.2倍 |
| 2000年8月期 | 228,985 | 60,480 | 34,514 | 既存店の売上高は前年比167.7%、来店客数は172.2% |
| 2001年8月期 | 418,561 | 103,217 | 59,192 | |
| 2002年8月期 | 344,170 | 51,110 | 27,850 | 反動で減収減益。この期から連結の数値 |
| 2003年8月期 | 309,789 | 41,569 | 20,933 | |
| 2004年8月期 | 339,999 | 64,183 | 31,365 |
出所:ファーストリテイリング 有価証券報告書 第33期・第35期・第39期・第41期・第44期【主要な経営指標等の推移】。1994〜2001年8月期は提出会社、2002年8月期以降は連結。金額は千円表示を百万円へ改めた
同じ問いに直面した会社
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参考文献
- 日経ビジネス 1998年12月21日号(日経BP)
- 日経ビジネス 2002年3月25日号(日経BP)
- ファーストリテイリング 有価証券報告書「第37期(1998年8月期)【企業の概況】【事業の内容】」
- ファーストリテイリング 有価証券報告書「第34期(1995年8月期)【事業の内容】」
- ファーストリテイリング 有価証券報告書「第41期(2002年8月期)【沿革】」