セイコーグループ 村野晃一氏の解任と服部真二氏への継承 取締役会による創業家出身・服部真二氏の社長登板

更新:

時期 2010年4月
当時の社長 服部真二
論点 創業家支配のガバナンスと経営体制
何をなぜ決めたか
概要

2010年4月30日、取締役会が代表取締役会長兼社長の村野晃一氏を解任し、代表取締役副社長の服部真二氏を社長へ昇格させた。解任の理由に挙げたのは、コーポレートガバナンスの問題と業績不振の二つである。

買収者でも外部の大株主でもなく、自社の取締役会の決議によって現職の会長兼社長が解かれた交代だった。村野晃一氏は2001年6月にセイコーの社長へ就任し、2009年6月から会長兼社長を兼ねていた。後任の服部真二氏は創業者・服部金太郎氏の系譜につらなる創業家の出身で、2009年6月から副社長を務めていた。

背景

金融危機後の売上急減で、2009年3月期は売上高1,740億円・経常損益46億円の赤字へ落ち込み、2010年3月期も経常損益19億円の赤字と、2期連続の当期純損失になった。1株当たり配当は2008年3月期の15円が2009年3月期に5円へ下がり、2010年3月期は無配。無配は2003年3月期以来7年ぶりだった。

2009年10月には持分法適用関連会社だったセイコーインスツルを株式交換で完全子会社化し、部品から完成品までを一つのグループへ統合したばかりでもあった。取締役会は2008年3月期の10名から2009年3月期には7名(うち社外取締役1名)へ縮んでいた。

内容

交代と同時に掲げたのは、コーポレートガバナンスと内部統制の再構築、老舗企業にありがちな古い企業体質からの脱却、「時が求める商品と職場」の追求の三点である。

具体策は、経営戦略会議とグループ会社社長が参加する経営協議会の常設、企業倫理委員会・リスクマネジメント委員会といった社内委員会制度の拡充、社外取締役の増員、経営に関する内部監査の充実、外部通報窓口の新設、労使懇談会の充実。取締役会は9名(うち社外取締役2名)となり、社外取締役は1名から2名へ増えた。服部真二氏の任期は、2009年3月期に係る定時株主総会で選任された取締役としての残任期をそのまま引き継いだ。

含意

新体制のもとで策定した中期経営計画は、最終年度に売上高経常利益率4%以上、借入金残高2,000億円以下、自己資本比率15%、ネットD/Eレシオ2.1以下を掲げた。2011年3月期は売上高3,138億円・経常利益65億円・当期純利益21億円となり、1株当たり2円で復配している。

ただし翌2012年3月期は当期純損失110億円を計上した。統治の立て直しが、そのまま業績の安定へ直結したわけではない。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

機関の統治と、なお残る創業家の影

この交代の眼目は、創業家出身者が社長へ戻ったことよりも、それを決めたのが取締役会の決議だったという点にあると思われる。解任の理由に並べたのは「コーポレートガバナンスの問題」と「業績不振」の二つで、前者が先に置かれている。2期連続の当期純損失と7年ぶりの無配という数字は交代の引き金ではあったが、新体制が最初に掲げたのは収益計画ではなく、経営戦略会議と経営協議会の常設、社内委員会の拡充、外部通報窓口の新設という、意思決定と牽制の仕組みだった。数字より先に統治の仕組みを直すという順序が、この判断の性格をよく示している。

もっとも、仕組みの作り替えがどこまで進んだかは慎重に見たほうがよい。社外取締役は1名から2名へ増えたものの、その後の取締役会は人数を膨らませながら、社外取締役をふたたび1名へ戻した時期がある。創業家出身の社長が統治の再構築を指揮するという形は、求心力の点では速く、牽制の点では遅い。現職トップを自社の取締役会が解いたという出発点の鋭さに比べると、そこから先の制度の積み上げは緩やかだったのではないか。創業家の求心力を機関の統治がどこまで置き換えられるのかは、この会社が長く抱えてきた課題として、なお残されているのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
経緯と対応

経緯と対応

科目 概要 備考
解任の決議日 2010年4月30日 取締役会の決議。2010年3月期の決算日以降の経営体制の刷新として扱われた
解任の理由 コーポレートガバナンスの問題と業績不振 主力ウオッチ事業の売上急落で、2期連続の当期純損失を計上していた
解任された役職 代表取締役会長兼社長 村野晃一。2001年6月に社長、2009年6月から会長兼社長を務めていた
後任の社長 代表取締役社長 服部真二 同日まで代表取締役副社長。セイコーウオッチ代表取締役社長を兼ねる
新社長の任期 2011年3月期に係る定時株主総会終結の時まで 2009年3月期に係る定時株主総会で選任された取締役としての残任期
新社長の所有株式数 11,396千株 2009年3月期の有価証券報告書の記載時点では6,101千株
交代後の取締役会 取締役9名(うち社外取締役2名) 交代前は7名(うち社外1名)。2011年3月期には10名(うち社外2名)へ
意思決定プロセスの拡充 経営戦略会議・経営協議会の常設 経営協議会にはグループ会社の社長が参加する
社内委員会制度の拡充 企業倫理委員会・リスクマネジメント委員会 企業倫理委員会は企業倫理担当取締役を委員長とし、外部専門家を非常任委員に置く
内部牽制機能の強化 外部通報窓口の新設 社外取締役の増員と、経営に関する内部監査の充実を併せて実施した
労使関係 労使懇談会の充実 健全な労使関係の確立を目指すものとして掲げた
新体制の基本方針 ガバナンスと内部統制の再構築 古い企業体質からの脱却と「時が求める商品と職場」の追求を併せて掲げた
中期経営計画の目標 売上高経常利益率4%以上 最終年度に借入金残高2,000億円以下・自己資本比率15%・ネットD/Eレシオ2.1以下

出所:セイコーホールディングス 有価証券報告書 第148期(2009年3月期)・第149期(2010年3月期)・第150期(2011年3月期)【対処すべき課題】【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況】

業績と復配の推移

セイコーグループ:業績と復配の推移

(百万円) 売上高経常利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2006年3月期 213,7268,5639,206
2007年3月期 209,1547,3869,922
2008年3月期 213,9667,2653,216 1株当たり配当は15円
2009年3月期 174,031△4,690△5,786 金融危機で売上が急減。1株当たり配当は15円から5円へ
2010年3月期 230,766△1,940△3,632 2期連続の当期純損失。2003年3月期以来7年ぶりの無配
2011年3月期 313,8816,5852,181 4月30日に経営トップが交代。1株当たり2円で復配した
2012年3月期 296,9371,280△11,014 経常利益は黒字を保ったが当期純損失を計上
2013年3月期 283,7903,2435,527
2014年3月期 308,28610,1657,422
2015年3月期 293,47212,37321,778
2016年3月期 296,70511,87912,142
売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:セイコーホールディングス 有価証券報告書 第145〜155期(連結損益計算書・配当政策)

取締役会の構成

セイコーグループ:取締役会の構成

(名) 取締役うち社外取締役 備考
2006年3月期 41
2007年3月期 41
2008年3月期 101 うち事業会社の代表取締役が5名
2009年3月期 71 うち事業会社の代表取締役が4名
2010年3月期 92 提出日(2010年6月)現在の体制。交代を受けて社外取締役が2名へ増えた
2011年3月期 102 社外取締役2名を東京証券取引所へ独立役員として届け出た
2012年3月期 102
2013年3月期 111
2014年3月期 111
2015年3月期 122
2016年3月期 132
取締役会の人数と社外取締役
社内取締役(名)うち社外取締役(名)

出所:セイコーホールディングス 有価証券報告書 第145〜155期【コーポレート・ガバナンスの状況】(各期とも提出日現在の人数)

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参考文献
出典・参考
  • セイコーホールディングス 有価証券報告書「第149期(2010年3月期)【対処すべき課題】」
  • セイコーホールディングス 有価証券報告書「第149期(2010年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況】」
  • セイコーホールディングス 有価証券報告書「第149期(2010年3月期)【役員の状況】【配当政策】」
  • セイコーホールディングス 有価証券報告書「第148期(2009年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況】」
  • セイコーホールディングス 有価証券報告書「第150期(2011年3月期)【対処すべき課題】【配当政策】」
  • セイコーホールディングス 有価証券報告書「第145期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】」

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