この承継の核心は、技術で会社を設立した創業者が、あえて技術者ではなく営業出身者を後継に選んだ点にある。国産初のシンセサイザーを生んだローランドにとって、技術は誇りであり存在の根拠でもあった。その会社が減収減益に沈んだとき、梯氏が求めたのは、より優れた技術者ではなく、技術と市場のあいだをつなぐ目であった。9カ月で去った技術者の後に営業畑を据えた人事には、技術先行のままでは成熟した楽器市場を生き抜けないという創業者自身の見立てが表れていたと思われる。
もっとも、創業者が存命で会長として特化の思想を掲げ続けるなかでの承継は、後継者にとって独自色を出しにくい面も残る。檀氏に託されたのは、梯氏の特化の哲学を崩さずに、そこへ営業と市場の視点を接ぐという難しい役回りであった。創業者の思想を受け継ぐことと、外から来た目で会社を変えることは、時に相反する。両者をどう両立させるかは、その後の非創業家経営が問われ続ける課題になったといえる。