味の素 バリュープライシング転換 相次ぐ価格改定の実施と、値付けの考え方そのものの組み替え

更新:

時期 2023年4月
当時の社長 藤江太郎
論点 価格転嫁と収益力
何をなぜ決めたか
概要

2022年から2023年にかけて、味の素が原燃料・物流費の高騰に対し、日本と海外主要国で家庭用製品の出荷価格を相次いで改定した判断。2022年4月に就任した藤江太郎社長のもと、容量を減らして価格を据え置く従来の対応から、提供価値を高めながら単価を上げる側へ方針を変えた。

日本国内は2023年1月のうま味調味料を皮切りに、冷凍食品、マヨネーズ、コーヒー類、スープへと品目を拡大した。2023年3月期の単価は日本国内で104%、海外で108%(現地通貨ベース)となり、売上高1兆3,591億円・事業利益1,353億円・当期利益940億円はいずれもIFRS導入後の最高を更新した。

背景

発酵主原料・副原料と燃料の価格は、過去10年で最も高かった2011年を超える水準で推移していた。日本では物価も賃金も上がりにくい状態が続き、値上げに慎重な空気が根強く、原材料高はまず容量の削減とコストダウンで受け止めるのが通例だった。

藤江太郎社長はフィリピン駐在時代に、1袋10グラムの「味の素®」を1ペソで売り続ける前提を崩した経験を持つ。 『原材料価格高騰時には値上げではなく容量減等のコストダウンで対応していました』 という対応を改め、 『2ペソに値上げしながらも内容量を2倍以上に増やす“More than Double”戦略』 を現地の各部門と実行し、消費者の評価と利益、プラスチックごみの削減を同時に得ていた。

内容

日本国内は、2023年1月に家庭用うま味調味料、2月に家庭用冷凍食品、3月に業務用冷凍食品、4月に家庭用マヨネーズとコーヒー類、6月に家庭用スープ製品等へ改定を広げた。海外はインドネシア、ベトナム、フィリピン、ブラジルの調味料と、タイの飲料・即席麺が2023年1〜3月に続いた。

値付けは原燃料高への一時の対応ではない。2007年度から2021年度までの15年間に、主要5か国15製品で累計50回以上の改定を重ねながら販売数量を伸ばしてきた実績があり、海外コンシューマー製品の単価成長率は2025年度・2030年度とも年3%を定常の目標としている。

含意

第3四半期まで減益だった調味料・食品と冷凍食品は、通期では増益に転じた。調味料・食品セグメントの売上高は7,826億円・事業利益848億円、冷凍食品は2,673億円・20億円で、前期に赤字だった冷凍食品が黒字に戻った。翌2024年3月期の事業利益は1,477億円と過去最高を更新した。

ただし日本国内の数量は96%と前期を下回り、単価の上昇で売上を保つ形になった。海外では単価108%と数量103%が両立しており、価格を上げても選ばれ続けるかどうかは地域と品目で分かれている。

いつ何が起きたか 10件
筆者の見解
筆者の見解

単価を上げて数量を落とさない、という難題

この判断の要点は、上がったコストを価格へ移したことではなく、値付けを「据え置くのが親切」という前提から外した点にある。1コインで売り続けるために容量を削る作法は、生活者の負担を抑えているようでいて、原材料が上がり続けるなかでは製品そのものを痩せさせる。フィリピンでの経験がその前提を崩したのだとすれば、2023年3月期の改定は原燃料高への応急処置ではなく、提供価値と価格を結び直す作業として設計されていたと推察される。海外で単価108%と数量103%が同時に立ったことは、値上げと数量が必ずしも背反しないことを示している。

もっとも、同じことが日本で起きたわけではない。日本国内の数量は96%と前期を下回り、売上は単価の上昇で辛うじて前年を超えた。海外コンシューマー製品の単価成長率が2025年度・2030年度とも年3%に戻る設計であることを踏まえれば、原燃料高のもとでの値上げは平時の値付けへ戻る前提で組まれていたのだろう。原燃料が一巡した後も単価を積み上げられるかは、改定そのものではなく、改定を受け入れさせる製品の中身にかかっている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
価格改定の条件

価格改定の条件

科目 概要 備考
日本の家庭用調味料 2023年1月改定・約2〜16% 家庭用「味の素®」「うま味だし・ハイミー®」等。2022年10月3日に発表した
日本の家庭用マヨネーズ 2023年4月改定・約5〜9% マヨネーズタイプ製品を含む。2023年2月9日に発表した
日本の家庭用スープ 2023年6月改定・約5〜20% 約70品種が対象。2023年3月1日に発表した
日本の冷凍食品 家庭用2023年2月・業務用3月 第3四半期以降の追加的な価格対応として実施した
海外の価格対応 5か国で2023年1〜3月に順次改定 インドネシア・ベトナム・フィリピン・ブラジルの調味料と、タイの飲料・即席麺
日本国内の単価要因 2023年3月期 単価104%・数量96% 売上高は101%。単価の上昇が数量の減少を上回った
海外の単価要因 2023年3月期 単価108%・数量103% 現地通貨ベース。売上高は111%で、単価と数量がともに伸びた
単価成長率の目標 海外コンシューマー製品で年3% 2025年度・2030年度の目標。2021年度実績は4.8%、2022年度予想は約8%
翌期の単価効果 海外コンシューマー製品で約230億円 2024年3月期予想。付加価値向上による事業利益の押し上げ分
改定の積み重ね 主要5か国15製品で累計50回以上 2007〜2021年度。タイ、インドネシア、ベトナム、ブラジル、フィリピンが対象

出所:味の素 決算説明会資料「2024年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み」(2023年5月11日)・「2023年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み」(2022年5月11日)、統合報告書「ASVレポート 2022」、家庭用製品の出荷価格改定に関するニュースリリース(2022年10月3日・2023年2月9日・2023年3月1日)

調味料・食品セグメントの売上高と事業利益

味の素:調味料・食品セグメントの売上高と事業利益

(百万円) 売上高事業利益 備考
2021年3月期 626,78686,796 調味料・食品、冷凍食品、ヘルスケア等の3区分へ変更した最初の期
2022年3月期 670,27781,269 原材料等のコスト増を吸収しきれず、事業利益は前期を55億円下回った
2023年3月期 782,61284,800 第145期の当期欄は事業利益829億円。研究開発費等の配賦変更を遡及適用した後の値
2024年3月期 854,376111,550 改定の通期寄与と海外の単価上昇で、事業利益は前期を267億円上回った
2025年3月期 904,817113,997
2026年3月期 946,048143,036 単価と数量がともに伸び、事業利益は1,430億円に達した
調味料・食品の売上高と事業利益率
売上高(百万円)事業利益率(%)

出所:味の素 有価証券報告書 第143〜148期(連結財務諸表注記 セグメント情報)

冷凍食品セグメントの売上高と事業利益

味の素:冷凍食品セグメントの売上高と事業利益

(百万円) 売上高事業利益 備考
2021年3月期 199,9172,318
2022年3月期 221,765△678 原材料と物流の費用が増え、事業利益が赤字に転じた
2023年3月期 267,3692,013 家庭用は2月、業務用は3月に価格を改定し、通期で黒字に戻した
2024年3月期 282,0239,576 改定の通期寄与で事業利益は96億円へ回復した
2025年3月期 290,1428,040
2026年3月期 291,0268,457

出所:味の素 有価証券報告書 第143〜148期(連結財務諸表注記 セグメント情報)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 味の素 ニュースリリース 2022年1月31日「代表執行役社長の異動について」
  • 味の素 決算説明会資料「2023年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み」
  • 味の素 ニュースリリース「家庭用「味の素®」「うま味だし・ハイミー®」およびアミノ酸含有食品「アミノバイタル®」の一部製品の出荷価格改定について」
  • 味の素 ニュースリリース「家庭用マヨネーズおよびマヨネーズタイプ製品の出荷価格改定について」
  • 味の素 ニュースリリース「家庭用スープ製品等の出荷価格改定について」
  • 味の素 決算説明会資料「2024年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み」
  • 味の素 統合報告書「ASVレポート 2022」
  • 味の素 有価証券報告書「第145期(2023年3月期)【経営成績等の状況の概要】」
  • 味の素 有価証券報告書「第146期(2024年3月期)【セグメント情報】」

免責事項およびポリシー