味の素藤江太郎氏が社長就任:3代続けて同じ現地法人の社長を選び、選定の権限を社外取締役だけの指名委員会へ移した

更新:

時期 2022年4月
当時の社長 西井孝明
論点 トップの選び方と引き継ぎ方
概要

2022年4月1日に藤江太郎氏が、2025年2月3日に中村茂雄氏が代表執行役社長最高経営責任者に就任した。いずれも2021年6月の指名委員会等設置会社への移行で設けた法定の指名委員会が、代表執行役社長の選定案を決議したうえでの交代である。

藤江太郎氏の在任は2年10か月で、期の途中での交代となった。3人の社長はいずれもブラジル味の素社の社長を務めた経験を持つ。西井孝明氏は2013年8月、藤江太郎氏は2015年6月、中村茂雄氏は2022年4月にその職に就任している。

背景

2015年6月に西井孝明氏が社長へ就任した当時、味の素は監査役会設置会社だった。取締役会は社外取締役3名を含む4名で構成する役員等指名諮問委員会の答申を受けて、取締役・執行役員等の候補者を決めていた。指名と報酬の決定に透明性と客観性を持たせるために置いた任意の委員会である。

2021年6月23日の第143回定時株主総会の決議で、機関設計は監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ変わった。監督と執行を明確に分け、取締役会から執行側への大幅な権限委譲によって意思決定を速めることが狙いだった。

内容

法定の指名委員会は、取締役の評価と再任妥当性、代表執行役社長の評価と再任妥当性、代表執行役社長の後継者育成計画を審議し、取締役の選解任方針と選解任議案、代表執行役社長の選定案を決議する。委員長は社外取締役が務める。

移行の直後は社外取締役4名と社内取締役2名の6名で構成され、当時社長だった西井孝明氏も委員に名を連ねていた。2024年6月25日の第146回定時株主総会を境に社内取締役2名が委員を退き、委員は社外取締役5名だけになる。その8か月後に中村茂雄氏の社長就任が決まった。

含意

2024年度の指名委員会は13回開かれ、決議11件のなかに代表執行役社長候補者の選定が、審議17件のなかにCEOサクセッションプランと社内取締役の評価が入っている。移行初年度の2022年度は10回、2023年度は11回で、開催の頻度は上がってきた。

前任者は職を離れたあとも一時は社内に残る。西井孝明氏は社長退任の2か月後、2022年6月23日の第144回定時株主総会で取締役を退いた。藤江太郎氏は2025年2月3日に執行役会長となり、2025年6月20日の第147回定時株主総会で取締役を退いている。

筆者の見解

誰が選ぶかが入れ替わった10年

3代続けてブラジル味の素社の社長経験者がトップに就任したことは、偶然というより、この会社が社長に何を求めているかの表れだとみられる。ブラジルは食品とバイオ&ファインケミカルの双方を抱え、為替も物価も日本とは別の速さで動く市場で、値付けも生産も現地で決めきらなければ回らない。本社の枠組みのなかで積み上げる仕事とは、求められる判断の質が違う。西井孝明氏も藤江太郎氏も中村茂雄氏も、その場所で数字に責任を負ってから戻ってきている。

もっとも、選ぶ仕組みのほうは10年のあいだに大きく変わった。2015年の交代は任意の諮問委員会の答申を受けた取締役会の決定であり、2022年の交代では社長本人が指名委員会の委員を務めていた。社内取締役が委員から外れて社外取締役だけになったのは2024年6月で、その体制で決まった最初の社長が中村茂雄氏である。藤江太郎氏の在任が2年10か月にとどまった理由は、まだ会社の側から語られていない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
西井孝明氏の社長就任 2015年6月 取締役社長最高経営責任者。前任の伊藤雅俊氏は同月に取締役会長へ移った
当時の選定の仕組み 役員等指名諮問委員会の答申 社外取締役3名を含む4名で構成する任意の委員会。答申を受け取締役会が候補者を決定
機関設計の変更 2021年6月23日 第143回定時株主総会の決議により監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ
指名委員会の権限 代表執行役社長の選定案の決議 取締役の選解任方針と選解任議案も決議する。委員長は社外取締役が務める
藤江太郎氏の社長就任 2022年4月1日 代表執行役社長最高経営責任者。臨時報告書は2022年4月8日に提出された
交代の位置づけ 中期経営計画の途中でのバトンタッチ 2022年度・2025年度の経営指標の実現に対する責任を引き継ぎ、早期達成を目指すとした
西井孝明氏のその後 2022年6月23日に退任 第144回定時株主総会の終結の時まで取締役と指名委員を務めた
指名委員会の構成の変更 2024年6月25日 社内取締役2名が委員を退き、委員は社外取締役5名のみとなった
中村茂雄氏の社長就任 2025年2月3日 代表執行役社長最高経営責任者。臨時報告書は2025年2月6日に提出された
藤江太郎氏の在任 2年10か月 2022年4月1日から2025年2月3日まで。期の途中での交代となった
藤江太郎氏のその後 執行役会長 2025年6月20日の第147回定時株主総会の終結をもって取締役を退任した
中村茂雄氏を選んだ理由 電子材料事業とブラジルでの実績 味の素ビルドアップフィルムを軸とする事業の立ち上げと成長を牽引した点を挙げた
3代に共通する経歴 ブラジル味の素社社長 西井孝明氏は2013年8月、藤江太郎氏は2015年6月、中村茂雄氏は2022年4月に就任

出所:味の素 有価証券報告書 第137期(2015年3月期)・第144期(2022年3月期)・第147期(2025年3月期)・第148期(2026年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【役員の状況】

味の素:指名委員会の議事の件数

(件) 決議事項審議事項報告事項 備考
2018年3月期 監査役会設置会社の時期。任意の役員等指名諮問委員会の議事は開示されていない
2019年3月期
2020年3月期
2021年3月期
2022年3月期 2021年6月に指名委員会等設置会社へ移行した期。議事の件数は開示されていない
2023年3月期 13174 2022年度は10回開催。決議に代表執行役社長候補者の選定が含まれる
2024年3月期 8155 2023年度は11回開催。審議にCEOサクセッションプランと委員会活動レビュー
2025年3月期 11177 2024年度は13回開催。中村茂雄氏の社長就任が決まった年度にあたる
2026年3月期 12215 2025年度。決議に代表執行役社長の再任が含まれる。開催回数の記載はない
2027年3月期 第149期は未到来
2028年3月期 第150期は未到来

出所:味の素 有価証券報告書 第145〜148期(コーポレート・ガバナンスの状況等)

同じ問いに直面した会社

社長交代と後継指名2023年東京ガス社外が過半を占める指名委員会の審議を経た、5年ぶりの代表執行役社長の交代社長の選定と、執行と監督の分離
2021年三菱ケミカルグループ化学素材を海外で率いた経営者を社外から社長に迎え、報酬とベネフィットの仕組みを構築し替えた社長を社内から選ぶか、社外から迎えるか
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2024年シャープ4年に満たない任期で6代が入れ替わり、指名を社外過半の委員会に委ねる体制短い周期で替わる社長の指名と体制
2020年ドリームインキュベータ創業者と2代目社長の同時退任と、原田・三宅・細野による並立体制の発足経営体制と世代交代
取締役会改革2026年JTJT International S.A. の経営に6年携わった後任への引き継ぎと、8年続いた体制の終わり経営体制の承継
2026年エア・ウォーター社外取締役を社長に据え、現任取締役8名全員の退任と社外過半数の取締役会へ踏み込んだ体制刷新不適切会計を受けた経営体制の刷新と後継の選定
2018年東芝生え抜きによる社長継承の打ち切りと、10年で5人が替わった経営トップ人事経営トップが定着しない10年
2015年任天堂社長不在の2か月を代表取締役2名で凌ぎ、海外販売畑へ託した承継突然の社長不在と後継の選定
2008年SANKYO創業家・毒島家から生え抜きCEO・COO体制・執行役員制度の導入経営体制の承継とガバナンス改革
出典・参考
  • 味の素 有価証券報告書「第137期(2015年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 味の素 有価証券報告書「第144期(2022年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 味の素 有価証券報告書「第145期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 味の素 有価証券報告書「第147期(2025年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【役員の状況】」
  • 味の素 招集通知「第147回定時株主総会招集通知」
  • 味の素 有価証券報告書「第148期(2026年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」

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