西山隆一郎氏が社長就任(2023年・西武HDの決断)

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論点 保有一体型からアセットライトへ転換するか
西武HD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
コロナ禍の純損失723億円を経た代表取締役2名体制への移行とアセットライトの継承

何をなぜ決めたか:コロナ禍の純損失723億円を経た代表取締役2名体制への移行とアセットライトの継承

概要

2021年3月期、西武ホールディングスは新型コロナウイルスの感染拡大により連結で営業損失515億87百万円、親会社株主に帰属する当期純損失723億1百万円という創業以来最大の赤字を計上した。

2023年4月1日、代表取締役を2名とする体制へ移り、後藤高志氏は代表取締役会長会長執行役員兼CEOへ、取締役常務執行役員経営企画本部長であった西山隆一郎氏が代表取締役社長社長執行役員兼COOに就任した。交代の理由に挙げたのは、先行き不透明な経営環境への適応と、グループ全体の経営体制の若返り及び専門性の強化である。

背景

鉄道とホテル・レジャーを2本柱とし、施設を自ら保有して自ら運営する一体型モデルは、需要が急減する場面で減価償却費や人件費などの固定費負担を直接受ける。2021年3月期のホテル・レジャー事業は、営業収益が前期比63.0%減の840億50百万円まで落ち、営業利益は前期の80億54百万円の黒字から534億13百万円の赤字へ転じた。都市交通・沿線事業も98億17百万円の営業損失となり、2本柱がそろって赤字に沈んだ。

内容

2021年からの中期経営計画(2021〜2023年度)は「アセットライトな事業運営」を掲げ、アセットの「保有」と「運営」の一体構造からビジネスモデルを変革する方針を打ち出していた。2022年3月31日に西武建設株式の95%をグループ外へ譲渡し、同年4月には株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイドを設立して運営機能を切り出した。

2023年3月にはGICの関係会社へザ・プリンス パークタワー東京など26物件を譲渡し、その期のホテル・レジャー事業には主にゴルフ場31件で260億39百万円の減損損失が計上された。社長交代は、この譲渡が完了した直後に重なっている。

含意

社長交代の前段には、独立社外取締役が議長を務め、独立社外取締役4名を過半数とする6名で構成された指名諮問委員会がある。同委員会は当事業年度に2回開かれ、取締役候補者の決定にあたり助言を与えた。2024年3月には構成員から社内取締役が外され、全員が独立社外取締役となっている。ただし後継者計画そのものの記載は有価証券報告書になく、代表取締役会長兼CEOが残る二層の体制のもとで、社長の選定がどこまで委員会に委ねられたかは開示から読み取れない。

いつ何が起きたか 11件
当時の取締役 11名

当時の取締役(2022年6月株主総会決議)

考察:代表取締役2名体制が担ったもの
考察

考察:代表取締役2名体制が担ったもの

後藤高志氏から西山隆一郎氏への交代は、社長の首をすげ替える人事というより、代表取締役を2名に割ってCEOとCOOの役割を分けた組織設計の変更であったのだろう。第一勧業銀行から2009年に入社し、広報部長・経営企画本部長を歩んだ西山隆一郎氏は、財務再建の専門家というよりも社内外への説明と計画の執行を担う位置にいた人物である。アセットライトという方針自体は2021年の中期経営計画で既に置かれており、新社長に渡されたのは方針の選択ではなく、その遂行であった。

もっとも、この体制が統治の前進であったかは即断できない。指名諮問委員会は独立社外取締役を過半数とし議長も社外が務めていたが、交代の時点では会長執行役員と社長執行役員が委員に入っており、社内取締役が外れたのは1年近く後の2024年3月である。後継者計画の記載は有価証券報告書になく、任期の1年への短縮が実際に信任の頻度を上げたのかも、数字には表れない。ホテル・レジャー事業の営業利益は2026年3月期に226億58百万円とコロナ前を超えたが、それが体制の成果なのか需要回復の結果なのかは、なお切り分けられていない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

西武HD:ホテル・レジャー事業の営業損益と減損損失

営業収益(百万円)営業利益率(%)
西武HD:ホテル・レジャー事業の営業損益と減損損失
(百万円) 営業収益営業利益減損損失 備考
2018年3月期 204,85417,29938
2019年3月期 219,80119,7412,251
2020年3月期 209,1538,05412,168 2020年2月以降の需要減で減益。ハワイ事業を当期からホテル・レジャー事業に統合
2021年3月期 84,050△53,4137,202 緊急事態宣言下の臨時休業で営業収益は前期比63.0%減。連結純損失は723億1百万円
2022年3月期 133,180△28,050153 2022年3月31日に西武建設株式の95%を譲渡し、建設事業が連結から外れた
2023年3月期 191,1674,90526,039 GICの関係会社へ26物件を譲渡。減損は主にゴルフ場31件。翌期の有報は組替後36,000
2024年3月期 229,26519,47715,097 新型コロナの5類移行で需要が戻り、営業利益はコロナ前の2019年3月期並みへ
2025年3月期 241,25918,6402,807
2026年3月期 250,48122,6582,952 インバウンド個人と邦人客の取り込みで営業収益は過去最高
出所:西武ホールディングス 有価証券報告書 第13〜21期(セグメント情報、報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報)
出所:西武ホールディングス 有価証券報告書 第13〜21期(セグメント情報、報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報)

西武HD:連結の営業損益と当期純損益

営業収益(百万円)営業利益率(%)
西武HD:連結の営業損益と当期純損益
(百万円) 営業収益営業利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2018年3月期 530,63164,25942,908
2019年3月期 565,93973,33245,457
2020年3月期 554,59056,8234,670
2021年3月期 337,061△51,587△72,301 創業以来最大の赤字。営業損失515億87百万円、純損失723億1百万円
2022年3月期 396,856△13,21610,623 子会社株式売却益などで最終損益は黒字に戻ったが、営業損益は2期連続の赤字
2023年3月期 428,48722,15556,753 26物件の譲渡損益などで純利益567億53百万円。減損損失は全社で370億66百万円
2024年3月期 477,59847,71126,990
2025年3月期 901,131292,735258,182 東京ガーデンテラス紀尾井町の流動化とNWコーポレーションの負ののれん発生益
2026年3月期 513,28645,52238,857 前期の流動化の反動で営業収益は43.0%減
出所:西武ホールディングス 有価証券報告書 第13〜21期(連結損益計算書)
出所:西武ホールディングス 有価証券報告書 第13〜21期(連結損益計算書)

社長交代の経緯と対応

社長交代の経緯と対応
科目 概要 備考
異動の効力発生日 2023年4月1日 代表取締役を2名とし、会長執行役員兼CEOと社長執行役員兼COOに分けた
交代の理由 経営体制の若返りと専門性の強化 先行き不透明・不安定な外部環境へ適応し、中期経営計画の遂行と新たな戦略を進めるため
後藤高志氏の新旧の役職 代表取締役社長 → 代表取締役会長会長執行役員兼CEO 西武鉄道取締役会長、西武リアルティソリューションズ取締役会長は継続
西山隆一郎氏の新旧の役職 取締役常務執行役員 → 代表取締役社長社長執行役員兼COO 経営企画本部長を継続して兼務。1987年第一勧業銀行入行、2009年10月に西武ホールディングス入社
指名委員会の関与 指名諮問委員会が取締役候補者の決定に助言 当事業年度は2回開催。独立社外取締役の後藤啓二氏が議長を務め、全委員が出席した
指名諮問委員会の構成 独立社外取締役4名を過半数とする6名 会長執行役員と社長執行役員を含む。2024年3月より社内取締役を除外し全員を独立社外取締役へ
取締役の任期 2年から1年へ短縮 2023年6月21日開催の第18回定時株主総会で定款第19条を変更した
西山隆一郎社長の任期 2024年3月期に係る定時株主総会終結の時まで 2023年3月期に係る定時株主総会終結の時からの1年
取締役会の議長 代表取締役社長 西山隆一郎氏 当事業年度の取締役会は19回開催。後藤高志氏・西山隆一郎氏とも全19回に出席した
後継者計画 有価証券報告書に記載なし 指名諮問委員会の役割は取締役候補者の決定と報酬決定への助言として示されるのみ
出所:西武ホールディングス 有価証券報告書 第18期(2023年3月期)・第19期(2024年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
出所:西武ホールディングス 有価証券報告書 第18期(2023年3月期)・第19期(2024年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
当時の取締役 11名

当時の取締役(2022年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 西武ホールディングス 有価証券報告書【沿革】
  • 西武ホールディングス 有価証券報告書「第18期(2023年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 西武ホールディングス 有価証券報告書「第19期(2024年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 西武ホールディングス 有価証券報告書「第16期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 西武ホールディングス 有価証券報告書「第18期(2023年3月期)【セグメント情報】【減損損失】」
  • 西武ホールディングス 有価証券報告書「第21期(2026年3月期)【セグメント情報】」

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